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12 城塞都市エールランド

 城壁は遙か向こうまで続いており、見上げれば、小高くなった中央に作られた街との間に三重もの壁が作られていることがわかる。


 あまりにも壁が高いため、城壁の外からでは、街の高い塔くらいしか見えやしない。


 城壁には小さな傷がいくつもついており、何度も修復された痕跡が残っている。それはこの土地が戦地であることを物語っていた。


 フォンシエは気を引き締めつつ、門へと近づいていく。

 間近で見れば見るほど大きなそこでは、これまでの都市とは違って、門番が立っていることはない。


 というのも、門番はもっと高い位置にいるからだ。

 見上げると窓が存在しており、そこから門番が見下ろしている。


「すみません。通していただけませんか!」

「名前と目的をお願いします!」

「名はフォンシエ! 目的は、魔物の討伐に参加することです!」


 距離があるため、どうしても大声になってしまう。


 そんなやりとりが終わると、あっさり通されることになった。

 国民の出入りを監視しているわけではなく、魔物が入ってこないかと見ているだけなので、審査が厳しいわけでもないようだ。


 フォンシエはそのまま街へと続く道を歩いていく。すると、二つ目の城壁はほとんど傷がないことがわかる。


 つまり、魔物は一つ目の城壁をほとんど突破することができず、仮にできたとしてもここで討取られているということだ。


 入っていく彼とは反対に出て行く者たちは、皆立派な、けれど使い込まれた鎧を纏っている。


(……なるほど。ほとんどの市民は、街から出てこないのだろう)


 わざわざ安全な都市から出る必要もない。

 窮屈な生活なのかと思っていたフォンシエだが、城塞都市エールランドに一歩足を踏み入れるとそんな印象はまるで消し飛んだ。


 なにしろ、今まで見た街の中で一番活気がすごい。


 かなり発展しているにもかかわらず、城壁があるせいで広がることができないため、まるで溢れ出すかのように大きな家々が広がっているのだ。


 ひどいところでは、家の屋根の上にさらに付け加えられた住居すら存在している。

 そうして半ば無秩序に広がっているが、どこもかしこも、とても足の踏み場もないような家々の間でさえ、人が行き来している。


「ほう……これはすごいや」


 思わずため息が漏れる。

 どこをどう進めばいいのやら。


 そんなことを思ったが、街中は急な事態でもすぐに移動できるように大通りは広く直線になっていた。


 だからその道を進んでいけば、より栄えている中央へと進んでいくことはできよう。


 歩いていくと、道ばたではあちこち好き勝手に露天が開かれており、雑多なものが売られている。逞しく生きているようだ。


(確か、市民ギルドがあるって言ってたな。ちょっと前のものとは違うみたいだけど)


 前に利用したものは市民と市民を仕事で繋ぐものだったのに対し、こちらでは市民の要望を都市の上層部に連絡する窓口という感じらしい。


 見ればわかるとのことだったが、果たしてその通りになった。ほかの建物と比べると、あまりにも大きいのだ。


 中に入ると、どこにも掲示板なんてありゃしない。

 どういうことかと思って受付にて尋ねてみると、


「市民からの依頼は三階にて張り出されております」


 と、告げられるのだ。

 その規模には驚くばかり。


 フォンシエは早速そちらに行って依頼の類を見てみるも、都市内部の用件しかない。市民が外に出ないことを考えると当然なのだが。


 唸っている彼を見て、職員が声をかけてくる。


「外からいらっしゃった方でしょうか? 魔物の依頼はございませんよ」

「そうなのですか。困ったなあ……」

「もし魔物関連の仕事をなさっていたのでしたら、中央買い取り所に、魔物を倒した証拠とともに魔石を持っていけば、高く買い取ってもらえますので、ご検討ください」


 詳しく聞いてみると、魔物など大量に出るためいちいち依頼など出しているわけにもいかず、このような形で討伐を推奨しているそうだ。


 そのほかにも、傭兵を募っているという話もある。

 そちらは集団で動くことになるため、もしかするとあまり魔物を倒す機会はないかもしれない。なんせ、傭兵というものは基本的に働かないと相場が決まっているのだから。


(……顔も知らない相手と一緒に、なんにも知らない場所で戦うなんて、ちょっと気が引けるなあ)


