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138 迫られて


 アルードはフォンシエたちを見つけると、まじまじと眺める。


「なるほど。こりゃあ、立派な顔ぶれだ。世界征服でも始めるのか?」

「もし、そんなことになったら、ろくでもない世の中になりますよ」

「まったくだ。ろくなやつがいねえ」


 アルードはユーリウスとフリートを見て、頷くのだ。

 フィーリティアは困惑気味に狐耳を動かしていたが、ほかの誰もが尋ねないので、話を切り出した。


「アルードさん、なにかあったんですか?」

「ああ。お前さんたちが混沌の地に行っている間、東の調査をしていたんだが……どうにも、大翼の魔物が次第に西に来ているみたいでな。ほかの種族の魔物も対抗しているんだが力及ばず、このままだと、およそ一週間後にゼイル王国に辿り着く」


 フォンシエは息を呑んだ。


「……一週間、ですか」


 その期間はあまりにも短く感じられた。

 いかにレベルを早く上げられるとはいえ、あの二頭の魔王との力の差を、どれほど縮めることができるか。

 

 彼が考えている隣で、フィーリティアは微笑んだ。


「フォンくん、大丈夫だよ。私も次は負けないから」


 そしてフリートは嬉しげに笑う。


「言うようになったじゃねえか。初めて会ったときはひよっこだったってのに」

「初めて会ったときから、フリートさんも変わりましたよね」

「そうでもねえぞ。今でも、強くなったお前と戦うのも楽しみにしているからな」

「そうですか。でも、私は興味がないです」

「……言うようになったじゃねえか」


 フリートは眉をひそめながらも、やはり愉快そうに彼女を見るのだった。

 フォンシエはそんな頼もしい連中を眺める。


 誰もが負けるつもりはない。

 が、ラスティン将軍旗下の一人が尋ねてきた。現実的な問題として、考えねばならないことがある。


「……実際のところ、どれくらいの戦力差があるのでしょうか?」

「絶望的なほどではないけれど……相手は空を飛ぶんだ。時間がかかったら、敵が逃げ回っているうちに、国は焼土になってしまう」

「なるほど。そういうことですか」

「あと、できれば全員が光の海まで取ってくれるとありがたい」


 勇者と言っても、スキルポイントボーナスの多さなど、固有スキルによって能力には幅がある。


 中には、高レベルでも光の矢なども取れない者もいる。勇者のスキルを最後まで取るには、2500ポイントも必要なのだ。


 幸いにも、ここにいる者たちはそこそこのスキルポイントボーナスをもらっている者たちだ。全員が光の海まで到達できる可能性がある。


「あと四日、ここでレベルを上げましょう。そして五日後に遺跡のケルベロスを討伐。六日後には、敵を迎え撃つために移動します」


 フォンシエの案に異論はないようだった。

 そうして話がまとまりかけたところで、ユーリウスが告げる。


「ほかの勇者たちはどうする? まだ続けるのか?」

「始めたからには、投げ出すわけにはいかないでしょう。雑魚を回すようにして、レベルが上がりそうな魔物はこちらで討伐させてもらいます」

「それなら時間もかからないな」

「もし、同行したくないのであれば、その間は俺だけでやりますが、どうしますか?」

「村人に我々の正義が負けることがあってはならない。より多くの魔物を殺そう」


 相変わらずのユーリウスである。

 フォンシエは、


「別に俺は魔物を殺すことに生き甲斐を覚えているわけでもないんだけどな」


 と呟くと、フィーリティアは「フォンくんは優しいからね。魔物が襲ってくるから戦うだけだよ」と頷く。


 が、フリートは「世界一魔物をぶっ殺している村人が言うことかよ」と、彼の甘さを笑うのであった。


 そんな一行は、それから変わらない日々を送る。いや、それまで以上に長く、魔物を倒す時間が増えた。


 ゼイル王国からレーン王国に移り、そこから西国を経由してガレントン帝国に向かう。そして四日後に再びゼイル王国に戻ってきたときには、彼らのレベルは村人を除き、上がりにくくなっていた。


