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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑱

 少女が魔女に咲く瞬間とは。

 十一歳のバースデイまでに隠された秘密の色が露出する瞬間とは。

 生々しく、厭らしく、そして。

 綺麗なものだ。

 しかしそれよりも、もっと生々しく、厭らしく、綺麗な瞬間がギアをハイに繋ぐことによっての開花だ、ということを大連の同じ研究グループに所属する間淵ヨシから聞かされたのは、この初春のことだった。

「ギア?」ミチコトは聞き返した。「ギアってなんですか?」

 チャイナの大連大学の理工学部の実験棟の中庭のベンチにミチコトとヨシは座っていた。日本から持ち込まれた桜は、紅色に近い濃い桃色の花弁を散らしていた。

「少女たちの歯車さ」

 ヨシはミチコトより六歳年上だった。ヨシは魔女として飛び抜けた才能は持っていなかった。もちろん、大連に入学出来るくらいの優秀さはあったが、ミチコトのポテンシャルの方がずっと上だった。しかしヨシは魔法に関する知識量が半端ではなく、魔法工学研究のあらゆる分野についても精通していた。実質ヨシが率いる研究グループは大連の学長からも世界の研究者からも期待されていた。ヨシは自らの研究グループを「金魚の会」、あるいは「ゴールド・フィッシュ・グループ」と呼んでいた。金魚の会、というは一九二〇年代の前半に大連に実在していたグループだった。それほど有名な存在ではないが、完全に無名という存在でもない。しかしグループの詳細を知るものはごく僅かだ。かつてのグループは体系された組織ではなかったし、グループと呼ぶにはその活動は個人的過ぎる面があったし、その成果はきちんと総括されていないままだったからだ。グループがいつ解散したのかすら、ハッキリとしたことは分かっていない。ミチコトがその研究グループに興味を持ったのは、今までと全く違う光エネルギアの創世を目指していたから、ではなくて、金魚の会、というその名称にあった。ミチコトは曾祖母が金魚の会にいたことを聞かされていた。金魚の会で曾祖母が何をしていたのかは知らないけれど、ミチコトには金魚の会に所属していた魔女の血が流れている。ただそれだけの理由でミチコトは金魚の会に所属した。所属して、ヨシと出会い、研究に没頭していた。魔法工学研究によって得られる興奮と緊張、それは魔法を編み、空を飛ぶことよりもずっと楽しいことだった。ヨシが「ギア」について聞いてきたときも、ミチコトは桜の下、白衣姿で論文に目を走らせながら、ベンチに座っていた。論文から目を離し、ミチコトは再度質問する。「少女たちの歯車?」

 ヨシはギアについての説明を始めた。ヨシの説明はいつも簡潔で分かりやすいものだった。まず大枠を説明してから、子細なことに目を向けていく。抽象を具象に。研究においても、その作業の進め方は無駄がなく、流麗だった。しかし、このときのヨシの説明はいつまで経っても抽象的だった。具体的な像を脳ミソに結べない。それについて先にヨシは謝った。「冗談を言っているように聞こえるかもしれないけれど、冗談というわけではないんだよね、ごめんね、僕はまだソレに触ったこともなければ、見たこともないんだ、だから細かいことまで言えないし、今から話すことが全て推定であることは少し、悔しいことなんだけれど、でも、確からしい、そういうものがあるのは事実なようでね」

