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130 敵を追って

 数日の後、フォンシエは東に向かっていた。

 皇帝との話し合いは終わり、混沌の地を出て東に移動したという魔物を追っているところだ。


 そちらではすでに魔物を従えた勢力が作られているらしく、なんとかしようとしているとのこと。


 光の翼を用いて高速で移動していたフォンシエは、向こうの道端をうろうろしているダークウルフを見つけると剣を抜いた。


「フォンくん、大丈夫なの?」

「もう腕は治ったよ。いける!」


 彼は右手で剣を握ると、勇者の光を纏わせた。

 ダークウルフが気づくよりも早く間合いを詰めると、一気に切り裂く。混沌の地での戦いをしていたこともあって、あまりにもあっけなく感じられる。


 剣を収めた彼のところにやってきたフィーリティアは、フォンシエの復帰を喜ぶのである。


「もう万全だね。よかった」

「おかげさまですっかりよくなったよ。それにしても……あまり魔物がいないな」

「東で魔物が暴れているって話だったよね。たまたまかな?」

「どこかに集まっているのかもしれないね」


 そんな話をしつつ、彼らは再び東へと向かっていく。

 しばらく行くと都市が見えてきたので、そちらで話を聞くことに。


 門番たちはフォンシエとフィーリティアの姿を見て、一目でそれなりの名がある者だと判断したらしく、数名でやってくる。


 フォンシエはそれを見て、早速話しかけた。


「こんにちは。こちらには混沌の地から出てきた魔物がいると聞き、討伐すべく参りました。つきましては、お話をお聞かせ願えませんか?」


 いきなりの言葉に、彼らは面食らったようだが、願ってもない話である。すぐに情報をくれた。


「助太刀感謝いたします。ですが、討伐は難しいかもしれません」

「といいますと?」

「こちらにいる混沌の地の魔物は一頭しか追跡できていません。というのも、その魔物が魔獣ということもあって、すっかり付近の魔物を集めてリーダーとして活動し始めてしまいました」

「ここでは魔獣が多いんでしたね」

「ええ。魔王フォーザンの部下が幅を利かせていますから。そのような状態でして、魔獣以外の混沌の地の魔物は徒党を組むこともできず、追いやられてどこかに行ってしまったのです」

「なるほど。そうなると大事だ」


 混沌の地の魔物が国外にでも逃げて、現地の魔物を従えて徒党を組んだら、迂闊に手を出せなくなる。リーダー格の魔物だけでなく、逃げた魔物も孤立しているうちに仕留めておきたいところだ。


