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次の夜が明ける前に

作者: 悠(はるか)

1.

 夜が明けた。幻想的な雰囲気とは一変した、忙しい朝は一昔前皆があこがれていた世界だ。


「また夜が明けちまった」


 僕は一言、行先もわからず放つ。後悔の一言は朝の挨拶の代わりになっている。


「お目覚めですか、ご主人様」


 いまだかすかなアンドロイドな声をしたメイド型ロボット、製品名はMAID08-UKであり「ユキちゃん」の名称で親しまれている。

 僕はあいさつの代わりに彼女の頭を撫でる。人間らしく軽く頬を赤く染め「ごはんはできています」と恥ずかしがりながら喋る。

 食卓にはごはんに納豆、鮭の塩焼きにほうれんそうのお浸し、そしてリンゴが三つウサギさんになってお皿に乗っている。


「今日の味噌汁はネギとわかめと豆腐です」


 僕の前には何の変哲のない料理が並ぶ。しかし、これは「ダミー」だ。近年さまざまな原料がなくなり、僕の目の前に並ぶ料理は「偽物」である。つまり材料はすべてが人工物。しかしながら栄養的には「偽物」の方が効果的に取れるので「本物」を口にする機会は人生でほとんどないはずだ。


「今日の料理もおいしいよ」


 ユキちゃんを褒めてやると「ありがとうございます!」と元気そうに喋る。「設定」的には若いメイドさんらしいのだが仕事は完璧にこなすのであくまで「性格」の「設定」である。

 僕は指定の制服に着替えユキちゃんにいってきますと挨拶をする。


「おっはー!」


 通学路を歩いていると後ろから声をかけられる。幼馴染の桜だ。名前の通りのかすかな桜色の髪は肩ほどまで伸び、どこを見ても細い体に続く。


「朝からいやらしい目で私を見てるのかな?」

「あぁ、細いなって」

「悪かったわねペッタンコで!」


 とりあえずはこんな感じの会話はできるぐらいに仲はいい。

 鹿波高校までは徒歩十数分。しかしながら近くに電車の駅があり、それを使うと五分程度で学校につく。しかしながらただでさえ運動できないような世界で十数分程度の距離は歩かなければ損である。


「昔はここに車が通ってたなんて驚きだよね」

「今はまさに網のごとく電車が通ってるからな」


 地下に張り巡らされたクモの巣は、車がなくとも格安でどこへでも行ける。特に最近できた地下新幹線「ヒロシゲ」は東京と終点京都までを53分でつなぐ。日本は今最新の地下発展国だ。日本各地どこへでも「地下」を使っていけるのだ。そのため置き場所、燃料、その他もろもろ大変な「車」という文化は廃れ幻のものへと変貌している。


「お前って何区の寮だっけ」

「Cよ、C。堺の隣の区でしょ、覚えてないの?」

「そんな近かったっけ? 夜襲うことぐらいならできそうだな」

「あら? 夜襲っちゃうほど私に魅力を感じちゃうの?」


 「管理」された「自由」という矛盾した世界に僕は生きている。鹿波高校の学園都市は日本でも有数の「都会」である。建物がひしめき、足の踏み場もないほど人が行きかう交差点。若者はファッションを求め騒ぎ、老人は自然を求め足を遠ざける。開発されきったこの土地はまさに「管理」された「自由」だ。


「なんか今日人少ないな」

「いつもより早いからじゃない? 私もたまたま早く出てきたらたまたま堺がいたんだし」

「俺の後でも追ってるみたいだな」

「ばれちゃったか」


 ニヤニヤとしてる桜。僕は無視して校門をくぐる。

 校門からは僕は機械学科、彼女は確か歴史は浅い医療学科へと建物別に歩みを違える。


「じゃねー」

「あぁまた帰りな」


 僕にとってこの昼の時間は、退屈な睡眠時間でしかない。


2.

