モブキャラの放課後
「君、やりすぎたんだよ」
「やりすぎとは、なんのことですか? 先生」
「川崎君、とぼけても無駄だよ、調べはついているんだ」
断定的に言ってくる。
ま、俺に心当たりがない訳じゃない。
でも、何がばれているか、何がばれてないかわからない以上、相手が何を知っているかを確認する必要はある。
「いえ、なんのことか、言って貰わないとわからないですよ。少なくとも法律に触れるようなことは、してないはずです」
「いや、法律に反する行為も行っている。見に覚えはあるだろう。」
いや、俺は、違法行為は特にやってないはずなんだが。
あ、もしかしてこの前、荷物送った時に納品目録を箱に入れて送ったことかな?
よく知らないけど、郵便法違反になる行為だと聞いたことあったような。
「まだわからないのか?偽計業務妨害と、有印私文書偽造だ」
……は?
いや、そんな大層な名前の罪をおかした記憶は無いんだけどな。
俺がやっているのは、せいぜい……
「川崎 亨、いやPN 鈴木 光といった方が良いか?」
く、それが知られているのか。
だが、そのPNが知られている所で、一つの黒歴史が知られているにすぎない。
とても偽計業務妨害や有印私文書偽造にはならない筈だ。
中学二年の夏休みに書いた少女小説「マーガリン畑で生まれた恋」のPNに過ぎないんだから。
……新人賞に応募してみたら、まさかの大賞になって作家デビューしちゃったんだよな。
その後、マーガリンは植物性だけどマーガリンという植物はないと知って、完全赤面状態になれたよ。
それなのに売り上げはかなりのもので、他の作品を描きませんか?と今もたまに言われるよ。
「私はあの小説で、マーガリン畑があるものだと信じて、生徒達にマーガリン畑のことを授業で教えたんだ。 その後でとんだ赤っ恥だ。あんな嘘で人を騙すとは、酷過ぎる。 偽計による業務妨害や有印私文書偽造に当たると言ってよかろう」
いや、それ俺の責任なのか?
確かに、思いこみで間違ったこと書いた非は認める。
でもその裏付けも取らずに授業で教えたのは、先生じゃん。
その場に俺がいれば、実は間違いだと訂正をかけられるかもしれないけど、その当時俺は中学生で、高校の授業で行われていることなんて知りようがないし。
それに業務妨害や私文書偽造にはならないと思うんだ。
俺自身勘違いしてたんだから。
「でもなんで、俺が 鈴木 光だとわかったんです? プロフィールでも女の子っぽく編集さんに書かれちゃって、男だとわかるとは思えないんですけど」
俺の自己紹介は、
”恋に恋する中学生作家。大人の恋にあこがれてちょっと背伸びをしたいお年頃”
なんて書いてあったのだ。
俺、こんな自己紹介書いてないよ。
流石に抗議したけど、商業と言うのはこういうものだと取り合ってくれなかったっけ。
そういうのもあって、別の作品をと言われても拒否したんだけどさ。
今では、早く忘れたい黒歴史でしかない。
「新人賞の授賞式の写真データがファイル共有ソフトで流出していてな。 それでお前が大賞を取った時の写真を見ることが出来たんだよ。 写真を見てすぐに分かった。川崎だってな」
一応変装として普段はかけていない眼鏡とか使って印象を変えようとしたんだけどなあ。
藤沢先生、顔に似合わずストーカー気質だったりしないか?