 そうしていよいよ、翌日にはケルベロス討伐に向かう晩となる。

 勇者たちは思い思いに、時間を過ごしていた。そして村人も。


「こんなにもうまくいくのであれば、早くから始めておけばよかったかな」


 フォンシエは思わず呟いてしまうが、


「フォンくんの探知があるからだよ」


 とすぐに突っ込みがあった。この計画は、彼の実力が確かであることが最低条件だ。そう考えると、もっと早くレベルを上げていればよかったと実感する。


 が、なんにせよ、ここまでは十分な結果を出せた。この数日間で、ケルベロスに挑む勇者たちのレベルは全員70を超えており、中には80を突破した者もいる。


 フィーリティアもその一人であった。


「そういえば……ティアはなんのスキルを取ったの?」

「光の証と、癒やしの力を取ったよ。これで、フォンくんが怪我をしても大丈夫だよ」

「……遺跡でのこと、気にしてた?」

「そういうわけじゃないけど、フォンくんはいつだって、ボロボロになってるから。私が治してあげる」

「ありがたいけれど、できるだけ世話にならないようにしないとね」


 ぱたぱたと尻尾を揺らすフィーリティアに、フォンシエは頬をかいた。今でさえも頼っているのに、これ以上は頼れないと。


「それにしても……ティアはやっぱり、どんどん先に進んでいくね」


 光の証を得た彼女は、今や誰よりも「癒やしの力」が得意になった。

 勇者の適性を持つ「光の証」で強化されたそのスキルは、どれほどの効果を発揮することか。


 村人のフォンシエよりも、はるかに強力なことは間違いない。


「でも、これ以上は取れないよ」


 レベル80を超えた今、上げようと思っても敵がいない。あとは混沌の地の魔王くらいのものだ。


「次々スキルを取られたら、どんなに頑張っても俺が追いつけなくなっちゃうよ」

「ふふっ。じゃあ待ってるね」


 フィーリティアはフォンシエの目の前で、尻尾を振りながら「追いかけてね」と甘えるのだった。


「……明日は早い。そろそろ寝ようか」

「うん。頑張ろうね」


 フォンシエはフィーリティアを寝室に誘った。

 二人で横になりながら、あのケルベロスを思い出す。


(俺は強くなった。そして強い味方もいる)


 だから負けやしない。

 フォンシエはなかなか寝付けなかった。


 そして翌日。村人を先頭に、初めての混沌の地の魔王討伐作戦が始まった。


 ゴブリンを蹴飛ばし、コボルトを踏み潰し、オーガを切り倒して止まらずに進んでいく。


 あっという間に遺跡に到着すると、誰もが息を呑みながら、慎重に近づいていく。

 いつ、業火が放たれるかもわからない。ここから先は「探知」もうまく働かない。


 じりじりと距離を詰め、遺跡の壁に到着。張りつきながら、中を窺う。

 フィーリティアは狐耳を動かすと、音を拾っていく。いた。見つけた。


 彼女が合図を出すなり、勇者たちが一斉に動き出す。窓から侵入すると通路へ。そこには、闊歩しているケルベロスの姿があった。


「行くぞ!」


 光の矢が一斉に放たれる。そしてすぐに気がついたケルベロスが吠えた。

 戦闘が始まった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今年も残すところ、あとわずかとなりました。一年間、拙作にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


今年は忙しくWEBの更新時間があまり取れなかったのですが、楽しみにしてくださる皆様のおかげで、なんとか続けることができました。

書籍の3巻も無事に出すことができ、来年の4巻へとシリーズを続けることもできそうです。ありがとうございます。


WEB版につきましては終盤に差し掛かり、フォンシエとフィーリティアの戦いも終わりに向かいつつあります。最後までお付き合いいただけますと幸いです。


本年は大変お世話になりました。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

良いお年をお迎えくださいますよう、お祈りしております。

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