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14 中央買い取り所

 手近な林にいる魔物の討伐を終えたフォンシエは、北に向かっていた。

 思っていたよりも時間がかからなかったため、まだ日没までに時間があるのだ。


 だから果たして戦争が起きるほどの状況なのかどうか、そして仮に起きた場合どのような状況になるのか、あらかじめ身をもって感じておきたかった。


 都市の近くの林と違って、そちらはなかなかに薄暗くなっている。


 北の魔王モナクは王といっても、街を作ることもなく、自由に魔物を生活させている――そもそも魔王は他の魔物に干渉することはほとんどなく、ただ力で従えているだけのものが多い――ため、進んでいくほどに自然が多くなり、そこに魔物が住んでいるという状況が増えていく。


 しかし、まだ都市の近くであれば傭兵たちや魔物討伐を生業としている者たちが入っているため、そこまで草木がうっそうと茂っているわけでもない。


 誰かが踏みならした地面を彼もまた踏みしめた。


 そうして少し奥へと進むと、すぐに物音が聞こえてきた。それから察するに、いくつかのものが動いているようだ。


 ゆっくりと近づいていくと、木々の向こうで動く緑色の小鬼が見つかる。

 息を潜めて数を確認していく。ざっと眺めただけで、二十体はいる。


 それらは倒したばかりらしい鹿の肉を皆で貪っていた。


(……なるほど。これほど多いと、たかがゴブリンでも脅威になるのか)


 すでにゴブリン程度なら十数体いようが倒せる力はあるが、背後から不意の一撃を食らわないとも限らない。


 フォンシエは慎重にいくことにした。

 連弩を構えると距離をじりじりと詰め、近い個体へと射出。矢は狙いどおりに飛んでいき、ゴブリンの頭を射貫いた。


 狩人のスキル弓術があるため、正確な狙いをつけることができていた。


 倒れていく同胞の姿に、やつらは気づいていない。それよりも、我先にと肉を食らうことしか考えていないのだ。


 フォンシエは立て続けにレバーを引くと、矢が次々とゴブリンを射貫いていく。

 そして一体のゴブリンが鹿の肉に頭から突っ込んだところで、他のゴブリンはようやく気がついた。


 襲撃を受けている、と。


「グギャア!」


 仲間に知らしめるべく頭を上げて叫ぶ一体は、絶好の的となり射貫かれる。


 そうして矢がなくなったところで、フォンシエは連弩を腰にしまい、剣を抜く。


(……よし!)


 すっかりうろたえているゴブリンのところへと飛び込むと、一閃。一撃で首をはねる。


 背後を取られないように気をつけつつ敵を襲い、ときに蹴り飛ばし、ときに投げ飛ばし、仕留めていく。


 一呼吸の間にすべてを倒すと、彼はようやく、残ったゴブリンの一部分と魔石を回収し、それから連弩の矢を拾った。鏃が曲がっているわけでもなければ、まだ使えるのだ。


 袋の中にはすっかり魔物の一部分がぎゅうぎゅう詰めになっている。これからは予備の小袋を使うことになるだろう。


 魔物の一部分を一緒に持っていけば高くなるということだが、かさばって邪魔になるため、案外そこまでお得感はない。


(もう少し探ったら、帰ろう)


 フォンシエはそれからさらに北へ向かうと、ゴブリンやコボルトがわんさか出てくる。

 しかし上位の個体はほとんどいないので、おそらくあぶれた魔物が南に押しやられたということなのだろう。


 それらを仕留め、予備の小袋が一杯になると、フォンシエは踵を返した。


(これならむしろ、荷物持ちを雇ってもいいかもしれない)


 それくらいの差額なら問題なく稼げるだろう。

 とはいえ、パーティならともかく、たった一人で北に行くという偏屈な人物についてきてくれる者がいるかどうか。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて都市が見えてきた。日は傾いているが、日没までには時間がある。


 急ぐこともなく門のところに辿り着くと、今度は門番が顔を知っているために問答もなく通されることになった。


(おかしな話だけれど、なにも言われないというのがなんだか物足りなく感じるなあ)


 コナリア村近くの都市で門番と会話することが多くなったせいか。

 お互い名前も知らないのに、なにかと話す奇妙な関係だが、フォンシエはなかなか気に入っていたのだろう。


 しかし、この都市ではそんなこともあるまい。


 彼は街中をぶらぶらと歩きながら、


(中央買い取り所に持っていけばいいという話だったな)


