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147 彼の決断

 果てなく続く廊下を歩いていく。

 一向に変わらない光景に、自分が本当に進んでいるのかどうかもわからなくなるが、振り返ってみると、もはや勇者たちの姿は見えない。


 フォンシエはそれでもしばらく進み続けると、向こうに扉が見えてきた。


(この先に……)


 混沌の地から溢れ出す魔物をどうにかできる方法があるのか。

 もし、なにも手がかりがなかったなら。


 暗い考えを振り払って、彼はいよいよ扉に手をかけた。

 カギがかかっていることもなく、力を込めるとすんなりと開くことができた。


 向こうにあるのは、広々とした一室。またしても、たった一つの石像が置かれている。ほかには何もない。


 彼はゆっくりと進んでいく。

 石像はこの遺跡の上の階で見たものと、さほど違いがない。


 仕組みが同じであれば、前と同じように、神の名前が羅列されるだけだが……。


 一定以上近づくと、ウィンドウが表示された。

 そこにあるのは、フォンシエの名前。そしてレベルやスキルなど。ゼイル王国標準語で表示されている。


「これは……」


 さらに下に目を通していくと、彼に関する情報が事細かに記載されている。

 人種、性別、年齢、体重……。


 事細かに設定されているが、


(いつ測定されたんだ?)


 その疑問に突き当たると、やがて日付を見つける。最終更新日はたった今。

 ということは、瞬時にしてこれらの情報を見抜いたと言うこと。


(女神像は、この計測のためのものだった?)


 あるいは、この石像が通常の機能だけでなく、そうした付加機能を持っているだけか。


 いずれにせよ、女神に祈りを捧げるということは、単なる宗教的な意味合いだけでなく、これらを更新するための機能を持っていたとみるのが妥当なところだ。


 さらに情報に目を通していくと、次第によくわからない文字が見えてくる。


 固有スキルの項目は、「レベル上昇1/100」であるが、その近くにはノイズと思しき表示がある。もっと下の項目は、ぐちゃぐちゃになっていてほとんどが読めない。


(……隠すため? いや、そうじゃない)


 なにかがおかしくなって、生じてしまったエラーの産物だろう。

 注釈と思しきところには、固有スキルの一覧も表示されているが、そこに「レベル上昇1/100」という項目は存在していない。だから、正式なスキルではないはず。


 さらに、わずかばかり読める権限の項目はぐちゃぐちゃになっており、閲覧制限などと書かれたところは空白になっていた。


 きっと、これが彼だけがこの場所に入れた理由だ。


 そして最後に読める文字は、同意の文字。彼がこのフォンシエという人物に相違ないかと尋ねる言葉だ。


「俺は俺だ。お前らが定める人物かどうかなんて、知ったことじゃない」


 女神マリスカの信仰がある者なら、感動して涙を流したのかもしれない。

 けれど、フォンシエはただ力をもらえるから、祈り続けただけなのだ。


 待てども、彼の言葉に対する動きはなかった。


 この文字を受け入れなければ、次には進まないということなのだろう。おそらく断れば、この部屋から追い出される可能性が高い。なにしろ、ほかの者たちは入ることすらできなかったのだから。フォンシエだけが特別なのだ。