「そうは言っても、俺は単に小説書いて出版しただけですよ? まさか男子校の先生が読んで、その間違った知識を授業で使うのを予想しろと言われても、無茶ぶりですって」
「いやまあそうなんだが、自分のやったことの影響を知っておいて貰いたかったんだ。所で、別作品は書かないのか?」
「いえ、男が少女小説を書くのは、黒歴史ですって。中学生だからこそできたことで、高校生の俺には無理ですよ」
「そういうものなのか、残念だが本人に書く気が無いと言うのでは仕方ない。 でも、マーガリン畑で生まれた恋は傑作だったから、他の作品も良いと思うんだがな」
強面の藤沢先生が少女小説家としての俺のファンって。
世の中わからないものだな。
でも、知られているのはどうもこれだけのようだ。黒歴史ではあるけど、これだけなら何とかなる。
「あ、先生。このことは秘密でお願いしますよ」
「安心しろ。今の世の中、個人情報保護にはうるさい世の中だ。 ただでさえ批判の多い教職に就く私がバラしたなんてなったら、雇用の継続が危ない。 俺は教師としての仕事が好きだし、解雇されてから仕事探すにはきつい年齢だからな」
「それなら助かります。職を賭けてまでばらす程の価値のある情報ではないでしょうから、黙っていてもらえるのは信じられます。 でも、ファイル共有ソフトで流出していたんですか。はあ」
「ま、普段接する私だからわかったんだ。そう簡単にはわからない筈だぞ。 教師である私達は生徒の顔を全部覚えて、どんな子であるかを叩きこむ義務がある。 そう言う立場だからこそわかった話だから、気にするなよ」
そういうものなのか。
普段馬鹿にしている先生は多いけど、俺達の名前は名札をつけているわけでもないのに間違えずに言うことが出来ることを考えると、日々努力されているんだな。
ちょっと、感動してしまう。
先生達を尊敬出来るようになる裏事情を聴けたという意味では、今回のことは悪くなかったのかもしれない。
放課後に呼び出しを受けて赴いた藤沢先生から解放されて、アルバイトをやっている冒険者ギルドに向かう。
正式名称は、独立行政法人 特別能力開発・特殊生物駆除機構 なんて漢字だらけの名前があるけど、職員含めて誰も正式名称を普段は呼ばない。
だから、マスコミが問題のある法人として報道していても、酷い法人があるんだねえなんてお茶を飲みながら喋っていたレベルだ。
それはともかくとして、依頼の掲示板を眺める俺。
「ゴキ龍が大量発生したので、駆除してくださいか。 これってこの前解決済みになってなかったっけ?」
「ああ、そこは、龍脈の流れが異常になっているようで、根本的にはそっちを解決しないといけないんだ。 でも、龍脈発電に悪影響が出るのを防ぐために、根本解決の許可が下りないんだよね。 本当、困った困った」
俺の独り言に暇そうな職員Aこと、品川さんが答えてくれる。
ゴキ龍は、Gと呼ばれて嫌われることは、ゴキブリと一緒なんだけど、腐っても龍だけに駆除するには、冒険者じゃないと危険なんだよな。
それも、数が多いことも多いから、有段者の実力持ち冒険者じゃないと依頼を受けることすらできない。
俺は、五段ライセンスを持っているので、勿論簡単に受けることが出来るんだけどさ。
そう、俺の隠しておきたい秘密は少女マンガの黒歴史もだけど、冒険者であること自体だったりする。
俺が通う国土高校は、所謂おぼっちゃま学校だから、先生が依頼人として訪れる以外では冒険者ギルドとの接点はない。
生徒本人に問題が起きても、家人が依頼を代わりに出しに来るだろうしね。
そんな高校で生徒の俺が冒険者をしていることには理由がある。
……俺、前世があってこの世界がエロゲ「魔応大学物語」の世界だって知ってるんだよね。
で、俺こと川崎亨は、主人公 戸塚 信虎のライバルキャラ川崎 肇の弟で、兄がゲーム主人公と戦うことがきっかけで家が没落することが決まっている。
となると、没落した後の為に、手に職をつけないといけないわけでさ。
主人公の兄に対する怒りは凄かったから、弟の俺も一般企業の社員や公務員になる道はなさそうだしね。
それでも、冒険者であることも出来ないようにされる可能性を考えると、出来るだけ秘密にしておいた方がいいと思うんだ。
没落した後までと思うかもしれないけど、戸塚家の権力の大きさを考えると油断はできないと思うんだよね。
そんな戸塚家相手に対抗する兄貴を止められればとも思うけど、俺が大学は全寮制の大学で学園祭など以外では、家族すらも入ることが禁じられている。
俺が生徒として入りこむにも、年齢的に大学生になれる頃にはすべてが終わっちゃっていて意味が無いからね。
気づいたのは4歳の時なんだよね。
あの時のことはおぼろげにしか覚えてないけど、衝撃だけは今でも覚えている。
で、年齢から計算して間に合わないことを知った。
兄を変えるにも歳の差が離れすぎていて、母親まで違うので家では接点ほとんどない以上、俺が変わるしかないと判断したんだ。
多少の文字ぐらいしか分かっていない俺は、母に頼みこんで家庭教師をつけてもらって勉強を始めることにした。
肇兄さんを補佐する為に頑張りたいと言ったら、とんとん拍子に話が進んだな。
母は複雑そうな顔をしていたけどね。
兄を追い落として俺を当主にと考えていたんだろうね。
家庭教師は割と優秀な人で、勉強も魔法・戦闘もそれなりにできるようになった。
兄の護衛役も視野に入れていたようで、戦闘術の基礎も教え込まれたんだよね。
坊ちゃんの俺のくせに、意外と適性があったみたいで、母が儚くなってしまわなければ、今頃兄の護衛としてのエキスパートになっていたかもしれない。
だが、母の死によって家庭教師による教育も終わってしまった。
父はすぐに別の妻を迎えて、表面上は俺もその人を母と呼ぶようになったけど、実の親子ではない為にわざわざ教育の為の家庭教師を雇い続けるなんてことはしてくれない。
父に頼むにも、父は子供の教育に完全無関心だからね。
それでも基礎は叩きこんでもらえていたので、その後は独学で対応した。
貰っていたお小遣いで、戦闘道場に通うなどして頑張った.