 フクロウのなく声がする。しかしながら、この声は自然から聞こえるわけではない。ただの「演出」だ。

 顔のあちこちにスミが塗られた僕。×やら〇やらさまざまな図形。今やってるのはもちろん羽根つきだ。墨なんてものはこの世界にはないものだ。少なくとも一般庶民が手に入れられるレベルの話では。

 一昔前、年末年始には老若男女「書初め」というコンテストを行っていたと聞いた。墨を使った「習字」という文字を書くコンテストだそうだ。しかし今、そんな「ルール」は消えた。「ルール」は日々新しくなり、日々消えていく。


「楽しいな」

「昔はみなさん新年こんなことやってたんですよ」


 目の前の少女はそう喋る。淡々とした表情。黒いストレートの髪は動くたびに揺れる。何を考えてるのかよくわからない真剣な目。凛々しいといった方が正しいかもしれない。


「しかしながらなんで負けたら墨を塗られなきゃいけないんですか」

「何かかけているとゲームはもっと楽しくなるんです」


 そういってまた僕に向けて強く羽根を打ってくる。かれこれ十二回目の顔への墨だ。しかし彼女のその整った顔には墨は全然塗られていない。僕は彼女に一本でも線を引きたい。


「弱いですね、堺さん」

「茜が強すぎるんだろ……」


 茜、彼女は僕も存在がよくわからないやつだ。

 ポーンと打ち上げられた羽根。数十分やった僕はさすがに慣れた。何度かラリーが続く。そして先ほどと同じようなモーションを彼女がする。僕は身構える。ただでさえ早い羽根は夜という暗さにまぎれて見えなくなる。しかし、僕は感覚で羽子板を振る。感触があった。


「おぉやった!」


 彼女は決まったものだと思っていたのだろうか。反応もできないまま彼女のそばに羽根は落ちた。


「どうだ!」

「……参りました」


 僕は彼女の綺麗な肌に黒いしみを残すことができた。


「実際はお互いがラリーを続けるために頑張る競技なのですが……あまりにもあなたに墨を塗るのが楽しくてつい」

「ついでルール変えるな!」


 彼女はフフッといった感じで笑う。笑った顔は、僕が一番好きな顔だ。


「昔はこんな歌を歌いながら羽根を突きあったらしいです。(ひと)ごに(ふた)ご、()わたし()めご、()つ来ても()かし、(なな)んの()くし、(ここ)のまへで(とを)よ」

「昔にはいっぱいいろんなものがあるんだな」

「えぇ、今と違って不便ですが、不便さを知識で乗り越えてきました。まぁ、今のこの便利さはその知識の結晶なんですが」

「茜は何でも知ってるな、昔の人か何かか?」

「そうですよ」


 否定はしない。彼女の瞳はいつものように真剣だ。冗談に聞こえない。しかし、今の技術でもタイムマシンなんてものは存在しない。僕は不気味でありながらもそれにも勝る興味が動いていた。


「でも、あなたと入れる時間は限りがあるんです。ごめんなさい」

「わかってるよそんなこと。今まで何度僕の夜の時間をつぶしたと思ってるんだ」

「……迷惑ですか?」

「そんなわけないだろ。迷惑だったらこんなことに付き合わねぇよ。楽しいしな」


 僕の大好きな表情を浮かべる彼女。朝日とともに煙のように消えてしまうのだ。



3.

 茜との出会いはいつだったか。つい二か月前だったか。


「ご主人様、お客様です」

「こんな夜遅くにか」


 ユキちゃんが珍しく僕を夜に起こしてきた。今までにないことだったので僕も驚きだった。


「こんな夜遅くにだれですかー」


 眠い目をこすりながらドアを開けると茜が立っていた。


「茜です」


 その一言だけ言って僕と数秒間目を合わせた。僕はうつむき加減に「えっと、どちら様で?」と聞くしかなかった。

 さすがに少女を寒い外に出しておくのも悪いので、という口実とともに僕はリビングへと連れてきた。ただ、僕が寒かっただけだ。


「まぁ、話はよくわからんが、たまたま僕の家に来ちゃったと」


 彼女の話は摩訶不思議だった。というかただの記憶喪失ではないかと。家の場所も、正確な年齢も、彼女は自分の名前以外のことをほとんど覚えていなかった。


「ま、大変だな、としか声はかけられないなぁ……俺に起きたことじゃないんだから」

「何か思っていただけるだけ光栄です」


 それから毎日夜になるとあらわれるようになった。何とも不思議な話だ。必ず夜にだ。昼にあったことはない。僕はそのせいで寝不足になってしまった。でも後悔はしていない。彼女との記憶は非常に楽しいものだった。昔の「技術」「世界」……さまざまなものを教えてもらった。だから、一昔前の記憶は結構ある。

 

「なんで茜はそんな昔のこと知ってるんだ?」

「昔の人だからです」


 彼女は冗談めいた表情もなく毎回そんなことを言う。僕もさすがに信じかけてきてしまう。仮に彼女が昔の人なら彼女の知識にも説明がつく。

 僕は彼女が去った後ベッドにもぐりとある硬貨を眺めた。というか金貨であろうか。綺麗な金貨は彼女からプレゼントされたものだ。今は見たことのないその金貨はとても大切なものに見える。

 僕は「4:00」と表示された時計を見てため息をつきながら目を瞑った。



4.

