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137 勇者たちと、息を一つに

 早朝からフォンシエたちは混沌の地にやってきていた。


 今回はゼイル王国の勇者たちだけでなく、ラスティン将軍らレーン王国の者や、ユーリウスとフリートも来ているため、かなりの大所帯になっている。


 彼らが混沌の地の遺跡、ケルベロスに挑もうとしているのを知らない者たちは、なぜこんなところに来ているのかと疑問に思っていたようだが、暴れん坊のユーリウスとフリートがいるため、すっかり萎縮してなにも言えなくなっていた。


「なあフォンシエ、まだ見つからねえのか?」


 フリートがうずうずした様子で尋ねると、勇者たちがビクッと震える。

 一方でフォンシエはけろりとして返す。


「あちこちにいますよ。近いところから行きましょうか」

「おう、案内頼むぜ」


 楽しげなフリートの顔を見て、ゼイル王国勇者たちは顔を見合わせた。なにかあるのではないか、と。


 そんな彼らであるが、フリートたちが勢いよく動き始めると、置いていかれまいとついてくる。彼を怒らせたくないのもあるだろうが、同時に一緒にいれば強敵が来てもなんとかなる安心感もあるのだろう。


 フォンシエは探知のスキルを使いながら敵を見つけると、フリートに指示を出す。


(果たして、フリートさんやユーリウスさんは予定どおりにやってくれるだろうか?)


