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131/163

131 奪われた都市

 都市中から上がる金切り声は徐々に強さを増していく。それはすなわち、声を上げるものが増えているということ。


「ティア! あれは死霊の魔物だ!」

「どうしてここに!?」

「このままじゃ、都市が乗っ取られてしまう! 急ごう!」


 できる限り早く彼らのところに到着できるよう願うのだが、近づけば近づくほどに惨状が見えてくる。


 破壊された市壁からは腐肉の魔物グールや骸骨兵が中に侵入している。

 空は白いもやのようなスピリットが覆い尽くしており、いつでも人々に取り憑ける状態だ。


 地上へと炎を降らせるのはゴースト。地上を駆け回るヘルハウンド。

 そしてなによりも多いのが、包帯を全身に巻いたミイラ人間、マミー。


 戦っている兵もいることにはいる。しかし、この状況ではいつまで持つかもわからない。次々と彼らは倒れ、同胞が死者となって蘇る。


 心理的にも肉体的にも、疲弊するのは免れられなかった。


「まずは壊された壁を塞ごう!」

「わかった。フォンくんはスキルの使用に集中して!」


 市壁に近づいていくと、ゴーストが彼らの接近に気がつく。そして火球が勢いよく放たれた。


 フィーリティアはさっと前に出て光の盾で防いでいく。近づいてくる個体には光の矢を撃ち込み、すっと市壁に着地。そのまま駆けていき、途中にいる魔物を片っ端から切り裂いていく。


 破壊された市壁のところに到着すると、彼女はすっと飛び降りて、グールを踏み潰した。さらにマミーを蹴り飛ばし、骸骨兵を叩き切る。


 獅子奮迅の働きを見せるフィーリティアに、フォンシエも負けていられない。


「やるぞ!」


 彼は「中等魔術:土」を使用する。光の証を用いたそれは、あっという間に市壁を作り上げていく。


 妨害すべく、ゴーストは炎を振らせてくるが、彼は光の盾で防いだ。


「この程度でやられるか!」


 フォンシエは光の矢で反撃し、敵を片づける。そうして市壁ができあがるとともに、フィーリティアも戻ってきた。


「フォンくん、このままじゃ、すぐに壊されちゃう」

「数が多すぎる。兵に手伝ってもらわないと……」

「でも、もう戦える人が――」

「ぎゃあああああああ!」


 上がる悲鳴で会話は途切れた。

 どこかに隠れていた者が、魔物の餌食になったのだろう。


「くそ! ……ティア、礼拝堂に行こう」

「え?」

「この状況を変えるのには、聖職者のスキルを使うしかない」


 それはある意味、近くにいる者たちを見捨てるということ。

 しかし、そうでもしなければ間に合わず、この都市すべてが魔物に支配されるだろう。必要な犠牲だった、


 納得はできない。それでも決断しなければ、命が次々と奪われていくのだ。


「くそぉ!」


 フォンシエは叫びながらも街中を駆ける。


「どこだ、どこにある!?」


「探知」や「洞察力」のスキルを使用しながら、通りを進む。礼拝堂は表通りにあるはずだから、ここで間違ってはいないはず。


 焦りが募る中、彼は勇者の光で魔物を打ち砕く。


「フォンくん! あそこ!」


 フィーリティアが指し示す先には、礼拝堂があった。

 入り口は破壊されていて、中がどうなっているのか心配に思うフォンシエだったが、飛び込むと魔物が女神の像に群がっていた。


「こいつら!」


 素早く切り倒し、女神の像を確認する。そこには傷一つなかった。

 遺跡や北の壁と似た材質でできているだけあって、非常に丈夫な造りになっているようだ。


「フォンくん、急いで!」


 彼は片膝をつき、女神マリスカ像に祈りを捧げる。

 

 レベル 22.85 スキルポイント6170


 スキルポイントは十分。遠慮なく取ってしまえばいい。

 フォンシエは弱い魔物を吸い上げて倒す「天国の門」を200ポイントで、広範囲に再生力を高めて死霊にダメージを与える空間を作り出す「祝福の息吹」を140ポイントで取る。