 フォンシエはとりあえず、軽く付近を調べてから決めることにした。

 それから彼は途中の店で安売りしていた剣を購入。すでに使用していたものに致命的なひびが入っていたのだ。


 そしてぼろぼろになったままの鎧も新調。金属製の簡素なものを身につけると、それだけで立派な兵になった気がしてくる。


 随分安く買えたので満足しつつ、礼拝堂を見つけると早速中へ。

 コナリア村近くの都市をたってから、ずっと通っていなかったので、かなりのスキルポイントが貯まっているだろう。


 期待しながら祈りを捧げると、レベルが表示される。


 レベル 3.12 スキルポイント870


 ゴブリンロードを倒したのが大きいらしく、結構レベルが上がっていた。

 レベル3ともなれば、ただのゴブリンで稼いでいくのはなかなか厳しくなってくるかもしれない。


 もう少し貯めれば勇者のスキルを取れるが、いまだに勇者以外でそのスキルを取った者はおらず、勇者の初期スキルは「光の剣」で武器の威力を高めるものであり、身体能力的な恩恵はない。能力に関しては、もともと勇者の職業自体の恩恵が高すぎるのだ。


 それに村人が使える保証もないため、後回しになる。


(魔物がたくさんいるなら、対応するためのスキルがあるといいな)


 よってたかってぶん殴られたとき、倒れてしまっては一巻の終わりだ。

 フォンシエはそこで500ポイントを消費し、戦士の上位性能の職業である「狂戦士」のスキル「鬼神化」を取る。


 瞬間的に痛みを減少し、筋力を大幅に向上させるものだ。効果が大きいものの、使用後には疲労に襲われるため、基本的には強い敵に対して使うスキルである。


 たいていの狂戦士は、大剣や斧などを武器としているため、通常では振れないものも軽々と扱うことができるようになるのだ。


 しかし、フォンシエは片手でも両手でも扱える長さの剣を使っているため、膂力が上がったところでそこまでの恩恵はない。


 これは、群がられたときに力尽くで突破するためのものだ。


 そして次に250ポイントにて魔術師のスキル「中等魔術:炎」を取得。これは狙った場所に爆発を引き起こすもので、発動までに時間がかかるが、一気に大量の敵を倒すことができる。


 村人の魔力ではおそらく一発撃つのが限界だが、状況によっては非常に便利だ。


 最後に100ポイントで武道家のスキル瞬発力を取得。多少の底上げとはいえ、ほんの一瞬で勝負が決まることを考えれば、無駄にはならない。


(さて……これらのスキルはどれくらい使えるものか)


 狂戦士は元々肉体的な恩恵があるために鬼神化してもそこまで使用後の悪影響はないが、フォンシエは村人である。


 すぐにバテてしまうようなら、ここぞというときにしか使えない。


(なんにせよ、やるしかない。取って失敗したと悔やむ暇があるなら、その間に同じだけレベルを上げればいいことだ)


 フォンシエはその日の宿を取ると、荷物を置いて街の外へと駆け出した。

 そうして行くと門をくぐるときに、門番に呼び止められた。


「今から行くのか? 日没とともに門が閉められる。その際はここの詰め所に泊まってもらわなければならなくなるなるから、それまでに帰ってくるといい」

「教えていただきありがとうございます。そうしますね」


 元々、付近の土地を確認するとともに軽くスキルを試してみるために出てきたのだ。


 都市の近くには魔物が隠れられそうな場所はないが、離れた北にはうっそうと茂る森があり、東や西にも小さな林が点在している。


(よし、まずは近いところから行こう)


 フォンシエは早速、手近な林へと走り出した。

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