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132 マミーロード


 マミーロードを筆頭に、数多の魔物が迫ってくる。

 フィーリティアは狐耳を動かしてそれらの立てる音を拾いながら、視線を背後に向ける。


 フォンシエは「天国の門」の維持に集中しており、戦うことはできない。なんとかその間守らなければならないだろう。


「グガアアアアアアア!」


 咆哮を上げながらマミーロードが拳を振り上げると、フィーリティアは剣を構えて迎撃の態勢を取る。


 しかし、彼女は狐耳を動かすと、ぱっと飛び退いて光の矢を放った。

 狙う先は前ではなく、背後。フォンシエのところへとがれきが投げつけられていたのだ。光の矢はそれをしかと撃ち抜くも、その隙にマミーロードはさらに距離を詰めてきていた。


 拳が振り下ろされると、フィーリティアは光の盾を使用する。

 ガンッ!


 大きな音を立てながら拳は受け止められるが、その隙にもほかの魔物が回り込んでくる。


「行かせない!」


 フィーリティアはすかさず左右二体の敵を切り裂くが、敵はその横を通り過ぎていき、大量に迫っていた。

 いくら倒しても、これではキリがない――。


 それならば、一気に片づけるしかない。


 フィーリティアは光の海を発動させると、付近一帯が勇者の光に包まれていく。その中に入った魔物は、ボロボロと体が朽ち始める。弱い魔物であれば、耐えることすらできなかった。


 そして彼女は勢いよく地を蹴ると、光の翼を駆使して飛び回り、敵を片っ端から切り裂いていく。


 なんとか敵がいない空間を作り上げ、その隙にマミーロードを倒す。

 そう考えて幾度となく剣を振るった彼女であったが、そこに伸びてくるものがあった。


「邪魔をしないで!」


 振るわれた剣が切り裂いたのは古びた包帯。マミーロードのものだった。

 それを断ち切った直後、また別のところから伸びてくる。


 何度も何度も剣を振るっていた彼女だが、やがて一つが足に絡みついた。


「しまっ――」


 包帯が引っ張られると、フィーリティアは押し倒される。

 咄嗟に受け身を取って、襲いかかってくるグールを切り飛ばしたが、そのときには影が落ちていた。


 見上げると、そこにあるのはリビングメイル。鎧に死霊の魔物が入り込み、動く鎧となった魔物だ。それらはかなりの強度があった。


 大柄な魔物が数体、まとめて降りかかってくる。


 フィーリティアは咄嗟に光の盾で防ごうとしたが、そのとき、ゴーストがフォンシエ目がけて火球を放つのが見えた。


「させない!」


 光の盾でフォンシエを覆うと、彼女は光の剣を用いて足元の包帯を切り裂く。

 すぐさま態勢を立て直すが、そのときにはリビングメイルが拳を放っていた。


「きゃあっ!」


 殴り飛ばされて体が浮くと、フィーリティアは光の翼を用いて、なんとか敵の包囲を脱出し、フォンシエのところに戻ってくる。


「ティア!」

「大丈夫。かすっただけだから」


 咄嗟に衝撃を殺すように動いたため、怪我のほうは問題ない。

 しかし、いつまでもこの状況では、攻めに転じることができなかった。


「俺も戦うよ」

「でも、それだと魔力が――」


 二人が話をしていると、遠くから声が聞こえた。


「避難は済ませた! 加勢する!」


 それはこの都市の兵たちの声。

 遠くから勇ましい雄叫びが上がり、魔物が蹴散らされ始めた。


 彼らにも矜恃があったのだ。この街を決して魔物には奪わせないと。

 天国の門の影響下で弱まった個体を相手にするのであれば、ひけは取らない。


「フォンくん、魔力は長く持たなくても、大丈夫みたい」

「そのようだ。じゃあ、少しでも攻撃を防ぐようにするよ」


 彼は「魔力増強」に用いていた三つの光の証を解除する。


 これで残りは「消費魔力減少」に三つのほか、「付与術増強」、「魔力付与」、「魔力回復強化」、そして「天国の門」の合計七つだ。


 これでもやはり数が多く、ろくに動けそうもない。

 しかし、光の盾を使うくらいはできそうだ。


 フォンシエはそこで光の証を聖職者のスキル「聖域」に使用する。白い光が広がっていき、死霊の魔物が入り込みにくい領域ができあがる。


 これに光の盾を加えれば、先ほどよりも、フィーリティアが倒さなければならない魔物は減るだろう。


「待っててね、フォンくん。敵を倒してくる」

「ああ、ティアならやれるよ」


 フィーリティアは動き出すと、周囲の敵を片づける。

 そしてマミーロードへと一直線に向かっていく。


 その体に巻きつけられている包帯が解け、彼女に絡みつこうと伸びてくるが、フィーリティアは光の剣でことごとく叩き切った。


「グォゴオオオオオオ!」


 マミーロードが全身を叩きつけるようにのしかかってくると、フィーリティアは光の翼を輝かせた。


 一気に加速して敵の視界から消え去る。そしてまたの下をくぐって背後に飛び出すと、くるりと反転。無防備な臀部を睨み、剣を突きつけた。


 ドンッ!