 そして光の証をさらに四つ追加する。

 これで残りは3830ポイント。十分な余裕がある。


 まだ取ろうと思えば取れるが、今はそれよりも――


「ティア! 護衛を頼む!」

「任せて!」


 フォンシエは通りに出ると、魔物どもを睨みつけた。

 大きく息を吐き、意識を集中させる。フィーリティアが守ってくれるのだ。自分は自分がすべきことに集中すればいい。


 彼は光の証を用いた「天国の門」を使用する。

 上空に光の輪が生じ、一気に広がっていく。そうしてできあがった光の穴へと、魔物は吸い込まれ始めた。


「キィイイイイイイイイイイ!」


 断末魔の叫び声が上がるも、フォンシエには届かない。

 彼はさらに光の証を「魔力増強」に三つ、「消費魔力減少」にも三つ、「付与術増強」、「魔力付与」、「魔力回復強化」に用いてそれらのスキルを発動した。


 光が彼の体から上り、再び彼に戻ってきて巻きつき始める。「魔力付与」と「魔力回復強化」の効果だ。これらを用いれば、魔力は普段よりも早く回復を続けるが、「天国の門」を使っているために減少のほうが早い。


 フォンシエは光の証をさらに一つ追加して、「探知」を働かせる。

 大量の情報が頭に入ってきて、意識が失いそうになるのを堪えつつ、都市中の状況を把握する。


 死霊の魔物から解放されて、我に返った者たちがいる。

 しかし、今ここで「天国の門」を解除してしまうと、弱い魔物が溢れ出し、強い魔物も普段の力を取り戻してしまう。そうなったら、彼らは再び死霊に取り憑かれてしまうだろう。


 そうならないためには、魔物が弱った隙に兵たちが倒してくれることを期待して、今はじっと敵を吸い込み続けるしかない。


 光の証を十も同時に使い続けている状況では、動くことすらままならない。

 だけど――。


「大丈夫!」


 フィーリティアはフォンシエを庇うように前に出ると、光の盾を使用する。それはゴーストが放った炎をことごとく受け止めていた。


「グゥウオオオオオオオ!」


 マミーが雄叫びを上げながら向かってくる。


「させない!」


 フィーリティアは光の矢を撃ち込み続けていたが、敵の数はあまりにも多い。

 間近に迫ってくると、彼女は剣を抜いた。


 軽やかに剣でマミーの首を断ち、近くにいた別の個体を蹴り飛ばして上空へと打ち上げる。それは向かってきたゴーストの炎を浴びて燃えさかった。


 フィーリティアはすぐさま反対側に回り込むと、敵を断つ。幾度となく剣が翻り、光の矢が放たれると、フォンシエのところに向かっていく。

 そして彼のすぐ横を通り過ぎて、食らいつこうとしてきていたマミーを消し飛ばした。


 このままならなんとか維持できる。

 フォンシエの魔力もそこまで減ってはいない。


 彼らがそう判断した瞬間、すさまじい咆哮が上がった。


「グゥウグググウグガガアアアア!」


 都市中に響き渡る叫びが、どんどん近づいてくる。

 それにともない、大柄な影もまた迫ってきた。


 その存在があることは予想できていた。これほど魔物がいるのだから、率いている存在があるはず。


 しかし、それは魔王ではない。魔物を統べると言われているその存在でなければ、いったいなんだというのか。


 マミーの倍ほどの大きさを持つそれは、マミーロード。包帯が風に揺られている。

 普通であれば、さして強くはない個体。少しばかり強い上位種だ。


 しかし、あれは――


「混沌の地の魔物!」


 帝国から出てくるのはほとんどが魔人だった。

 しかし、レーン王国では無機の魔物が出てきたように、ほかの魔物が出てきたとしてもおかしくはない。


 まして、死霊の魔物であれば、空を飛んで出てくることもあるのだ。

 それらが、カヤラ領に住み着いていた魔物どもの残党をまとめ上げたのだろう。


「くっ……」

「フォンくん、大丈夫。私がなんとかする」


 フィーリティアは剣を構え、覚悟を見せる。

 そしてマミーロードは叫び、死霊の魔物が一斉に動き出した。



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