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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑬

失えない。

 失えないものだから。

 渡さない。

 渡せない。

 歯車は渡せない。

 だから体に力が入る。

 緊張と興奮で、スイコの人差し指の爪がオリコトの首の柔らかい肌に食い込んでいる。

 痛い?

 痛くないでしょ?

 平気な顔をしているね。

 それでいい。

 それが正解。

 歯車になった少女たちはもっと、痛かったのだから。

 涙なんて見せたら。

 我慢してって。

 我慢しろって、がなるよ。

 いや、君は。

 こうされるのが、好きみたいね。

 変な魔女ね。変態ね。まだ、小さいのにね。

 スイコはオリコトに繋がった鎖を握り直す。

 鎖が擦れて金属の細やかな音色が耳に来る。

 ミチコトの返事を待つ。

 ミチコトの目は胡乱としていた。

 だからスイコは一瞬、失わなくて済むと思った。

 しかしでも。

 ミチコトは大きく息を吐いた。そしてスイコと同じように右手をピストルの形に変えて、その銃口と軽蔑する目をオリコトに向けて言う。「ごめんね、オリコト、」ミチコトの金色が煌めいた。「ここであなたは消えて、消えるということはこの世界からの離脱ということであり、意識の消失とはすなわちそれが、天使であることなのかもしれないわ、自覚できるかどうかは分からないけれど」

 スイコは舌打ちする。

 そういう魔女か、と思った。

 そういう選択をする魔女なのかと思った。

 ああ。

 ヒステリックが溜まる。

「イレイザ」ミチコトは短く発声。

 ミチコトの指先から光線が直線的にオリコトの心臓に向かう。

 スイコは纏っていたローブをオリコトの前に広げた。

 ローブはミチコトが編んだ光線に反応。

 光の光線を弾く。

 光線はミチコトを襲う。

 ミチコトは表情を変えず、人差し指をクルクルと回した。

 糸を束ねるように、光の線を束ねて、ぎゅっと握り締めた。

「レイザ・ブレイド」光が剣の形状になって、安定する。

 ミチコトは一度微笑み、光の剣を低く構え、ゆっくりとこちらに迫る。

 ふわりと跳躍。

 スイコはピストルの形だった右手を開き、手の平をミチコトに向けて群青色を煌めかせた。「ジステロ」

 大量の水をスイコは編んだ。

 大量の水が速度を持ち、ミチコトを襲う。

 しかし光の剣が水を縦に切り裂いた。

 その光の熱で、水は蒸発させる。

 蒸気にフロアが包まれる。

 視界が霞む。

「レイザ・ブレイド」そう発声したのはオリコトだった。

 スイコはオリコトに繋がる鎖から手を離した。

 オリコトの手錠は施錠してないない。オリコトの両手は最初から自由だった。

 オリコトはスイコの前で光の剣を構える。

 そして縦に振り下ろされたミチコトの光の剣を受け止めた。

 光同士がぶつかり、弾ける。

 光が弾け飛んだ。

 明る過ぎて何も見えない世界になる。

 すぐに光の量が調節された。ミチコトが冷静に調節しているのだろう。

 スイコの目は二秒麻痺した。

 それからぼんやりとした世界しか見えない状態が続く。

 村崎組の屈強な男子たちは光に溢れた世界に狼狽えた声を上げている。

 銃声が響く。

 誰かが何も見えないのに落ち着かなくて、引き金を引いたのだ。

「どういうつもりなの?」ミチコトが聞く。

「私は村崎組の人間になるの、だから、」オリコトの声が響く。「お姉ちゃんと戦うって決めたのっ!」

「何それ、何なの、理解不能意味不明だわっ!」ミチコトのヒステリックは鼓膜を破るほどの鋭さだ。「オリコト、あなたは私のシスタなのよっ!」

「お姉ちゃんは私を殺そうとした、」オリコトの声は悲鳴に近い。「私を殺そうとする人の傍にはいたくない、私は私を守ってくれる人の傍にいるの!」

「私があなたに注いでいた愛情の量って、半端じゃないのよっ!」

「お姉ちゃんの愛情なんて知らないっ!」

「バカなこと言ってないで、私の目を見なさい」ミチコトは優しい声を出す。

「目を見ては駄目よ、オリコト」スイコは早口で言う。

「はい、見ませんっ」

「感じて、オリコト、感じなさい、オリコト、私のとっておき、私の優しい薄明かり、」

 スイコの視界が徐々に戻る。

「トワイライト」ミチコトの声が優しく響く。

 スイコはその優しい薄明かりを見た。

 なぜかミチコトの瞳はスイコの瞳を見ていた。

 ミチコトは優しい微笑みをスイコに見せている。

 トワイライト。

 その魔法は。

「黄昏の薄明かりはあなたの心を正直に変える素敵な魔法、原初的な衝動を呼ぶ、あなたが心の奥に隠している本当を呼ぶ魔法、つまり、」ミチコトはスイコの両肩に手を置き、そしてギュッと体を強く抱き締め耳元で囁く。「センチメンタルになった?」

 ミチコトの問いかけは、正解だった。

 すでにスイコの視界は涙で見えなくなっていた。

 ずっと声にしなかった。

 あまり思い出さないようにしていた。

 考えないようにしていた女の子たちとの思い出が、胸にぐっと来る。心臓に噛み付いた。それはとても痛い。悲しい。

 だってその女の子たちはもう、この世界にいなくて。

 この世界に、私は一人だから。

 もう駄目。

 もう、涙が止まらない。

 何も出来ない。

 スイコはミチコトの胸に顔を埋めて泣いた。

 今まで我慢していた涙が全部、外に出たがっている。

 トワイライトに、魅せられて。

 どうすることも出来ない。

「おやすみななさい」

 ミチコトの優しい声に誘われて。

 スイコは泣き疲れて眠る少女のように目を閉じた。


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