「信じられません、」ミチコトは眼鏡を外して言う。「魔女でない少女を魔女にするなんて」

「だがしかし、」ヨシは桜の花弁を手の平の上に集めながら言う。「観測されたみたいなんだ」

「それは新しい銀河か何かの話?」

「そうだね、新しい銀河がある遠い世界のように、それとは未知の領域だ」

「疲れていらっしゃいます?」ミチコトは聞きながら、自分の太股を触る。「どうぞ、お使いになって下さい」

「いつもごめんね、」ヨシは頭をミチコトの太股に乗せた。「うーん、やっぱり、ミチコの太股は好きだな」

「ミチコトです、省略しないで下さい」

「ねぇ、ミチコ、しばらく日本に帰っていないでしょ?」

「はい、そうですね、こっちに来てから、一度、帰っただけです」

「ほら、従姉妹の、君がよく話してくれる、オリコにも会いたいでしょ?」

「オリコトです、」ミチコトはヨシの純粋な金色の髪を触りながら、大きく息を吐いた。「観測されたというのは、日本なのですか?」

「行って来てくれるの?」ヨシは無邪気な顔を見せる。

「そのギア、というものは、グループの研究にとって、その、大事なのですか?」

「うん、大事だよ、すっごく大事」

「本当ですか?」ミチコトはヨシを睨み付けてやる。

「ごめん、嘘、」ヨシは嘘が苦手だ。きっと根っからの研究者だから、真実に背くことは発言できないのだ。間違ったことは言葉にしない。そして間違ったことはハッキリと否定する。ヨシは背が小さくて、体つきも小学生みたいだけど、誠実で、尊敬に値する立派な研究者だ。「でも、何かしら、研究に作用する性質のものかもしれないよ、ちょっと、最近、ミチコも見え始めたと思うんだ、僕らの研究の、なんていうの、壁みたいなものがさ、その壁があるから、僕らの意味があると思うんだけれど、壁を壁にしたままではいけないとは思わないかい?」

 それからミチコトはすぐに支度をして、故郷の長崎に帰った。ミチコトの実家は長崎で旅館を経営していた。祖母が女将で、母が若女将、二人とも光の魔女で、瞳の色はブルーだった。そこにオリコトは住み込みで働いていた。ミチコトはオリコトのことを可愛がっていたし、オリコトもミチコトのことを「お姉ちゃん」と言って慕ってくれていた。帰郷したときも、オリコトは喜んでくれた。抱き締めて、キスして上げたかったけれど、ミチコトはこのときから、演技を始めていた。オリコトをその気にさせるために、かつての「金魚の会」のメンバを演じたのだ。もちろん、かつての「金魚の会」のことなど分からないから知っている少ないことから想像を膨らませて演じるしかないのだけれどでも、オリコトは優しい娘だからミチコトの思い通りになってくれた。そして二人でこの明方市に来た。

