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11 褒賞


 フォンシエは案内の者のあとに続き、屋敷の中を歩いていた。


 このような大きな屋敷なんて、物語の中でしか知らなかったこともあって、見るもの見るもの目新しく思われる。それがただの壺などであっても。


 詳しい話を聞きたいということで案内されたのだが、フォンシエとしては、ただ森に行ってゴブリンロードを倒してきた、という以上の説明のしようもないため、どうすればいいのかと不安で仕方なかった。


 けれど、あまりにもきょろきょろしていては田舎者と見られてしまう。

 なんとか取り繕おうとしていたところ、


「少々お待ちください」


 と声をかけられ、そこでようやく目的の部屋の前にいることに気づいたのだった。


 案内人がドアをノックして確認を取った後、中へと促される。

 そうすると、身なりのいい中年の男性が椅子に腰掛けていた。


「座りたまえ。フォンシエくん、と言ったかな」


 彼に促され、対面になって座ったフォンシエは、すっかり小さくなっている。


「君がゴブリンロードを倒した、ということで間違いないのだね?」

「はい。確かにこの手で討伐いたしました」


 そう告げると、男性はふむ、と小さく悩む仕草をしてみせた。


「あの魔物はくまなく探しても見つからなかったのだが……いや、君を疑うわけではないのだがね」

「草に隠されたところに岩の割れ目がありまして、そこを進んでいくとゴブリンの巣がありました。そこでゴブリンロードを打ち倒し、帰ってきた次第です」

「なるほど。詳しい場所を教えてもらえるかな?」


 男性が紙を持ってくると、フォンシエは場所を書いていく。しかし、絵心がないため、まだ口頭で説明したほうがマシだった。


 仔細を告げると、早速調査に向かわせるとのことだった。それから褒賞が出されるそうだ。


「ゴブリンロードの傷跡を確認したところ、あのときの個体で間違いないと判明した。また、倒したばかりだということも。だから疑っているわけではないのだが、いろいろと規則があってね」

「そうなのですか。私には難しいことはわかりません」


 フォンシエは本心からそう言ったのだが、男性は謙遜と取ったらしく笑っていた。


 それから他愛もない話を少々した後、フォンシエは解放されることになった。とはいえ、調査はすぐ終わるとのことで、それまで待っていてほしいと言われ、談話室で待機しなければならなかったのだが。


 使用人が飲み物などをくれるのだが、カップがあまりにも高そうで、フォンシエはおっかなびっくり口をつける。


 すると、微笑んでいる使用人の姿が目に入った。

 まだ若い女性だったから、フォンシエはなんだか恥ずかしくなった。


「その……なにかマナー違反をしていたりしないでしょうか?」

「あっすみません。そのようなつもりはございませんでした」


 慌てて頭を下げる女性。

 フォンシエは馬鹿にされていると感じたと思ったのだろう。


「なにぶん田舎者なもので、右も左もわからないのです」

「問題ないかと存じます。……その、ゴブリンロードを倒した方と聞いておりましたので、もっと乱暴な方かと思っておりましたので……」

「では、頼りなく見えますか?」


 フォンシエが戯れてみると、女性はにっこりと微笑んだ。


「とても頼もしく見えます」


 そんな風に言われると、本当にそう思われているのではないかという気がしてくるのだが、おそらくは世辞だろう。そう感じさせないのが、教養というものに違いないとフォンシエは思う。


 やがてフォンシエは、時間を潰すべく彼女に、疑問を聞いてみることにした。


「そういえば、礼拝堂に全然人がいなかったのですが、なにかあったのでしょうか?」

「すでにご存じかとは思いますが、森が立ち入り禁止になり、魔物討伐を生業としていた者はあちこちに散りました。そして戦争の気配があるということで、王都近くへと向かう者が増え、都市からも兵を出すことになったため、調査を引き上げざるを得なくなったのです」


 なにかと急に行われたのは、そのような事情があったかららしい。


 常備兵を大量に新規雇用するわけにもいかず、不本意ながらも、褒賞でなんとかするしかなかったそうだ。


(それにしても……戦争か)


 ここでの戦争というのは、国家間の争いであるのは確かだが、同種族で行われることは滅多にない。


 というのも、人間が人間を倒した場合、女神のペナルティによりレベルがダウンしてしまうからだ。しかも、元のレベルに戻るまでスキルポイントは得られないため、なんのメリットもない。