「最近眠そうだね」


 土曜日。最近二人の女子と過ごす日が多くなった。どちらも特に深い関係があるわけじゃなく、ただただたまたま出会った二人だというのに。


「あぁ、ちょっと夢がな」

「夢? あぁ、寝るときの。不眠症とかはお医者さんに診てもらってもいいんじゃない?」

「そこまで心配するようなことでもないし」

「ま、眠そうな割には前より楽しそうだしね。彼女でもできたの? は!? もしかして彼女と夜で甘い……」

「お前少なくとも女子ならそういう発言すんなって」

「女子も男子もそういうところは関係ないのぉ!」


 桜はやけにアウトローな方向に幅が広い。俺だけに話してるのか、それ以外もなのかは知らんが。


「そんなんだから彼氏できねぇんだよ」

「堺だって彼女できてないじゃん」

「俺はこんなんだからなぁ」

「なぁに堺だってイケメンだと思うよぉ。どうせなら私と付き合っちゃう?」

「うれしい告白ありがとう」


 僕は伸びをする。最近オープンした喫茶店。紅茶がおいしいと評判らしい。桜に連れられやってきた。一人じゃ恥ずかしいのだと。確かに僕もこんなしゃれっ気あるところは一人じゃいかない。恥ずかしいからだ


「後だいぶ昔のこと調べたのか、すごい知ってるよね。すぐにパッと知識が出るし」

「たまたまだな」


 あんまり夜のことを誰かに言っても冗談でとらえられるか、勘違いされるかどっちかだ。こいつは後者の方が圧倒的であろう。


「ケーキもおいしいし、ここいいお店だね」

「そうだなぁ。機会があったら一か月にいっぺんぐらいは来てもいいかな」

「なんだもっと行こうよぉー。私一緒に行く人いないんだからー」

「女友達の一人でもいるだろうが……俺と一緒に言ったって噂の一つもたたないんだから見栄を張るのもやめたらどうよ」

「見栄じゃないし! どうせ私は一人ぼっちですもん!」

「俺がいるのに一人ぼっちとは俺は幽霊か何かかな?」


 ところが変わろうが会話が取り留めのないものには変わりない。


「なぁ、昔の人が自分に会いに来るって考えてみ?」

「昔の人?」

「そうそう、平成とか、昭和とか」

「なんか実感わかないわね。おじいちゃんとかが私と会うってこと?」

「ちょっと違くてな……おじいちゃんが俺たちぐらいのときの姿で会いに来るみたいな」

「……? なんかもっと未来の話みたいだね」

「悪いなあんまり気にしないでくれ。俺の夢の話だ」

「昔の人が私たちと同じくらいの年齢の姿で会いに来る夢? なんか面白そうね。だから昔の知識も知ってるの?」

「夢なのにそこで知識つけるわけないだろ……」

「それもそっか」


 桜は笑う。天然の方だろうか? いや数年、十数年いるからわかるが、彼女はドがつくほどの天然だ。



4.