 光の矢が放たれると、尻から腰にかけて穴が開く。

 それでも死霊の魔物らしく、まだ動いて襲いかかってくる。


 放たれた蹴りを飛び上がって回避し、その勢いのまま敵の頭上に躍り出ると、光の翼をはためかせて急降下。同時に光の剣を振り下ろした。


 ザンッ!


 剣はしかとマミーロードの首を落としている。

 これで普通の魔物なら死ぬところだが、首を失った胴体も、転がった頭も動いている。


「しつこい!」


 フィーリティアは苛立ちながらも、いったん下がって、フォンシエの周りに群がる敵を片付ける。


 それから再び敵と対峙すると、まっすぐに剣を向ける。

 光の海を最大限に強めると、いくつもの光の矢を生み出した。

 それらを前にして、頭を失ったマミーロードはふらふらすることしかできない。


「これで終わり!」


 やがてすさまじい輝きが放たれた。

 目を覆うほどの眩しさのあとには、ボロボロになった包帯が散らされるばかり。リーダー格の魔物がいなくなると、有象無象はバラバラに動き始め、統率が取れなくなる。


「ティア、やったな」

「うん。よかった」


 フィーリティアがフォンシエのところに戻ってくると同時に、一つの街路を塞いでいた魔物が吹き飛んだ。


「うぉおおおおお!」

「魔物はどこだ!」

「でかいやつがいるはずだ!」


 雪崩れ込んできたのはこの街の兵たちである。

 しかし、彼らは首を右に左に向けるばかり。

 だからフィーリティアはにっこりと微笑んだ。


「もう倒しましたよ」

「なんと!」

「さすがは勇者様!」

「では、後始末はお任せください!」


 彼らは張り切って、魔物を切り裂き始める。

 それらを見ながらフォンシエは、苦笑いしながら呟いた。


「……俺は今回、ただの置物だったなあ」

「でも、フォンくんがいたから勝てたんだよ。私にはフォンくんみたいに広範囲を攻撃することはできないから」

「確かにね。……でも、もっと頑張らないと。たくさんのスキルを使っても大丈夫なようになれば、俺も戦えた」

「未来は希望でたくさんだね」

「ああ。そうだね」


 戦う兵たちを見ていると、フォンシエもそう思えた。


 彼も加勢して魔物を片づけると、いったいどうしてこんな状況になったのかと、兵の一人に尋ねた。


 しかし、返ってきた返事は、


「残念ながら、我々にもわかりません。ですが……魔物の襲撃はこれに限ったことではないようです」

「というと?」

「東にある魔物の領域では、魔物が増えているそうです。詳しい状況はわかりませんが……異変が起きているのは間違いないそうです」

「なるほど、わかった」


 混沌の地から魔物が出てきた件以外にも、問題は発生しているらしい。


「ティア、どうやら落ち着いてもいられないようだ」

「うん。少し休んだら、情報を整理して調べてみようよ」

「それじゃあ、まずは詳しそうな人のところに行ってみよう」


 ここでのツテはないため、どうしようかと考えていると、兵たちが都市の管轄者のところへと案内してくれることになった。


 そうして二人が訪れると、初老の男性が迎え入れてくれる。

 彼は人払いを済ませると、向き合って、深々と頭を下げた。


「このたびはご助力をいただき、誠にありがとうございました」

「いえ。できることをしたまでです。ところで……なんでも、東でも問題があるとのことでしたが」

「ええ。空を飛ぶのは死霊の魔物だけではないのです。空を飛ぶ鳥――大翼の魔物がこちらにまで攻めてくるようになりました。おそらく、そちらの勢いが強くなったのではないか、と推測しております」

「それで死霊の魔物が追いやられてきた、ということですか」

「おそらくは。魔王フォーザンの領域よりもさらに東ですから、どうなっているのかは憶測に過ぎませんが」


 フォンシエはそれからいくつか話を聞いていくも、やってくる魔物への対応が精一杯で、詳しく調べることはできていないとのこと。


 フォンシエはフィーリティアと顔を見合わせる。もうやることは決まっていた。


「調べに行こう」

「つまり、魔王を倒しに行くってこと?」

「ただ調べるだけだよ。どうしてそうなるの」

「フォンくんだからだよ」


 フィーリティアはそう笑っていたが、もし魔王と遭遇したのであれば、そういうことになるだろう。


 そんなことを考えながら、二人はひとまず、この戦いの疲れを癒やすべく、寝所へと向かうのだった。


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