 ギアの研究という目的を持って。

 綺麗なものの研究という目的を持って。

「やっぱり、綺麗に咲くのね」

 アンナは今、魔女モード。

 ギアはハイに繋がった。

 燃えるように色づいた、紅色の髪。

 その煌めきは、綺麗だ。

 溜息が出るほど。

 すでにミチコトは、ヨシの意志と関係なく別に、ギアに対する興味で溢れていた。

 教会でアンナの開花を見てから、ミチコトはそれに夢中だった。

 そして確かめたくなった。

 アンナの最高を。

 限界を。

 本気を。

 その先を。

 そのための手段は厭わない。

 ヨシは怒るだろうな。

 彼女は平和主義者だ。

 このような強引で無理な手段は選ばないだろうな。

 でも、ミチコトは自分に溢れる探求心を抑えられない。

 それはきっと。

 金魚の会の血が流れているからだろう。

 彼女たちは、天使を目指した。

 天使とは、魔女の新たなる概念。

 最高の、その先の舞台。

 魔女の限界を探求して。

 そして。

 その企みは。

 その夢が叶ったのかは今となっては確かめられない話だけれど。

 確かにミチコトには受け継がれているみたいだ。

 血が。

 熱が。

 今も。

 アンナという道の可能性を目の前にして。

 騒いでいる。

 アンナはマアヤが編んだシガレロを口に咥えて吸って、煙を吐いた。

 さらにアンナの紅色の煌めきが増す。

 眩しい。

「眩しいっ!」

 興奮がミチコトに叫ばせる。「とっても綺麗だわっ!」

「そんなこたぁ、言われなくても分かってるんだよ、バカ野郎っ!」

 アンナは左足を前に、弾のないガトリングガンを重たそうに構え、ミチコトを狙った。

「喰らえ、私のとっておき、」アンナは口を大きく開けて。天に向かって吠える。「エンドレス・バーレイ!」

 アンナの煌めきは最高潮。

 ミチコトの光を消すほどの、紅。

 アンナはトリガを引く。

 ガトリングガンが回る。

 回る。

 グルグル回って。

 火炎弾が射出される。

 ミチコトはシエルミラを展開する。

 瞬間的に編んだシエルミラは千枚とちょっと。

 ミチコトは出せる本気を出した。

 エネルギアの心配はいらない。

 だから余裕がある。

 脳ミソがきちんと処理すれば、千枚とちょっと作って、それを束ねて一つの強固な障壁にする作業に一秒も掛からない。

 おそらく地球上で最高のシエルミラが、ミノリ・ミュージアムの三階に展開。

 それをアンナの火炎弾が叩く。

 叩き続ける。

 揺れる。

 響く。

 終わらない回転。

 繰り出される火炎弾。

 そのノックは続く。

 三分とちょっと。

 叩かれてシエルミラは。

 揺らぎ。

 ゆらゆら揺らいで。

 ついに。

 ひび割れた。

 シエルミラは崩壊。

 光の欠片になって舞う。ファンタジックな光景が一面に広がる。

 ミチコトは感動していた。

 このシエルミラを壊せる力に感動していた。

 感動を禁じ得ないとは。

 このことだ。

 強い光が失われ。

 その向こうを見れば。

 アンナの髪の色は黒い。

 紅色はすでに消え。

 目に力はない。

 右足はガクガクと震えている。

 アンナはただの少女だった。

 ガトリングガンの銃口は、射出し続けた火炎弾の熱によって、融解し、元の形状を留めていない。

 弾けて、もう価値を失ったクラッカのようだった。

 ガトリングガンはアンナの手から床に落ちて音を立てる。

 アンナは揺らめく足を前に出しながら、倒れない。

 頭を抑える。

 魔女モードが終わった瞬間だ。

 最低なはずだ。

 最低が来ているはずだ。

 世界の掟から離脱したつけが、回っているはずだ。

「最低だ、最低だ」

 アンナは俯き、呟きながら、ミチコトに向かって歩いてくる。

 ミチコトは驚いていた。

 まだ立っていられるアンナに驚いていた。

 アンナはミチコトを睨んだ。

 力を徐々に目に戻している。

 横に揺れながら、倒れない。

 歩く。

 歩き続ける。

 ミチコトは感動を禁じ得ない。

 ミチコトは風を起こした。

 アンナの髪が風に暴れる。

 アンナは後ろによろめく。

「最低っ!」

 もう倒れると思った。

 残念だけどこれまで。

 そう思った。

 よく頑張った。

 素敵なものを見せてくれた。

 ありがとう。

 もういいよ。

 優しく抱きしめて上げる。

 それからあなたの細かいことを教えてね。

 ミチコトは歯車に身を託した少女と仲良くなることを考えていた。

 しかし。

「じゃ、ないっ!」

 アンナは倒れなかった。

 二つの足で立っている。

 立って、前のめりに、拳を振り上げて、ミチコトに迫ってくる。「バカ野郎っ!」

「無謀だわっ、」ミチコトの声は高く、弾んでいた。きっと表情は笑顔だった。「無謀よ、無謀過ぎるわっ!」

 ミチコトはアンナの拳を簡単にかわす。

 最低の状態で力のあるストレートを出せるわけがない。