「茜はだいたいいつの時代の人かわかるの?」

「わからない」


 即答だった。記憶はないと言ってるんだからまぁ当然と言えば当然だ。しかしながら、昔の人だと即答できるのはなぜだろう。


「昔の人はみんな茜みたいに物知りだったのか?」

「私は物知りじゃない。これは常識。でも私が生きてる頃にはこの常識も変わってきていた。まさに今のこの時代の布石、礎みたいな感じだった」


 彼女は淡々と話している。僕は彼女に今のことをよく伝えていた。彼女の眼には彼女が生きている時の情景と僕が伝えた今の情景を重ねたものが映っているのだろうか。

 彼女との会話は桜とは違う、新鮮なものだ。なんか話してて楽しい。桜との会話がつまらないのかと言われれば今ぐらい楽しいが、ベクトルが違うのだろう。


「堺さんは……その彼女とかいるんですか?」

「突然どうした?」


 茜らしくない発言だった。しかもたぶん会ってから初めて彼女が口籠るところを見た。


「いねぇなぁ。まぁ幼馴染ならいるが彼女には不向きなやつかもな。……そういう茜は彼氏とかいるのか? ってやっぱタンマ今のなし忘れて!」


 あまり茜にこういう発言をしないようにしていた。セクハラなんやら言われそうだから。


「私だっていないですよ……」


 悲しそうな表情を浮かべて何か申し訳なくなってしまった。予想以上にしゅんとしてしまってどうしようもない。

 僕の中では現実を離れた「何か」だったが、こういうところを見ると「人間だな」って思う。


「なんかごめんよ」

「謝られると、もっと切ないです」


 翌日……といか次の夜、彼女の姿はなかった。今までたびたびいなかった日もあった。しかしランプに照らされたメモがあるのがいつもと違うことだった。


「なぁユキちゃん、こんなところにメモかなんか置いた?」

「ふぁぅー……寝てたんですから起こさないでくださいよ」

「お前ねねぇだろ」

「ばれました?」


 ばれるもなにも……浮かび上がる文句を押しのける。


「おきませんでしたよ。というかご主人様が置かなければ誰も置くはずがないですよ?」

「誰か来たってこともないんだな?」

「えぇ茜さんも来てませんよ」

「そっか、ありがと」


 僕はユキちゃんの頭をまた撫でる。「いい夢が見れそうです―」とどうせ夢も見ないやつが喋る。

 メモをちらりと見ると、やはりというか茜だった。


「堺さん。突然申し訳ないです。夢に手紙を送るというのも何か変な心地がします」


 書き出しから僕の頭を混乱させる。「夢に手紙を送る」……?


「実は私はあなたの夢をずっと見ていました。堺さんとさまざまなことをする夢。現実世界は私にとってみればとても厳しい向かい風で、私は夢でしか心を休ませることができませんでした。そこで、堺さんに出会いました。夢の中のはずなのに、堺さんはいろんな言葉を私に投げかけて、どんな話も聞いてくださいました。夢の中が私の心のよりどころで、私を休めてくれる唯一の空間になりました。実は私は私のことは何でも覚えています。私は堺さんが言ってくれた年からはちょうど100年前の人間です。冗談と思われても仕方がないです」


 この後もさまざまなことが書かれていた。この文章を読んで、なんか彼女は戻ってこないんじゃないか? そんなことが頭によぎった。しかし、その瞬間、目の前に茜が現れた。


「読んで……くれましたか?」

「あぁ、読んだよ」

「信じてくれますか?」

「……あぁ、信じる」


 たった二往復の会話。しかしながら、茜は今までで一番明るい笑顔を掲げた。


「ごめんなさい今日はここまでみたいです。大丈夫です、明日からも夜来ますから」

「待ってるから」


 僕はそういって、ベッドへと戻った。



5.