 国家間規模の争いでそれを行えば、兵すべてがレベル1になってまったく使い物にならなくなってしまう。


 従って、戦う相手は魔物である。


「戦争というのは本当なんですか?」

「ええ。なんでも、魔王モナクが攻勢に出たという噂です。モナクには片腕とも言われる強力な魔王ランザッパがついていますから、対抗するために少しでも兵力を高めたいのでしょう」


 魔王というのは、魔物を従える王を指すのではなく、単に最上位の魔物のことである。だから最上位のゴブリンであるゴブリンキングだろうが最上位のドラゴンであるエンシェントドラゴンだろうが、どちらも魔王になる。


 個体差が大きく、能力や外見、性格などもまるで違うため、個別に名前がつけられる決まりになっていた。


 そして魔王は力があるため、国を作ることが多いが、少数はランザッパのように魔王の元で働くことがある。


(さて、どう動こうか)


 今すぐどうこうなるわけではないが、この国にいる魔物――ゴブリンやコボルトなどは、魔王モナクの支配下にある魔物だ。


 魔物の中でも魔人と呼ばれる分類に属し、人型を取っている。


 それ以外の魔物――たとえば魔獣と呼ばれているものはほとんどが四足獣であり、信仰している神の違いから、魔人とは敵対関係にある。


 だから戦争時に魔人以外の国が魔王モナクに加担することはないだろうから、そうした魔物が存在する国に行ってしまうという手もある。


 しかし、それはあまりにも無情に思われた。


 フォンシエが悩んでいると、向こうから先の中年男性が、厳つい男を従えてやってきた。


「フォンシエくん。調査が終わったということで、これから褒賞を渡すことになる。大丈夫かね?」

「はい。よろしくお願いします」


 なにか儀式めいたことでもやるのかと思っていたフォンシエの手の上に、ずっしりした布袋が置かれた。


 金である。


「待たせてしまったね。ここに受領のサインを書いてくれ」


 フォンシエがサインを書くと、男はすぐに去っていった。忙しいのだろう。 

 あまりのあっけなさに、フォンシエはきょとんとするしかなかった。


 とはいえ、金さえもらってしまえばいつまでもここにいる理由はない。

 フォンシエは早速、街中を駆けて門番のところに戻ると、着替えを済ませる。


「ありがとうございました。おかげで恥をかかずに済みました」

「そりゃよかったじゃないか。そうだ、お前さんの剣を手入れしてやったから、感謝するといい。といっても、そろそろダメだなありゃ。新しいのを買ったほうがいい」


 剣は一度買い換えたのだが、あまりにも多用しすぎたせいだ。攻撃を剣で受け止めることも多かったため、刃こぼれもしている。


 言われたとおりに新調しようと思ったフォンシエだったが、ふと、思うことがある。


「森のゴブリンロードも倒してしまったので、どこか別の都市に行こうかと思うのですが、魔物の多いところはありますか?」


 こんな田舎の都市よりは、大きな都市のほうが安くいいものが買えるだろう。

 それに、魔物が多く出るような地域の都市ならば武器も安く売っているはず。


 そんなことを考えていたのだが、門番は呆れつつ笑う。


「お前さんは本当に戦闘狂だな、まったく。そうだな……魔物が多いといえば、やっぱり北の都市群じゃないか。特に城塞都市エールランドじゃ、すでに傭兵を募ってるって話だ」


 この国の北には魔王モナクの領地があるため、常に魔物の侵攻を受けている。

 それゆえにこんな田舎と違って、平和とはほど遠い。


「ですが、戦争という噂がありますが……」

「ん? ああ、そうだな。といっても、使い物にならん兵は餌を与えるようなもんだから、そこまでごちゃごちゃすることはないぞ。覚えることもそう多くないからな」


 そもそも、寄せ集めの兵に細かいことなど実行できない、と笑う。

 この門番も昔は戦争に参加していたらしく、いろいろと教えてくれる。


 そしてどうやら、魔物の大規模侵攻に対して大軍が結成されるだけで、普段は小競り合いが続いているとのことだった。


 ならば、こそこそと一人で魔物を倒すことだってできよう。


「ありがとうございます。では、早速エールランドに行ってみますね」

「おう、死ぬなよ」


 門番に見送られながら、フォンシエは北へと駆け出した。

 道中にいる魔物を蹴散らしながら、どんどん進んでいく。


 そうしていくつかの街を経由して、数日の後。

 フォンシエはその城塞都市エールランドに辿り着いた。そしてそびえ立つ巨大な城壁に、思わず見とれるのだった。


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