 今のアンナは魔法を編まなくたって、ミチコトの敵じゃない。

「ニタニタ笑ってるんじゃねぇ!」アンナはミチコトの顔に向かって回し蹴りを放つ。

 これも簡単に避けた。

 早さがない。

 鋭さがない。

 ミチコトはアンナの隙だらけの腹部を狙って爪先で蹴る。

 アンナは嗚咽を漏らして倒れた。

 せき込む。

 血を吐いた。

 ミチコトは大きく息を吐く。

 もう終わり。

 もう終わりにしましょう。

 そう思った。

 しかし、次の瞬間。

 額に痛みが走った。

 尖った石が、ミチコトの額に当たった。

 傷が出来て。

 血が流れる。

 アンナが投げた石だった。

「まだ、まだ、まだ、まだ、」アンナは再び立ち上がって笑う。「まだこんなもんじゃない、まだ勝負は終わってないっ!」

「そ、そ、そ、」ミチコトの体は震えた。興奮してどうにかなりそう。そんな風に気分が高揚していた。「そうよ、そう、こなくっちゃ!」

 ミチコトは微笑み返し、指をパチンと鳴らした。

 出番だと言う合図だった。メグミコの出番。アンナの限界を見るために作っていたシナリオだった。大事なお嬢さんが殺されそうになればアンナは、どれほどの力を見せてくれるのだろう。

 天使に近いものを、見せてくれるのではないかという期待が。

 これは残酷?

 いいえ違う。

 コレはあなたが。

 天使になるためのトライアル。

「あなたが頑張らなくちゃ、お嬢さんは返して上げないんだからねっ!」

 メグミコは打ち合わせ通りに舞台に姿を見せた。

 悲壮な、この場に相応しい、いい表情だ。

 ミチコトはメグミコに、全てのことは研究のためであることを伝えていた。最初は悪い魔女を演じていたが、メグミコが悲しむ様子もなければ、恋人の愚痴を言って来たりして、全然人質らしくもないし、ミチコトのことを怖がるどころか、なんだか懐かれてしまったから、全てを教えて協力を頼んでみることにした。メグミコは乗り乗りだった。恋人の愛が確かめられるって、やる気で目を輝かせていた。

 ミチコトはそちらに向かい、手枷と足枷をしたメグミコの後ろに立ち、首に手を回す。「今まで見えなかったと思うけど、実はずっとここにいたんだよ、あなたの大事なお嬢さんはね」

「お嬢っ!」アンナは悲壮な表情をして叫ぶ。「お嬢をどうするつもりっ!?」

「さあ、どうしよっかな?」ミチコトはメグミコの首筋に爪を立て、悪魔の目をアンナに見せる。「どうしよっかな」

「お嬢を離せっ!」

「さあ、アンナちゃん、どうするの、どうするの、どうするのっ」ミチコトは早口で煽る。「どうするのっ!?」

「ガタガタうるせぇんだよっ!」

 アンナは全身を揺らして叫ぶ。「バカ野郎っ!」

 アンナは左足を前に踏み込んだ。

 床が陥没し、姿勢は前に傾き、アンナの髪は垂れる。

 アンナの体の中心に近いところ、床が割れ、レバーが出現する。

 そのレバーは垂直じゃない。

 向こうに倒れている。

 アンナの背中の方に倒れている。

 つまり、リバース。

 最低な状態に、ギアが繋がっている。

 アンナはレバーの下に指をかける。

 力を入れる。

 歯を食いしばっている。

 でも。

 微動もしない。

 やっぱり無理?

 ギアを再び回転させることは。

「あなたの本気はこんなものじゃないでしょう?」

 凛と。

 涼やかな声が響いた。

「当たり前だ、」アンナはその声に反応して、がなる。「バカ野郎っ!」

「さあ、見せなさい、」また声が響く。「あなたの最高を」

 アンナはレバーを強引に持ち上げた。

 ニュートラルに。

 信じられない。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 声を上げ、押し倒す。

 高い金属音。

 ギアが繋がる音。

 響く。

 響いているから。

 アンナは再び、魔女になった。

 しかし。

 染まらない。

 髪が煌めかない。

 魔女のエネルギアがゼロの状態なのか。

 それとも魔女にはなっていないのか。

 ミチコトは分析した。

 分析していると。

 次の瞬間だった。

 アンナの手元が光った。

 右手。

 右の指。

 薬指。

 強い光だ。

 そして。

 アンナの周囲に無数の紅く光る花弁が舞った。

 バラの花弁か。

 それはゆっくりと落ち、アンナの髪に染み込む。

 そして。

 再び紅色に染まる。

「あれもトロイメライの形、」傍に立ち、言ったのはミチコトが眠らせたはずのスイコだ。「花弁の形をしたトロイメライとは、大勢の魔女の意志の形」

「え?」ミチコトはスイコに目を向ける。「一体、なんのことを言って、いや、それよりあなた、どうして?」

「じゃあ、少し頑張ってみて、任せて、大丈夫、ちゃんと、見ているから、研究に役立つように、このタブレットで、」スイコはどこからともなく、電子パッドを取り出してアプリを起動させた。「ちゃんと撮影しておくし」