 フリートは喜々として魔物を嬲り殺すかもしれないし、ユーリウスは我慢できずに魔物の息の根を止めてしまうかもしれない。


 そんな不安を抱いたフォンシエだが、フリートはコボルトを見つけると両足をへし折って動けなくし、ユーリウスはゴブリンの腕を切り飛ばした。


「これでいいのだろう?」

「ええ。レベルの低い方が倒してください」


 ほかの勇者の仕事は、安全に魔物に引導を渡していく。

 実に簡単な役割だ。


「まさか……フリートさんが分け与えてくれるとは……」


 ただでさえ、パーティを組んで戦うことが滅多になかった二人だ。獲物を独占することないのは意外も意外。


 不思議そうにしていた彼らであるが、やはりユーリウスとフリートの中身は変わっていないので、休む間もなく次の獲物のところに飛んでいってしまう。


 そうして片っ端から敵を倒していくことしばらく。

 勇者たちがくたびれてくると、フリートのほうから休憩を申し出てくる。


「フォンシエ。少し休む時間を取ってやったほうがいいんじゃねえか?」

「ええ。ではそうしましょうか」


 フォンシエがほかの勇者たちに、いったんゼイル王国に戻るように告げて、彼らが動き始めると、フリートは続ける。


「遺跡の方角はどっちだ?」

「……まさか、挑むつもりですか?」

「そいつはあとのお楽しみって言ったじゃねえか。ただの予行演習だ」

「それなら、俺も同行しますよ」

「お、サービスがいいな」

「フリートさんを一人にしたら、どうなるかわかりませんから」

「お前だって似たようなもんじゃねえか」

「俺にはティアがいますから」


 フォンシエが胸を張ると、フィーリティアは尻尾をぱたぱたと揺らしながら、はにかんだ。


「フォンくんの手は握っているので、大丈夫です!」


 フィーリティアはぎゅっと、彼の手を握る。そしてフォンシエも握り返した。


 勇者たる彼女と隣に並び立てること、そして同じ目的へと向かっていけること。ただの村人としての運命を拒んで、ようやくここまで辿り着いたのだ。


 誰にも負けない最強の勇者の隣へ。


 彼の考えを知ってか知らずか、フリートは「お熱いねえ」なんてからかうばかりだった。


 そんなフォンシエたちであるが、遺跡に近づいていくと、誰もが気を引き締める。

 木々をかき分けながら進んでいき、やがて視界が開ける。荒れ地の向こうには、一つの無機質な構造物が鎮座している。


「あれが遺跡か」


 ラスティン将軍はここに来るのが初めてらしく、驚きの声を上げる。一方で、フリートとユーリウスはまじまじと眺めていた。


「変わってねえな」

「ああ。まったく」


 二人して、そんな調子であるからフォンシエは首を傾げた。


「ここに来たことがあるんですか?」

「立ち寄っただけだ。……俺たちのレベルはいくつだ?」

「70代ですよね。ああ、そういうことですか」


 レベルが上がれば上がるほど、強敵を倒さなければレベルは上がらなくなる。ここまで来ると、相手になるのは魔王だけだが、その数は少なく、魔王討伐だけで70にしようとすると老齢までかかってしまう。


 つまり、若くして高レベルになるということは、レベルが高い混沌の地の魔物を倒し続けたということだ。


「ここでレベルを上げているうちに、フリートが魔物を引き連れて逃げてきたんだ」

「ありゃ俺のせいじゃねえ。ユーリウスが「何体であろうが倒すから連れてこい」って言うから、盛りだくさんの贈り物をしてやったってのに、受け取り拒否したんだろうが」

「同時に相手をするのは効率が悪い。フリートを囮にしたほうが都合がよかったというのに、遺跡に逃げ込むのだから、諦めるのは仕方がないことだった」


 二人が過去の言い合いをしているところを見て、フォンシエはふと、昔のことを思い出した。


 彼らはこの土地で一緒にレベルを上げたようだが、フォンシエが初めてここに来たときは一人だった。フィーリティアがカヤラ国に行くというので、置いていかれて、勇者にはなれないのだとふて腐れていたのである。


「フォンくん。魔物は?」

「相変わらず、あの遺跡の中は探知が働かないみたいだ。だからいるのかどうかはよくわからないや」

「それなら、ちょっとばかし覗いてみるとするかね」


 フリートがひょいと木陰から身を乗り出して、荒れ地の方へと向かい始めた瞬間――


「危ない!」


 フォンシエが叫んだ直後、遺跡が赤く輝いた。

 業火だ。炎が放たれたのだ。


 すさまじい熱をともなったそれは、フリート目がけて向かってくる。当たれば骨も残らないだろう火球を前にして、彼は口角をつり上げた。


「随分と熱い歓迎じゃねえか!」


 光の翼で急加速し、火球を回避する。

 フォンシエたちも巻き添えを食らわないように移動したときには、すでに彼は遺跡のほうへと動いていた。


「フリートさん!」

「わかってる! ほんの挨拶をしに行くだけだ!」


 彼は距離を縮めると、遺跡の窓へと視線を向ける。

 そこからわずかに覗いているのは、獰猛な牙。ぎょろりと剥いた目。


「さあ! お返しだ!」


 フリートは剣を抜き、切っ先を虚空へと突きつける。

 直後、まばゆい光が生じ、巨大な矢を形成していく。


 そして鋭い軌跡が描かれた。


「グォオオオオオ!」


 響き渡るのは、ケルベロスの咆哮。耳の付け根はえぐれて血が流れ出しており、流れた滴が眼に入って赤く染まっていた。


「はっ! 犬っころが。気分はどうだ!」


 フリートが光の矢を撃ち込むと、ケルベロスは頭を向けてくるが、遺跡のサイズの都合上、隙間から抜け出すことができない。


 グルル、と唸り声を上げていたが、フリートが数度光の矢を撃つと身を翻していった。


 フォンシエはその様子を見ながら、確信する。


(高レベルの勇者であれば、強敵をも切り裂くことができる)


 光の海による強化があれば、打ち倒すこともできるだろう。

 しかし……。


(俺にその効果は及ばない)


