カーテンコール③
「まあ、こんなもんですかね」甲原リッカは腰に手を当て言った。
「ふふう!」ピンク・ベル・キャブズ社長のピクシィ・マンブルズが歓声を上げて、クルッとその場で一回転した。「素敵なお部屋ねっ!」
「……ええ、そうですね、」明方支店所長の跡見クウスケは引きつった笑いを作り、社長である十一歳の破裂する魔女であるピクシィに頷いた。「あはは、確かに、素敵なお部屋だ」
支店の三階の跡見のアトリエはすっかりピンク色の染められてしまった。白かった壁にはピンク色の壁紙が貼られ、搬入されたソファ、タンス、机、椅子などあらゆる物がピンク色だった。破裂する魔女はピンク色の部屋を好む。跡見の絵描きの道具と壁に飾っていた魔女たちの肖像画はガレージのタイヤの横に撤去されてしまった。跡見はかつてのアトリエの変わり果てた姿を見て、涙が溢れそうだった。しかし、これからここの住人が増え、賑やかになることは悪くないことだと思った。これから、ピクシィとリッカは明方支店の三階に住むことになった。それは一向にピンク・ベル・キャブズで働いてくれる魔女が見つからないのと、この明方市でピクシィが友達を見つけたからだ。
「社長にはずっと同世代の友達がいなかったの、」リッカは跡見に教えてくれた。「小さな頃から特別な教育を受けてきた社長には友達がいなかった、周りの普通の女の子と上手くコミュニケーションが取れなかったんだろうね、社長は不登校になった、そして魔女でもないのに魔法の研究を始めたの、たまにいるのよね、魔法を編めないのに、魔導書を読めて魔法の理を理解してしまう天才、あんな風にハイ・テンションになったのは魔女に開花してからの話でね、だから、ええ、とにかく私はそんな社長とずっと一緒にいて、社長の悲しい顔を知っているから、友達が出来た今の時間を大切にして欲しいんだよね、だから社長に強引に頼んだんだ、帰らないで下さいって、私と一緒に明方支店を立て直しましょうって、社長は頷いてくれた、社長だって友達と別れるのは嫌だったんだ」
窓からは黄昏の紫の太陽がピンクの部屋に光を注いでいた。
跡見は窓を開けて、外の空気を入れて、気付く。「社長、カーテンがありません」
「え、嘘っ、」ピクシィがオーバに言う。「カーテンがないっ!?」
「ああ、しまった、」リッカが額を押さえて言う。「すいません、買い忘れました、すぐに買ってきますので、デザインは、どうなさいます?」
「ピンクっ!」ピクシィが威勢よく言う。「ピンクだったら、なんでもいいよっ!」
「はい、分かりました、」リッカは頷いて、跡見の方に視線をやる。「というわけで、クウスケ、車を出してくれる?」
そのタイミングでインターフォンが鳴った。跡見が動こうとしたら、リッカが先に反応して階段を降りていった。すぐに階下からリッカの声がした。「社長、お友達が迎えに来てくれましたよ」
「あ、もうそんな時間っ!?」ピクシィは慌てて机の上の鏡に顔を映して、ピンク色の髪に素早く櫛を入れた。そして跡見の方に体を向けて聞く。「クウスケ、どう、何か変なところない?」
「ネクタイが曲がっていますよ、」跡見はピクシィのネクタイの歪みを直して聞く。「よし、これで大丈夫ですよ」
「ありがとう、クウスケ」ピクシィは破裂するような笑顔を見せる。
「おめかしして、これからどちらに行かれるんですか?」
「パーティよ、パーティ!」
「それはいいですね、楽しんで来てください」
「うんっ!」ピクシィは大きく頷いた。「じゃあ、行ってきまーす、レッツ、パーリィ!」
ピクシィは箒を手にして、破裂する勢いで階段を駆け下りて外へ出た。
窓から見降ろせば、四人の小さな魔女たちが箒に跨り、空に飛び立った。
すぐに小さくなって、夕日の前のカラスと変わらないシルエットになる。
「クウスケ、」リッカの甲高い声が後ろからする。「カーテン買いに行くわよ」
「リッカさんは飛ばないんですか?」跡見は振り返って聞く。「そう、例えば、僕を後ろに乗せて飛んでみるなんて、どうですか?」
「何か言った?」リッカは威圧的に睨み、強く言って、シルバの髪を煌めかせ、次の瞬間には鋭利なナイフを握っていた。「社長の素敵な部屋だからナイフは投げないけど、クウスケ、さっき、なんか変なこと言ったよね?」
「いいえ、別に、はははっ、」跡見は無理に笑ってメガーヌのキーを手にして言う。「じゃあ、行きましょうか、ピンク色のカーテンを買いに」