 選んだ結果がどうなるのか、彼にはわからない。


 そうであっても、どうにかしなければ、混沌の地の魔物に世界は滅ぼされてしまう。なにか、きっかけを手に入れない限りは。


「さあ、次だ」


 フォンシエが承認するや否や、光が輝いた。それはまさしく、勇者の光。

 そして現れたのは――


「女神マリスカ」


 美しい女性の姿をした彼女は、純白の衣服を纏い、腕や顔などの露出した部分は肌色であった。背には白い翼がある。


「ようこそいらっしゃいました。我が徒よ。あなたの願いを叶えましょう」

「では、地上の魔物を打ち滅ぼし――」


 彼が言い終わる前に、ウィンドウが表示される。


 そこには、いくつかの選択がある。


 レベルの最大化、スキルの取得、寿命の延長、宝物の贈与、武具の贈与、従者の贈与……。


 権力者たちが望むものがここにある。


「女神マリスカ、これは――」

「あなたが積んだ功績に応じ、願いを叶えましょう」


 フォンシエがいくつか、ほかに言葉を述べるも、女神の返答は変わらない。

 改めて彼女を眺めるも、人らしいところは見られなかった。もしかすると、この行いのためだけに生み出された存在なのかもしれない。


 であれば、交渉の余地は存在していない。


 なんとかこの中から、魔物の脅威を退ける選択をしなければ……。


 そう考えていたフォンシエは、他神の滅亡という選択を見つける。


「女神マリスカ、説明を聞くことはできますか」

「なんなりと」

「では、他神の滅亡について、お聞かせください」

「かしこまりました。現在、存在している神の数は87。そのうち、神使を持つものは23です。神との戦闘を行い、殺すと滅ぼすことができます。神を失った神使はその力をすべて失います」


(これだ)


 すべての神を滅ぼせば、魔物は力を失う。そうなれば、この絶望的な状況は乗り越えられるはず。


 そう思った彼の前に、神のリストが表示される。

 しかし――


(倒せるはずがない)


 相手のレベルはすべて100を越えている。最もレベルが高いのは、おそらく混沌の地の神と思しきもの「管理者」だ。レベルは999。


 そして彼我の戦力差が表示されている。そこから察するに、彼のレベルを最大にしても敵わない。勇者であっても、おそらく。


「この選択は推奨しません」

「もし、すべての神を滅ぼすため、ほかの選択を組み合わせて最適化した場合はどうなりますか?」

「最適化された例を表示します」


 スキル「能力吸収」取得。

 神器:神滅剣の贈与。

 従者二名の付与。


 得られるものは、それだけだ。


「管理者を除く神を滅ぼす選択の場合を提示します」


 その場合は、レベル最大化や防具の付与が含まれている。

 しかし、従者二名の付与や能力吸収はない。


 おそらく、彼自身の能力を上げることで、神に対抗する力を得る方針なのだろう。これならば、ある程度安全に神を倒すことができる。


 一方、すべての神を滅ぼす場合は、安全を犠牲にしてでも成長を引き上げた形だ。


 能力吸収によって神の力を得て、戦うたびに強くなる方法だろう。剣と従者の力で最初を乗り切れとのことだろうが、本体はさして強くないまま、神に挑まねばならない。これでは最初の戦闘で死ぬ可能性もある。


 けれど、そうであっても……。


(倒さないと、俺たちが助かる道はない)


 神など滅ぼさずに、ほどほどの力を得て帰ってから、混沌の地の魔物を打ち倒しながら生活することも考えられるだろう。それなら、宝物をもらい、裕福な暮らしをすることもできる。


 けれど、それはその場しのぎの決断に過ぎない。

 彼が寿命でなくなれば、その後どうなることか。また、この場に来ることができるのは、いつになるか。


 彼はどうにも不具合でこの場に来てしまったようだから、二度目の機会があるかどうかはわからない。


(俺は魔物を滅ぼすために、ここに来たんだ)


「管理者を倒すための選択をします」

「では、あなたに力を授けましょう」


 女神が手を差し伸べると、彼はスキル「能力吸収」を手に入れる。そして女神マリスカ同様に、翼の生えた女性が二人、側にやってきた。


 彼女たちはフォンシエに一振りの剣を差し出した。

 きらびやかな一振りの剣は、目を奪われるほどの輝きがある。これならば、神をも切り裂くことができよう。「神器:神滅剣」は手にしただけでその力が伝わってくる。


 しかし、防御に関してはそのままだ。はるか格上の神の攻撃を食らえば、どうなるか、想像に難くない。


 やがて彼に剣を授けた女性二人は、自らも剣と鎧を纏う。神器ほどの強さはないが、立派な代物だ。

 その振る舞いからは、勇者たちを凌ぐ力が感じられた。


「これから神を滅ぼす戦いに挑む。手伝ってくれ」

「どうぞ、我らを存分にお使いください」


 二人が膝をつき、優雅に礼をする。

 これで準備は整った。あとは彼が神を倒すだけだ。


「女神マリスカ。では、最初の神との戦いを」

「あなたに幸運があらんことを」


 女神の姿が消えていく。そして遺跡の入り口の扉が閉まった。

 もう、あとには戻れない。


 そして遺跡の中央に現れる存在があった。


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