 勇者ならざる村人は、光の海で強化されることはないのだ。


 フォンシエは光の証を使ってみる。剣術などのスキルを強化すれば、切断力を上げることができる。勇者のスキル単体の威力が劣っていたとしても、これらを大量に使えば……。


「フォンくん、なにか音が……」


 フィーリティアが狐耳を立てる。

 フォンシエは探知を働かせると、向かってくる存在に気がついた。


「魔物か。さっきの炎の物音を聞きつけてきたのかな。……数は十くらい。中型の魔物だと思いますが、どうしますか?」


 フォンシエが尋ねると、ユーリウスは「当然、切り倒す」と告げ、いつの間にか戻ってきていたフリートは「今度は逃げねえんだな」と茶化す。


 そしてラスティンは部下の勇者たちを見てから、「戦おうではないか」と剣を抜いた。


 彼らが臨戦態勢になり、やがては魔物が飛び出した。


「ブモォオオオオオ!」


 現れたのは人型の豚。大人の倍はあろう体高を持つ魔物、オークロードである。

 レベル60はあろう強敵だが……


「撃て!」


 光の矢が十数、一斉に放たれると蜂の巣になり、一瞬にして頭は消し飛んだ。


 さらに十数のオークロードが飛び出すと、ユーリウスは光の海を使用する。


「一気に片をつける」


 光に包まれた彼は一瞬で距離を詰め、敵の首を刎ねた。

 そしてフィーリティアも光の海の恩恵を得て、急加速。光の翼をはためかせながら舞い、軽々と敵を倒していく。


「若者に負けてはいられないな」


 ラスティン将軍は外套をはためかせると、魔王との戦いで失った腕が露わになる。

 そこにあったのは骨の腕。しかし、精密な機械のような美しさもあった。


(あれは……金属と、魔物の骨?)


 義手にしては、あまりにも珍妙なそれは、次の瞬間、自ら動き出した。

 いくつもの骨片と金属の接合部が変化し、広がりを見せていく。そこには「光の剣」が用いられており、勇者の輝きがある。


「行くぞ!」


 ラスティン将軍はさっと飛び込むと、オークロードの頭を義手でむんずと掴む。その直後、グシャリ、と音を立てて頭がいくつにも別れた。光の剣の切断力の前では、魔物の頭蓋骨もリンゴと大差ない。


「勇者の光を与えるための金属と、死霊術で動かすための死んだ魔物の骨を仕込んだ義手ですか」

「フォンシエ殿が、魔王との戦いで、死霊術により魔物の死体を動かしていることから閃いてな。腕があったときより、むしろ強くなった気がするぞ」

「……だとしても、普通は忌避したり、やらないことだと思いますが」

「それを君が言うかね?」


 フォンシエは苦笑いしていると、フィーリティアが隣にやってきて、


「そこがフォンくんのいいところなんです」


 と、笑うのだ。

 ラスティン将軍の配下たちも、負けていられないと敵に切りかかっていく。


 力をつけようとしているのはなにもフォンシエだけではない。そしてこの集団ならば、どんな魔王だって倒せそうな頼もしさがあった。


「俺も負けていられない」


 フォンシエは「気配遮断」と「鬼神化」のスキルに光の証を使用して強化すると、力強く地を蹴って飛び出し、光の翼で加速する。そして敵が気づかぬ背後から奇襲すると、一振りで仕留めた。


 誰もが苦戦するような魔物も、いつしかすべて地に転がっている。


「さあ、休憩は終わりだ。ものぐさ勇者どもを引っ張ってこねえとな」


 フリートが促すと、フォンシエも頷き、ゼイル王国へと戻っていく。


 レベル上げも順調に進んでいるとフォンシエは安堵するのだったが、勇者たちのところに戻ると、彼らはいつになく騒がしかった。


「なにかあったんですか?」


 フォンシエが進み出ると、勇者たちの中から、酔っ払い勇者アルードが顔を出した。いつも赤ら顔の彼が今は、素面で真剣な顔つきをしていた。


いつもお読みいただきありがとうございます。今日はクリスマスイブですが、私には残念ながら楽しい予定もないので、普段どおりの更新です。


クリスマスプレゼントと思って、今週末に発売される3巻を買っていただけると嬉しいです(笑)

WEB版ともども、よろしくお願いします。

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