初夏の駅
初夏の駅
さよならというように走り去っていってしまった。
ぼくは呆然と立ちすくんでいた。
次の電車は1時間後。フーッと息を吐く。
人気の無い小さな駅に乗客がいることは珍しいと言っても過言ではない。
2人用のベンチが1つあるだけでタバコの吸殻が押しつぶされた跡が残っていた。
多分清掃もろくにしていないだろう。
暑い・・・・・・
1人ベンチに座っている男が座っているのに気がつかなかった。
うつむいて居眠りをしているらしかった。
しかたなしに男の隣に腰を下ろした。
赤の他人にくっつくのは好きではない。
ぼくだけではない。
よく見るとみんな離れて座っているのだ。
友達にメールで遅れると書いてそれだけでいい。
簡単なことだ。
「乗り遅れたんですか」男が顔を上げずに訊いてきたのだ。
ぼくは一瞬ぎょっとしたが応じることにした。
「は・・・・・・はい」
「どこにいくんですか」男はまた訊いた。
「友達の家に」
「ぼくはずっとここにいるだけです。誰か来るとそれは嬉しいのです。
まぁ。1日3・4人しか見受けられませんけどね」
ぼくはこの男が何を考えているか分からなかった。
「ぼくに気がつかない人もいるんです。いや、そのほうが多い。
2人っきりだと気まずい。だからその人と親しくなりたいのです。
知らない人と仲良くなることは素晴らしいこととぼくはそう思います」
蝉が鳴きだした。
そうなのか。
この人はこんなちっぽけな駅でたまにきた人と何気ない話を生きがいにしているんだ。
「お仕事は何されているんですか」
ぼくが訊くと男はこう答えた。
「ぼくは普通の会社で働いている人でした」
「ぼくはアルバイトしかやってませんけどね。楽しいですよ」
それから時間いっぱいおしゃべりをした。
以外に弾むもんなんだな。
電車が来た。
「じゃ、また」ぼくがいうと男は頷いた。
また、逢えるかな。
窓から見たけどだれもあの男さえいなかった。
でも、不思議にこんなこと当たり前と思えた。
二重投稿です。