最初の家庭教師の方の教え方が良かったんだろうね。
あっという間に頭角を現すことが出来て、戦闘組手全国大会小学生の部では、小学一年生ながら準優勝することが出来た。
決勝で負けたことは悔しかったけど、逆に慢心せずに済んだという意味では、勝者の六年生には感謝しないといけないと今では思っているよ。
その大会に冒険者ギルドの人が来ていたことで、冒険者ギルドにスカウトされた。
最初は、子供冒険教室に参加しないか?と誘われただけなんだけどね。
組手と違って、狸猫や、犬狐複数との戦いは、一度に一つの敵だけを相手にしていればいいというわけじゃないことを学べて、良い経験になったよ。
流石に子供相手だけに、負けても多少怪我する程度ですぐに治療されるように躾けられている。
外見も可愛いから、戦闘そっちのけで抱きついている子供もいて、抱きつかれて喜んでいる犬狐もいたっけ。
あの女の子可愛かったな、今頃どうしているんだろう。
……関係ない妄想は忘れよう。
ま、その教室で冒険者の適性を認められて、小学校に通いながら冒険者をやることになった。
はじめは十級からだから、大したことはやらせてもらえない。
でも、俺みたいな幼児が来ると言うことで、お年寄りの依頼人からは喜ばれた。
中には、俺と話したいという指名依頼を入れてくれる人までいて、割と忙しかった。
勿論その間にも勉強や鍛錬は、徹底的に行った。
冒険者ギルドもそれを望んでくれたしね。
将来大成する可能性の高い子供を使いつぶすとか、コストパフォーマンスが悪いと考えてくれたようだ。
小学校での成績はダントツトップレベルを維持していた。
弟も生まれ、新たな母からは完全無視されて公立の学校に通っていたのも原因だろうけど、冒険者ギルドを塾代わりに勉強させてもらえるんだ。
成績が悪いわけがない。
適度に上流階級だということで、家庭教師に教わっていると思ってもらえたみたいだから、学校では特に疑問を持たれていなかったね。
もっとも、放課後全然遊ばない俺はあんまり友達はいなかった。
冒険者ギルドにも同年代の子供がいたから、彼らと仲良くなれたからあんまり寂しくなかったしね。
そういう流れで、小学校での俺は、ネクラマンサーというあだ名がついていた。
別に魔法はそこまで得意じゃないし、学校では、授業以外では使ったことないんだけどな。
冒険者であることは隠す方向で動いていたけど、一度冒険者をしている小学生ということでテレビにちらっと映ったのがいけなかったらしい。
映る気はなかったから隠れていたんだけど、偶然映り込んじゃったみたいなんだよね。
なんで俺が冒険者できるのか?と考えたみんなが、死霊術を使っているんじゃないか?となったらしいんだけど、名誉棄損にも程があるよ。
第一、死霊術は存在こそするけど、他人のお墓から人掘りだすのは犯罪だし、動物の死霊を使うぐらいなら生きた動物使う方が余程効率いいから、殆ど使い道ない魔法なんだしさ。
そういうこともあって、中学は越境通学をさせてほしいと願った。
表向きは、地元の学校が妊娠騒動を起こしたからちょっとまずいんじゃないか?と親に提案しただけなんだけど、裏向きは冒険者稼業を秘密にする為に知り合いのいない学校に行きたかったと言うのが本音。
別に、公立を越境通学するだけなら別にお金がかからないこともあり、簡単に話は通った。
私立に入ると言う選択肢もあったのかもしれないけど、それをすると通学に時間とられて勿体ないしね。