「昨夜はお楽しみでしたね、ご主人様」

「誤解をされているようなら一日かけてその誤解を解いてやるけどどうする?」

「え、違うんですか」


 ユキちゃんは時折狙ったかのごとく変なボケをかましてくる。


「朝ご飯が不味くなる前に食べよう」

「私のご飯は不味くなりませんよぉー」


 自信ありげに言う。もちろんそんなのは当たり前なのだ。


「今日は豚汁です」

「ありがと……といいたいところだが赤飯なのは何か意図があってか?」

「いいえ?」


 このポンコツロボットを今すぐにでもガラクタにしようと思った。


「おっはー」

「おっはー」

「おぉ? やけに元気だね? 彼女でもできた?」

「俺は彼女ができたら元気になるような人なのか?」

「そうでしょ?」

「面目ないです」


 桜はいつも通りだった。こういう日常を最近よく実感するようになった。


「なぁ、俺たちが夢の中の人物だった、なんて考えたことあるか?」

「まぁた哲学的な話しだすんだから……頭こんがらがっちゃうじゃん」


 彼女はふてくされたかのように頬を膨らませる。


「でも、堺はよく私の夢に出てきて私にあんなことやこんなことするけどね?」

「今実行してやろうか?」

「喜んで」


 二人はにらみ合いの果てに笑い出す。


「夢の中でさ、出会った少女に『夢の中に手紙を送るのも変な気分だ』って書かれた手紙を出されたんだよ」

「夢の中の人に『夢の中に手紙を送った』って手紙出された……? つまりあんたの夢は誰かの夢だったってこと?」

「なんかややこしくなってるけど正しいな」

「なんか面白そうだね。私の体をあんなことしてこんなことしてる堺もあんたが描いてる夢なのかもね」

「それだけはないしそれだけはないな」

「否定しないでよぉ。あぁ思い出しただけで……」

「とりあえず永眠して一生俺にもてあそばれてろ」

「今のは愛の告白と受け取っていい?」

「……黙っておけ」


 確かに、面白いかもしれない。俺の人生は茜の夢だったりとか。でも俺の人生は、俺の現実で起きてることだ。


「なぁ、桜? タイムマシンとか興味ない?」


6.

 あれから一年、いや正確に言えば-99年。僕はカルチャーショックに襲われていた。

 今からちょうど100年後、タイムマシンができたのだ。今から99年後の自分に言ってもバカバカしいというだろう。しかし、できてしまったものは仕方がない。鹿波に伝わる一世紀にわたる一大プロジェクトだった。始まりは今日この日だったらしい。そして、初めてタイムマシンが動いたのはちょうど100年後の今日だ。


「堺すごいなぁ!」

「これが100年前の世界……」


 タイムマシンというか正確に言えば過去に遡り、そして現代へと戻ってくることしかできないのだが。


「なんか、見慣れないものがいっぱい走ってるな。これが車か」

「人の量はなんか鹿波と同じくらいだね」


 俺は地図を頼りにある人の元へと向かう。


「なんでわざわざこんな時代にしたの? もっと歴史的に全然資料が残ってない時代とか最初行けばよかったのに」


 タイムマシン最初に降り立つ地がこんなところであるのは製作者である「俺」の判断だ。


「このプロジェクトの名前覚えてないのか?」

「あぁ、あんたが変えたって名前? タイムマシンプロジェクトよりかは確かにそそられる名前にはなったかもね」


 ここか……少し緊張しながらインターホンを押す。


「ここどこ?」


 桜が怪訝そうに周りを見渡す。

 しばらくすると、ガチャっと音がした。ゆっくりと開く扉、僕の鼓動は少しづつ早くなる。


「さ、堺さん!?」

「え? なんでこの子あんたの名前知ってるの?」

「こいつが俺の夢、違う毎晩俺の元へやってきた俺の彼女だ」

「あ、あ、えっと茜です。よろしくです」

「お前のためにタイムマシンを作ってやってきた」

「話が超次元すぎてわからないんだけど」

「一年と半年前ぐらいにさ、突然茜がやってきて、それからいろいろあったんだ」

「堺さんは、夢の中の人物だったんですが、どうでしても夢の中の人物じゃなくて、どこかにいるんじゃないかって、それぐらい堺さんは夢の中で大切な存在だったんです」

「で、付き合った……っと。夜誰もいない家にひっそりと毎晩毎晩現れる未亡人……堺、何があったか、とりあえず一つ一つ言っちゃおう!」

「な、何もないですよぉ!?」

「お前の夢より破廉恥なことは起きてないから安心しろ」

「あのとき、タイムマシンを作ろうって私に持ちかける前ぐらいから話してた不思議なことは彼女のことだったのね。しかも堺の夢の中じゃなくて現実で起きてたこと」

「私の夢の中のことが現実だってことがいまだになんか実感がわきません……」

「でもこうして僕はここにいるんだ」


 僕はくるっとターンする。茜は一緒ににこっと笑う。


「あぁあ、折角堺乗っ取り計画を立ててたのに」

「何その怖い作戦」

「堺を調教して私無しじゃ生きられないようにする計画。今度は茜ちゃん? だっけ、私の計画教えるから」

「お前の変な計画に俺の彼女巻き込むな」

「是非ご教授、よろしくお願いします」

「お前も乗るな!」


 「次の夜が明ける前に」プロジェクト。この大成功の裏には僕と茜の時を超えた単純で純粋な気持ちがあった。

 

 




 

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