 と、思い出す。

 場所は詳しく聞いていないが、行けばわかるだろう。


 フォンシエはぶらぶらと進んでいく中、鎧を纏った人物が一様に中心へと向かっていくのを見て、なにかあるのかと首を傾げた。


 その流れに沿っていくと、話に聞いていた中央買い取り所が見えてくる。

 フォンシエは中に入ると、従業員に尋ねて魔石の買い取りを行ってもらうことにした。


 そちらの窓口に行ってみると、先ほどの男たちは特に見当たらない。

 フォンシエは気になったので、魔石の査定が行われている間、何気なく尋ねてみる。


「多くの人がいたみたいですが……なにかあったのですか?」

「はい。大規模な魔物の巣が見られたため、明日、襲撃を行うことになりました。そのため、一般の方にも傭兵として募集がかかっております」

「なるほど。なにか職業による制限などがあったりしますか?」

「基本給は職業とレベルにより決まりますが、その後の倒した魔物で変動いたします。詳しいことは、あちらの窓口にお尋ねください」


 そうして示された遠方では、男たちが集まっているのが見えた。


 彼らも詳しいことを把握しているわけではないらしく、この急な仕事を聞きに来たようだ。人によっては、自分には合わないと思ったのか、来てすぐに帰る者もいる。


 それからしばらくして魔石の買い取りが終わると、フォンシエはもらった金額に満足する。


 ここはおそらく、魔石を国内外のあちこちに供給する拠点ともなっているのだろう。業務はすっかり合理化され、都市や国からも兵を集めるための補助金が出ているようで、いい値で買い取ってもらえていた。


 時間ができると、フォンシエも傭兵の仕事を聞きにいってみる。短期間でできることならば、とても都合がいい。


 近づいていくと、仔細が書かれた紙が貼られているようだが、フォンシエは背が大きいわけでもないので、背伸びしてもいまいち見えない。


 屈強な男たちの間をなんとかかいくぐって近くに行くと、そこに書かれている文字を読み始める。


 仕事内容は、オーガの巣を襲撃する、というものだ。

 オーガは巨体の鬼であり、魔人の中では強力な個体だ。個体数はあまり多くないが、下位種のオーガでさえ、一体一体がゴブリンやコボルトの上位種に匹敵する力がある。


 そのことを考えると、帰っていく者がいるのも頷ける。

 しかも何十体もいるらしく、とても放置してはおけないということで、今日発見したにもかかわらず、出発が明日の朝になっている。


(オーガか。レベルを上げるには都合がいいけれど、無理に強い魔物で上げる必要もないんだよな)


 ゴブリンでは物足りないが、ホブゴブリンかコボルトリーダー辺りならば丁度いいのだ。それらを倒していきたいのだが、そんなに都合よくもいかない。


 どうやらそれら一つ上位の魔物は、十数の下位の魔物を従えて存在しているようだから。

 

 きっと、魔王モナクがそうした集団を作るように指示したのだろう。

 となれば、本格的に攻め込もうとしてきている可能性もある。一人で北の深くまで行くのは危険を感じずにはいられない。


(でも、この機会ならそこまで危険なく近づける)


 見ていると、どうやら都市の兵たちが中心となって戦うらしく、傭兵はおまけのようなものだ。


 それにフォンシエが登録するとなれば、村人レベル3だ。たいした役割なんて任されやしないだろう。


 いろいろと条件を確認した後、彼はその依頼を受けることにした。

 そうすると、すぐに別室に案内される。必要事項を記載し登録すると、女神マリスカに仕える聖職者がやってきた。


 彼らは皆、女神から職業・聖職者を与えられた者たちだ。そうでない者は、業務を行えないと規則で決められている。


 聖職者が紙の情報を見た後、フォンシエに尋ねる。


「これから『女神の啓示』を使用しますが、よろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」


 女神の啓示は50ポイントで取れる聖職者のスキルだ。

 女神マリスカから与えられた職業とレベルを見ることができるものである。


 相手は使用されたことがわかるため、こっそり覗くことはできないが、自分より下のレベルであれば問答無用で開示でき、上の場合は許可があれば見ることができる。


 それにより、記載が嘘でないか確かめることができる。

 たまに自分の職業やレベルを偽って高い給料を得ようとする者がいるため、このような手順を踏むことになったのだ。


 聖職者はフォンシエと紙を何度か見比べ、それから顔に疑問を浮かべながら、


「確かに村人レベル3です」


 と告げるのだった。

 おそらく、小数点以下が表示されていたため、困惑したのだろう。しかし、不具合かなにかだと思ったようだ。


 案内業務を行っている者は、村人レベル3には興味も示さず、さっさと業務を終わらせる。


 そうして暇になったフォンシエは、明日までこの街中を見てもいいのではないか、と思い始めた。


 たまの骨休めである。


(……といっても、誘う相手もいないけれど)


 だけど、彼女の隣に立つ日まで、そこは空席でいい。

 フォンシエは明日の戦いを前に、街へと繰り出した。

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