そうそう、良くおぼっちゃま学校なんかでありがちな車での出迎えは、俺はやってもらっていない。
兄や弟は普通に行われているんだけど、俺は家では無視されちゃっているからね。
兄は長男として、弟は生母が妻である権力を笠に待遇が良いけど、俺は母が生きていないが為に無視されているに等しい。
母方の実家と商売上対立しているのも、大きいのかもしれない。
中学二年の一学期の時に、モンスターとの戦いで大怪我した人を見て、冒険者稼業一本は危険だと考えて、小説を書いてみようと思い立った。
その頃には一級になっていて、段位が目に見えていただけに、気の迷いもあったんだろうな。
我ながら傑作だ!と思って、「マーガリン畑で生まれた恋」を少女小説の新人賞に募集したまでは良かった。
落ち着いて考えてみると、とてつもなく恥ずかしい。
しかもとんとん拍子で、通過していてとうとう大賞を受賞してしまったんだ。
辞退することも考えたけど、それはそれで目立ってしまって冒険者稼業のことがばれるんじゃ意味がない。
その一作だけは書籍化されるにしても、何とかなるだろうと思っていた。
……意外に売れた。
リアル中学生視点であることが、読者層である同じ女子中高生の心をつかんだなんて論評されていたけど、俺男です。
男の考えが女子学生の心と同じなんてあり得ないと思います。
マーガリン畑に行きたいと、ファンが農村に押し掛けて、マーガリンの畑なんてないよとのトラブルが起きている噂も聞いたけど、きっと気のせいだよ。
書いた時の俺、なんでマーガリン畑にしたんだ。
マーガレット畑にしておけば、伊豆半島南部を観光地にできたじゃないか。
いやまあ、あの辺は元々観光地だけどさ。
黒歴史を思う存分作った小説騒動で見切りをつけ、冒険者一本に戻った俺。
一本と言っても、中学校は普通に通っているから、放課後冒険者って感じなんだけどね。
転移の魔方陣が充実しているから戦うだけで戻ってくるから、冒険者って割と学生のバイトが多いんだよね。
個人商店のおじちゃんが冒険者と言うことも多いし、収入が良い副業って感じなのかな。
プロの冒険者もいるけど、そう言った冒険者は、遺跡の探索や海外派遣が多い。
冒険海外協力隊は、全世界で活躍しているし。
日本の進んだ魔法技術を現地の人達に教えることで、モンスター退治を自分達でやってもらえるようにすることが夢って隊員の人達が語っていたけど、輝いていたなあ。
そんなこんなで高校生になり、今に至るわけだ。
冒険者レベルは五段、通う高校は学区トップ校で、成績優秀となっているが、家じゃ空気なのは変わらない。
高校の学費は、高校無償化のおかげで払わずに済んでいるし、今までためたお金で自力で大学いけそうだから、問題ないんだけどね。
それにそろそろ兄の騒動で没落する時期だ。
良いアパートが無いかを探さないとな。
俺一人がすむだけなら、ワンルームのぼろ屋で十分だろうし。
私物は、冒険者用の収納鞄に全部入れればいいんだしね。
本当、なんでも入るし、重さを感じずに済む鞄って便利だよ。
今日は、ゴキ龍駆除をしただけで家に帰ろう。
国のエネルギー政策が絡むとはいえ、定期的にゴキ龍発生させることで利権にしようとしてないよな?
ささっと片付けて報酬を貰う。
貰うと言っても、カードキーで認証して、銀行口座に振り込まれるだけなんだけどね。
家に帰ると修羅場が発生していた。
そっか、今日だったのか。
アパート探しは間に合わなかったけど、カプセルホテルにでも行けば何とかなるかな?
