第四章⑳
終わらせない。
リバースからギアをニュートラルに。
そしてハイに繋いだとき、そういう気持ちだった。
ギアは確かに繋がった。
繋がって、確かにアンナは初めて最低の状態から魔女になったけれど。
でも髪の色は煌めかなかった。
魔女にはなれたのだろう。
でも。
エネルギアがゼロの状態の魔女だ。
そんな魔女が出来ることと言えば、箒に跨がり、ふんわりと空を漂うくらいだと思う。
でも。
アンナの髪は再び煌めいた。
理由はよく分からない。
ギアを繋いでしばらくしてノリコにもらった不幸なお守りが煌めくのは見えた。
そして煌めいた。
それがトロイメライの力、なのだろうか。
分からない。
よく覚えていない。
まるで夢を見ているようだった。
ミチコトは黒い着物ではなく純白のワンピース姿で向かってきた。
アンナは体が反応するままに、ミチコトに応戦した。
すでに意識は曖昧だ。
全てがスローモーションに見え。
指先の感覚すら曖昧だった。
しかし魔法は編み続けた。
魔法を司る脳ミソのセクションがアンナにもあるのだとしたら、そこはきっとフル回転していた。
回転による摩擦の熱はずっと感じられていた。
ミチコトのエネルギアが失われつつあることは髪の色が徐々に悪くなっていることと呼吸が荒くなっているのと表情に余裕がなくなっていることで分かった。
アンナはミチコトのことを押し倒して、転がった。
そして。
そこからよく分からないんだけれど。
地面が消えた。
世界だ空だけになってしまったようで、アンナはミチコトと一緒に落ちた。
その浮遊感は悪くなかった。
むしろ、気持ちがよかった。
眼を瞑り。
開けた。
そしたらそこにヨウコがいた。
ああ、これはやっぱり夢だと思った。
きっと不幸なお守りが見せている夢だと思った。
こんなところにヨウコがいるはずがないのだ。
ヨウコは一人でお昼ご飯を食べているはずなのだ。
ヨウコはアンナに手を伸ばす。
アンナもヨウコを一人にしたくないから手を伸ばす。
明日は皆で、お昼を食べて、放課後はバンドの練習をしよう。
ヨウコはアンナの手を掴んだ。
アンナも握り返す。
アンナはヨウコの体を抱き締めた。
なぜか景色が回転した。
走馬灯?
それは途中で止まった。
謎の浮遊感。
その直後に。
下から吹く、柔らかい風。
柔らかい地面に体が横たわる。
緑の匂いがする。
一度目を閉じて。
開けたら。
ヨウコの顔が近いところにある。
ヨウコの顔が鮮明に見える。
このヨウコは、現実みたい。
どうやらこの世界はまだ、夢じゃないみたい。
ヨウコは何かを叫んでみたいだけど耳鳴りが酷くて聞こえない。
とにかくアンナは気になって仕方がなかった。
「お昼休みはまだ、」アンナはピースサインを作ってヨウコに向けて口を開いて声を出した。「終わってないの?」