「東には魔王フォーザンがいるため、そちらに行くことはないと思われるのですが……」

「では、まだ帝国内にいる可能性が高いですね。少し探してみます」


 フォンシエは彼らに頭を下げると、フィーリティアとともに動き出す。

 探知を使えば遠方までしっかり探ることができるとはいえ、魔物の大きさはともかく強さまで識別する能力はない。


 見た目では混沌の地の魔物かどうか判別するのも難しいため、うまくいくかどうかは運次第だ。


「そういえばフォンくん。やっぱり、こっちには伝わってなかったみたいだね」


 フォンシエが知った混沌の地の現状については、一般に公開されないことになった。

 民は混沌の地から出てくる魔物がすべて片づけば元どおりになると信じているし、長く続くことはないと考えている。


 それが終わりの見えない、しかも絶望と隣り合わせのものだと知れば、大騒ぎになるだろう。


 知らないほうがいいことだってあるのかもしれない。


「きっと……正しいやり方なんだろう。だけど、なんだか俺は、自分が知らないままだったら嫌だな」

「それはフォンくんが力があるから思うこと?」

「かもしれないね。俺だって、コナリア村で畑を耕していた頃は、誰かがなんとかしてくれることを願っていただろうから」

「でも、今はその誰かになれる」

「村人も出世したものだ」


 フォンシエはそう笑っていたが、探知に引っかかる魔物があると表情を変える。


「早速、お目当ての魔物が見つかった」

「……どうしてわかったの?」

「俺たちから逃げるように動く魔物がいるんだ。きっと、光の翼が見えたんだろう。移動が早いから明らかなんだけど……じっとしれば気づかなかっただろうに」

「裏目に出たんだね」

「さあ、倒しに行こうか」


 フォンシエが駆けるとフィーリティアが続く。

 二人はまっすぐに敵へと進んでいくと、草むらの中をひた走るコボルトが見えた。とても雑魚のものとは思えない速さだ。


 フィーリティアが狙いを定めると、光の矢を放つ。

 それはコボルトへ後ろから向かっていくのだが、


「グゲゲ!?」


 大慌てで逃げる魔物は転んでしまい、偶然にも回避してしまう。そして頭の上を通り過ぎていく光の矢を見て、フォンシエたちの存在にも気づいてしまった。


「ティア! 足を止めるからもう一発!」

「わかった!」


 フォンシエは光の翼を用いて空中に躍り出ると、「初等魔術:炎」を発動させる。

 それは近くにいくつかばらまかれて、地上に降り注ぐと大爆発を起こす。


「グゲッ!?」


 コボルトはそれらを見て、震え上がった。右を見ても左を見ても、見えるのは赤々とした炎。そして振り返ったときには――。


「貫け!」


 フィーリティアが放った光の矢が迫っていた。

 コボルトはそれを見ても反応することはできず――。


「よし、やったか」


 フォンシエはさっと降りると、コボルトの肉体が消えて魔石に戻っていくのを眺める。

 それからフォンシエは魔力の残りを確かめる。「初等魔術:炎」はそこまで魔力を使うものではないが、減ることには減る。


「どうしたの、フォンくん。なにかあった?」

「せっかく光の証を取ったんだから、試してみたいことがあってさ。もしかすると魔力の不足を解消できるかもしれない」

「本当?」

「俺が光の証を使うのが下手でもなければね」


 フォンシエは早速、魔術師と大魔術師、付与術師のスキル「消費魔力減少」にそれぞれ光の証を用いる。


 さらに付与術師の「付与術増強」に勇者の光を付加し、準備は整った。


「さて、どうなるか」


 フォンシエは光の証つきの「魔力付与」を用いると、彼の体から生じたもやのようなものが一度離れ、再び彼に纏わりついていく。


 消費のほうが回復より大きいため、誰かに与える以外の使い道がないスキルだった。

 しかし、これほど光の証で強化すれば――。


「よし。少しだけど回復してる!」

「すごい! じゃあ、魔術も使い放題だね」

「いや、それがさ。このスキルを使いっぱなしでも、あまり回復が早くないんだ。元々、減るのが前提のスキルだったから、増えるのも勇者のスキルが強すぎるイレギュラーだと思うんだよ」

「そっか。……でも、ないよりはいいんじゃないかな?」

「確かにね。あとは「魔力回復強化」を併用すれば、回復はかなりよくなりそうだ」


 そちらのスキルは自然回復力を高めるもので、時間はかかるが使用時に消費した量よりも回復量のほうがが多い。光の証で強化すれば、初期投資の何倍にもなって戻ってくるだろう。


 魔力の総量に比例して回復するため、それら三つの職業の「魔力増強」を強化すれば、かなりの量が得られるだろう。


「現状、一番早く回復させるには、魔力増強が三つ、消費魔力減少も三つ、付与術増強、魔力付与、魔力回復強化の合計で九つか」

「それだけ同時に使える?」

「集中していればなんとか。でも、これじゃ戦えないよな……」

「勇者のスキルやほかの上位職業のスキルも使うからね」

「うーん。悩ましいな。……まさか、光の証をこんなに使いまくる方法に手を出すなんて、思ってもいなかったよ」

「でも、やるつもりなんでしょ?」

「いつかはね。戦う力が得られるのなら、俺は妥協したくない」


 フォンシエは剣を握る。

 それからフィーリティアに「行こうか」と討伐の続きを促した。


 フォンシエは探知のスキルを働かせて探りながら、あれこれと考える。


(光の証、たくさん使えるといいと思っていたけれど……スキルポイントよりも俺の技術のほうが足りなくなってきたな)


 残りのスキルポイントで取ったとして、使えるだろうか。そちらに集中しすぎて剣を振るえなくなったら意味がない。


(まあ、そのうち慣れるさ、きっと)


 そんなことを考えながら、フォンシエとフィーリティアは混沌の地の魔物を切っていく。見つけるのに時間がかかって、あまり効率がよくはない。


 それでも、やらないよりはマシだ。

 フォンシエは地道に進めていったのだが――。


「なにか……騒がしい都市がある」

「リーダー格の魔獣による襲撃があったのかな?」

「行ってみよう」


 探知は激しい動きを伝えている。それは逃げ惑っているような印象だ。

 なにがあったのかと考えながら、彼らは光の翼を用いて高速で移動していく。


 やがて、遠くに都市が見えてくる。火の手が上がっていた。

 市壁の一カ所がぶち破られ、無数の魔物が侵入していることがわかる。あまりの多さに、塊にすら見える。


「フォンくん!」

「急ごう!」


 二人は都市へと急行する。そして光の矢の間合いに入り、攻撃を開始しようとした瞬間。


「あれは……魔獣じゃない!?」


 フォンシエが警戒を強めた瞬間、


「キィィィイイイイイ!」


 つんざくような金切り声が都市を揺るがした。


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