表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/163

141 二頭の魔王と勇者たち

この章で完結となります。よろしくお願いします。


141 二頭の魔王と勇者たち


 ゼイル王国カヤラ領には、勇者たちが集まっていた。

 フォンシエが率いるその集団は、出身国も年齢もバラバラ。共通しているのは勇者ということくらいだが、まとめているのが村人という調和のなさである。


「フォンシエ、やれそうか?」


 尋ねてきたのはアルードである。普段は酔っ払いの彼も、世界の命運をかけた戦いが行われるとなれば、飲んだくれてもいられない。


 彼はこの土地で魔物の動向を窺っていたが、それによれば西に向かってくる個体が増えて、魔王が攻めてくるのも時間の問題とのこと。


「きっと勝てますよ。頼りになる勇者たちですから」


 彼の隣では、誰よりも頼りになる幼馴染みのフィーリティアが尻尾を揺らしている。


「任せてください!」


 と告げる彼女は、自信に満ちあふれていた。フォンシエの隣に立つためには、それくらいでないといけないのだろう。いや、むしろ彼よりも胆力に優れているくらいかもしれない。


 そしてゼイル王国最強の勇者ユーリウスとフリートは早く戦いたくてうずうずしている。彼らの目的は戦闘そのものなのだ。


 レーン王国の将軍ラスティンの下に集まった勇者たちは、全員が精悍な顔つきをしている。彼らは忠義や平和のために剣を取るのだろう。


「それにしても、こんな好き勝手に生きているような連中をまとめちまうとはな」

「アルードさんがそれを言います?」

「俺は珍しく常識人だからな」

「ということは、断酒宣言ですね」

「馬鹿言うな。なんのために生きているのかわからなくなっちまう」


 なんとも彼らしい生き方である。

 しばらくそんな話をしていたが、彼らは真面目な顔になる。勇者としての顔だ。


「確かにサンダーバードとスザクはこっちに来ているとはいえ、まだ時間はある。やり残したことがあれば、少しくらいはなんとかなるが……」

「大丈夫ですよ。皆、この日のために準備してきましたから」


 フォンシエが視線を向けると、皆が頷くのだがフリートは、


「この日のために、なんと数日(・・)もの間、協力しちまったな」


 と水を差すのである。たったそれだけでなにができるのか、と言われかねない日数であるが、凡人の何年、何十年にも勝る成果があったはず。


 ラスティン将軍はすかさず、


「このメンバーを数日もまとめ上げるとは、たいした手腕だな」


 フォンシエを褒めるのだ。

 自らの発言を逆手に取られたフリートは肩をすくめる。


「怖いもの知らずのやつばかりだ」

「だからこそ、魔王にも立ち向かえるんじゃないですか。頼りにしていますよ」


 フォンシエはそうまとめると、いよいよ東に向かって出発する。

 アルードは「こっちは心配いらねえから、魔王をぶっ飛ばしてこいよ」と頼もしく送り出してくれた。


 勇者たちは光の翼を用いて進むと、あっという間に街道を駆け抜け、森に突入する。そこから先は魔物の領域。どこに敵が潜んでいてもおかしくない。


 フォンシエは探知を働かせて、広域を探っていく。

 以前と比較すると、こちらには大翼の魔物が増えている。魔王が移動するのにくっついてきたのだろう。


 とはいえ、今は雑魚に構っている暇もない。

 フォンシエは最低限の敵のみを倒しながら、東に進んでいく。


(やつはどこだ……!)


 多数の反応の中から、魔王を探す。

 動いていなければ、うっかり見落とす可能性もあった。


 東に向かっている間にゼイル王国が落とされていたのでは、とても笑えない。

 だが、そんな心配も無用のものだった。空を飛び回っている巨大な存在が二頭、探知に引っかかった。


「いた。魔王が二頭」

「それじゃ、やっちまうか」

「先にスザクのほうから仕留めます。合わせてください」


 どちらか一方を先に倒せば、あとが楽になる。

 バラバラに動かれた場合、こちらも分けるのか、それとも倒してから次の相手を狙うのか考えねばならなくなる。前者であれば戦力は半減するし、後者はもたもたしているとゼイル王国が燃え上がる可能性がある。


 フォンシエは慎重に敵との距離を詰めていく。

 やがて、光の矢が届く範囲になった。すなわち、目視できる状況だ。

 木々の陰に潜みながら、彼らは空を見上げる。巨大な鳥が二頭。


 雷を帯びた巨大な鳥サンダーバードは動きが早く狙いづらいが、炎に包まれた鳥スザクのほうはややゆったりしている。


 フォンシエはスザクに狙いを定めると、好機を待つ。


(まだだ、焦るな。もっと近づくまで動くな)


 自分に言い聞かせながら、「野生の勘」や「探知」を働かせつつ敵を見据える。

 やがて、炎が近づいてくる。こちらにはまだ気づいていない。


 フォンシエはすらりと剣を抜く。そしてこちらに向かってきていたスザクが旋回しようとした瞬間、剣を突きつけた。


「やれ!」


 剣と並行に光の矢が生じると、スザク目がけて放たれる。

 同時にフィーリティアは光の海を展開し、勇者たちを包み込んだ。勇者の適性を持つ彼女のスキルの恩恵はすさまじく、誰もが普段ではなし得ない集中力で光の矢を放った。


 いくつもの攻撃がスザクに向かっていき、やがて炎を貫いた。


「よし!」


 並の魔物であれば、即死しているほどの重症だ。フォンシエもそれなりに傷を与えられたのではないかと期待する。


 だというのに、その魔物は羽ばたきながら叫び声を上げた。


「クェエエエエエエ!」


 炎に包まれた肉体はさしてダメージを負っていないようにも見える。よく見れば、傷口は炎で埋められていた。


 そして声を聞いたサンダーバードが勢いよく、彼らのところへと向かってき始めた。


「随分丈夫にできているようだ! しぶとく攻撃を続けて倒すしかない!」


 フォンシエは光の翼で舞い上がり、敵を見据えた。

 二頭は協調して戦っている風ではない。サンダーバードは好き勝手に飛び回り、スザクはまっすぐに向かってくる。


 彼が光の矢を撃ち込むと、注意がますます彼一人に向かう。


 すぐさまフィーリティアは地上から光の矢で援護。彼女を中心とした部隊の威力は計り知れないが、空中戦となればばらける可能性があった。


 ここで仕留めてしまいたいところだが……


(そうはさせてくれないか!)


 フォンシエ目がけてスザクは炎を放った。

 咄嗟に回避するも、そのときにはサンダーバードが迫っている。


「フォンくん!」

「俺のことはいい! それより敵を!」


 戦いが長引けば、ほかの魔物も集まってくるだろう。

 探知には今も近づいてくる存在がある。視線を動かせば、小さな鳥の魔物が向かってきているのも視認できる。


「さあ来い! 俺たちの土地を奪わせるものか!」


 フォンシエは迫るサンダーバードを睨みつけた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