141 二頭の魔王と勇者たち
この章で完結となります。よろしくお願いします。
141 二頭の魔王と勇者たち
ゼイル王国カヤラ領には、勇者たちが集まっていた。
フォンシエが率いるその集団は、出身国も年齢もバラバラ。共通しているのは勇者ということくらいだが、まとめているのが村人という調和のなさである。
「フォンシエ、やれそうか?」
尋ねてきたのはアルードである。普段は酔っ払いの彼も、世界の命運をかけた戦いが行われるとなれば、飲んだくれてもいられない。
彼はこの土地で魔物の動向を窺っていたが、それによれば西に向かってくる個体が増えて、魔王が攻めてくるのも時間の問題とのこと。
「きっと勝てますよ。頼りになる勇者たちですから」
彼の隣では、誰よりも頼りになる幼馴染みのフィーリティアが尻尾を揺らしている。
「任せてください!」
と告げる彼女は、自信に満ちあふれていた。フォンシエの隣に立つためには、それくらいでないといけないのだろう。いや、むしろ彼よりも胆力に優れているくらいかもしれない。
そしてゼイル王国最強の勇者ユーリウスとフリートは早く戦いたくてうずうずしている。彼らの目的は戦闘そのものなのだ。
レーン王国の将軍ラスティンの下に集まった勇者たちは、全員が精悍な顔つきをしている。彼らは忠義や平和のために剣を取るのだろう。
「それにしても、こんな好き勝手に生きているような連中をまとめちまうとはな」
「アルードさんがそれを言います?」
「俺は珍しく常識人だからな」
「ということは、断酒宣言ですね」
「馬鹿言うな。なんのために生きているのかわからなくなっちまう」
なんとも彼らしい生き方である。
しばらくそんな話をしていたが、彼らは真面目な顔になる。勇者としての顔だ。
「確かにサンダーバードとスザクはこっちに来ているとはいえ、まだ時間はある。やり残したことがあれば、少しくらいはなんとかなるが……」
「大丈夫ですよ。皆、この日のために準備してきましたから」
フォンシエが視線を向けると、皆が頷くのだがフリートは、
「この日のために、なんと数日もの間、協力しちまったな」
と水を差すのである。たったそれだけでなにができるのか、と言われかねない日数であるが、凡人の何年、何十年にも勝る成果があったはず。
ラスティン将軍はすかさず、
「このメンバーを数日もまとめ上げるとは、たいした手腕だな」
フォンシエを褒めるのだ。
自らの発言を逆手に取られたフリートは肩をすくめる。
「怖いもの知らずのやつばかりだ」
「だからこそ、魔王にも立ち向かえるんじゃないですか。頼りにしていますよ」
フォンシエはそうまとめると、いよいよ東に向かって出発する。
アルードは「こっちは心配いらねえから、魔王をぶっ飛ばしてこいよ」と頼もしく送り出してくれた。
勇者たちは光の翼を用いて進むと、あっという間に街道を駆け抜け、森に突入する。そこから先は魔物の領域。どこに敵が潜んでいてもおかしくない。
フォンシエは探知を働かせて、広域を探っていく。
以前と比較すると、こちらには大翼の魔物が増えている。魔王が移動するのにくっついてきたのだろう。
とはいえ、今は雑魚に構っている暇もない。
フォンシエは最低限の敵のみを倒しながら、東に進んでいく。
(やつはどこだ……!)
多数の反応の中から、魔王を探す。
動いていなければ、うっかり見落とす可能性もあった。
東に向かっている間にゼイル王国が落とされていたのでは、とても笑えない。
だが、そんな心配も無用のものだった。空を飛び回っている巨大な存在が二頭、探知に引っかかった。
「いた。魔王が二頭」
「それじゃ、やっちまうか」
「先にスザクのほうから仕留めます。合わせてください」
どちらか一方を先に倒せば、あとが楽になる。
バラバラに動かれた場合、こちらも分けるのか、それとも倒してから次の相手を狙うのか考えねばならなくなる。前者であれば戦力は半減するし、後者はもたもたしているとゼイル王国が燃え上がる可能性がある。
フォンシエは慎重に敵との距離を詰めていく。
やがて、光の矢が届く範囲になった。すなわち、目視できる状況だ。
木々の陰に潜みながら、彼らは空を見上げる。巨大な鳥が二頭。
雷を帯びた巨大な鳥サンダーバードは動きが早く狙いづらいが、炎に包まれた鳥スザクのほうはややゆったりしている。
フォンシエはスザクに狙いを定めると、好機を待つ。
(まだだ、焦るな。もっと近づくまで動くな)
自分に言い聞かせながら、「野生の勘」や「探知」を働かせつつ敵を見据える。
やがて、炎が近づいてくる。こちらにはまだ気づいていない。
フォンシエはすらりと剣を抜く。そしてこちらに向かってきていたスザクが旋回しようとした瞬間、剣を突きつけた。
「やれ!」
剣と並行に光の矢が生じると、スザク目がけて放たれる。
同時にフィーリティアは光の海を展開し、勇者たちを包み込んだ。勇者の適性を持つ彼女のスキルの恩恵はすさまじく、誰もが普段ではなし得ない集中力で光の矢を放った。
いくつもの攻撃がスザクに向かっていき、やがて炎を貫いた。
「よし!」
並の魔物であれば、即死しているほどの重症だ。フォンシエもそれなりに傷を与えられたのではないかと期待する。
だというのに、その魔物は羽ばたきながら叫び声を上げた。
「クェエエエエエエ!」
炎に包まれた肉体はさしてダメージを負っていないようにも見える。よく見れば、傷口は炎で埋められていた。
そして声を聞いたサンダーバードが勢いよく、彼らのところへと向かってき始めた。
「随分丈夫にできているようだ! しぶとく攻撃を続けて倒すしかない!」
フォンシエは光の翼で舞い上がり、敵を見据えた。
二頭は協調して戦っている風ではない。サンダーバードは好き勝手に飛び回り、スザクはまっすぐに向かってくる。
彼が光の矢を撃ち込むと、注意がますます彼一人に向かう。
すぐさまフィーリティアは地上から光の矢で援護。彼女を中心とした部隊の威力は計り知れないが、空中戦となればばらける可能性があった。
ここで仕留めてしまいたいところだが……
(そうはさせてくれないか!)
フォンシエ目がけてスザクは炎を放った。
咄嗟に回避するも、そのときにはサンダーバードが迫っている。
「フォンくん!」
「俺のことはいい! それより敵を!」
戦いが長引けば、ほかの魔物も集まってくるだろう。
探知には今も近づいてくる存在がある。視線を動かせば、小さな鳥の魔物が向かってきているのも視認できる。
「さあ来い! 俺たちの土地を奪わせるものか!」
フォンシエは迫るサンダーバードを睨みつけた。