「はあ?」ミチコトが首を捻ったところで急に体の力が抜ける感覚に襲われた。

 振り返れば、魔女二人がニタニタ笑っていた。群青色の魔女は、ミチコトのブースタの大事なバッテリを抱きしめていた。ミチコトにエネルギアを供給するブースタのバッテリだ。ブースタとはミチコトが纏う、黒い着物のこと。かつて、魔女はブースタで宇宙を目指した。そのブースタはロケッタと呼ばれるジャンルのもので、そちらの方がメジャだ。ミチコトが纏うのは魔女の能力を補填するブースタだ。このブースタを開発したのはヨシが率いる金魚の会に所属する、中国の魔女だった。開発した新型ブースタの名前は「極流華」。搭載したバッテリが保有し、纏う魔女に注ぐエネルギアの量は膨大だ。無限に近い。だからミチコトは煌めくアンナを前にして、いつだって余裕でいられたのだ。

「おかしいと思ったんだ、」風の魔女が笑顔で言う。「全然髪の色が悪くならないんだもん、いくら優秀な魔女でも限界があるはずなのに、それが来ないから」

「それにしてもとても小さいのね、」群青色の魔女はバッテリを眺めながら言う。「これが大連の最新研究の成果なのね、それにしても着物の形をしたブースタなんて久しぶりに見たよ、リバイバル・ブームだって八年前に終わってるし、まあ、だから気付かなかったんだけれど」

「か、返してっ!」ミチコトはバッテリに手を伸ばす。「返しなさいっ!」

 群青色の魔女は風の魔女にバッテリを投げる。風の魔女はそのバッテリをスイコに投げる。

 スイコはそれを手にして悪魔のように笑う。

 ちょっとその表情に、ミチコトはグッと来る。

「最新研究とは、水に弱いものなのよね、」スイコはバッテリを水で濡らした。「これで、もう使い物にならないね、さあ、あなたの本当の最高で、アンナの相手をしてあげて、きちんと見ているから、安心して、これはそう、アンナとあなたのトライアル」

 ミチコトはスイコに背中を押された。

 強く押された。

 一歩前に出る。

 紅色に髪を染めたアンナがゆっくりと立ち上がりこっちを見る。

 瞳は胡乱。

 おそらく周囲の状況を把握出来ていないのだろう。

 エネルギアに溺れている状態だ。

 ブースタの研究施設で、よく見る魔女の目。

 体内に流れるエネルギアをサブリナ・セクションで処理できなくなった魔女の目だ。

 エネルギアに溺れた魔女は、まるで夢を見ていたようだとその時の状態を語る。

 アンナもきっと今、そういう状態だ。

 そういう状態は魔女としてのポテンシャルを高める好機ではあるが。

 単純に。

 危険な状態だと言える。

 スイコという魔女は悪魔だ。

 そんな状態のアンナを放っておくなんてしかし。

 面白い。

 面白いじゃない。

 ミチコトは戸惑いを捨てる。

 笑って、挑発的に髪を払った。

 そして重たいブースタを脱ぎ捨てた。

 ブースタの下に、ミチコトは純白のワンピースを着ていた。

 袖が短く、スカートも短いから、ちょっと恥ずかしい。

 風が吹けば、パンツが見える。

 まあ、周囲にいるのは魔女ばかり。

 構わない。

 とにかく。

 ええ。

 ブースタがなくても。

 なくったって。

 ミチコトが優秀な光の魔女であることは変わらない。

 変わらない事実。

 真実だ。

 面白い。

 やってやる。「さあ、掛かって来い、バカ野郎っ!」

 村崎組の口癖が伝染ってしまったみたい。


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