「肇!なんて言うことをしてくれたんだ。戸塚家と戦うなんて私たち川崎家にできるわけが無かろう!」
「うちなら何でもできると言っていたのは、親父じゃないか!」
「程度の問題がある!」
どうも、兄は主人公との対決に敗れて、その報復で川崎家が潰されたようだ。
知っていた俺は、とうとう来たか程度だけど、家の中は大混乱。
後難を恐れた使用人達は、退職金代わりに値段の高そうな宝石などを略奪をしてから屋敷を逃げ出すし、屋敷は既に差し押さえられて、父や兄弟は、家の外で茫然としている。
弟の母は、弟達を見捨てて実家に逃げ帰った。
「じゃ、俺は今日の宿を探すよ。親父たちも元気でな」
「亨! お前には何か宛てがあるのか?」
「宛てなんてないよ。ただ、夜を外で過ごすわけにもいかないから、カプセルホテルでも探して泊まろうかなと。ゆくゆくは、アパートを借りたいところだけど、住所不定になっちゃったのが痛いな。
住民票を何とか取らないと、貸してもらえないかも」
「なんでそんなに冷静なんだ? お前も全財産を失ったんだぞ?小遣いで何とかできると考えているのかもしれないが、来月からは小遣いを渡せないんだぞ? 分かっているのか!」
父が叫ぶように言ってくるが、スルーさせてもらう。
今まで冒険者稼業でため込んだお金もあるし、マーガリン畑で得た印税だってある。
流石にその口座は、川崎家とは完全に別の銀行口座にしてあるから、差し押さえられはしないと思うんだよな。
振り込み元がしっかりしたお金ばかりだから、口座が発覚した所で川崎家の隠し財産ではないと主張するつもりでいるし。
もう話すのも無駄だと、一歩一歩屋敷から遠ざかる。
まだ何か父達は騒いでいるようだけど、疲れたら黙るだろう。
その後はどうするのかな?
扶養しろと押しかけられても困るけど、未成年の高校生に扶養義務ってあるのかな?
自分達で生活保護でも貰ってくれると助かるんだけど。
あ、でも住民票を今回のことで失っちゃったから、保護申請自体できないかな?
ああ面倒だ。
何とか扶養せずに済む方法ないかなとも思うけど、難しそうだ。憂鬱。
でもまあ、何とかなる筈だ。
没落と言うゲームのエンドはこれで迎えた。
これからは、俺のオリジナルの人生だ、頑張って生きつづけよう。
……そう思った俺は青かった。
「川崎様、ようこそおいで下さいました」
住宅あっせんを受けようと冒険者ギルドに顔を出したのがまずかった。
そこで会ったのは、兄に勝利した戸塚 信虎本人と兄を振ったヒロイン、鎌倉 政子さんカップル。
なんでも、俺が冒険者であることを把握していて、是非会いたかったとのこと。
隠しておいたのにバレバレって、どういうことだよ。
マーガリンのこともばれていて、ヒロインからはファンですなんて言われて真っ白になった。
そのまま戸塚家に連行されて、当主様とご対面となっている。
「信虎、彼がお前と敵対していた 川崎 肇 の弟でありながら、冒険者レベル5段にして、少女小説家の 川崎 亨 か?」
「ええ、そうです。 張りぼてでしかない川崎家の一員でありながら、実力は間違いなく確かですね」
「こんなに若いのにその実力とは。 高校の成績も優秀であるようだし。 分かった、彼を本家の養子にする」
「それが良いですね。 完全に滅ぼしたとなれば外聞が悪いですが、実力確かな彼を養子として引き取るとすれば、評判が良くなることでしょう。 しかし、こんな逸材がいるのに活かさないとは、川崎家も節穴揃いでしたな」
「ああ、潰すだけなら出費にしかならないが、良い投資になった」
何がどうなっているんだ?
勝手に話が進んで行く。
「あの、俺の意思は?」
「君、18歳未満だよな? この場合は親の承諾さえあれば何の問題もない。 これからは川崎家ではなく、戸塚家の一員として頑張ってくれたまえ」
よくわからいうちに戸塚家の養子になった。
普段の生活は殆ど変わらないけど、待遇は劇的に良くなった。
養子と言うより、五段冒険者を食客にしている扱いのようだけど、高校のみんなにも五段冒険者である旨が公開されて、体育祭ではひっぱりだこになっている。
マーガリンの件だけは、公開しないでくれと頼み込んではいるけど、文芸部から入部の誘いがきたのって、もしかしてばれているのかなあ?
まあ、何とかして行くしかないね。
淑美林学園の騒動のプロット再構成中に思いついたものを短編にしてみました。
楽しく読んでいただけのでしたら、幸いです。