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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑫

 がっくんとギアがリバースに繋がる。

 アンナはミチコトと目が合って。

 そういう感触がした。

 そういう感じがした。

 後ろに倒れずにいられたのは。

 藤井がアンナの肩を強く掴んでいてくれたから。

「逃げるな」藤井は小さく言う。

 急に思い出されたのは、十一歳の時のまだ村崎組のアンナになって間もない頃のこと。たった五年前のこと。

 初めての任務で悪い魔女にアンナはピストルを向けた。しかしその魔女は笑ったままだった。村崎組のあらゆる特殊な武器を使って、魔女はエネルギアも失い、拘束されて、口から血を垂らしているのにも関わらず、魔女は笑っていた。笑顔を崩すことはなかった。アンナがトリガを引けば魔女は死ぬ。それで終わりだ。でもアンナは震えた。魔女の微笑みが怖くてどうしようもなくて、ピストルを握る右手の力を抜いた。藤井はそのときもアンナの傍にいた。隣にいた。そのときもアンナに「逃げるな」と言った。藤井はアンナの右手を掴んで、ピストルをしっかりを握らせた。

「逃げるな」

「誰に言っているわけ?」

「村崎組のアンナに」

 藤井のその言葉に洗脳されてしまったのかとも思う。

 村崎組のアンナだと断定されることによって、モードが変わる

 五年経過した今でも、その洗脳は解けていないらしい。

 藤井がアンナにそう言う度に、完全にモードが切り替わる。

 アンナの重心は少し前に移る。

 感情が前を向く。

 まっすぐに、魔女を見つめることが出来る。

「ちょっと約束が違うんじゃないかしら?」ミチコトは手のひらを天井に向けて首を竦めて、もう一度言った。「私が望んでいた今日の十二時っていうのは、ここで、ここには私と君と、」ミチコトはアンナを指さす。「村崎組のお嬢さんと、私の大事なシスタだけしかいないはずなんだけどな、そのはずなのに、なんていうか、すっごく賑やか、まるでパーティね、ちょっと屈強な男子が多すぎる気がしないでもないけれど」

 振り返れば村崎組の屈強な男子たちは、ピカソを追ってミノリ・ミュージアムの二階のフロアまで上がって来ていた。シキの後ろにつき、ミチコトに対して牙を向いている。その後ろには魔女たち。とにかく、全員集合していて、確かに賑やか。

「ふふう!」ピクシィがピンク色の髪を踊らせて両手を広げてくるくると回転しながら高い声を上げる。「パーティ、パーティ、レッツ、パーリィ!」

「誰?」ミチコトはピクシィを睨み付ける。

「こら、」アンナはピクシィの回転を止めて抱き寄せる。「これはパーティじゃないんだからねっ!」

「おおう!」ピクシィは回転を止められて、変な声を上げる。

「その娘が爆破したのね?」ミチコトが聞く。

「うん、そう、私が爆破したの、」ピクシィは明るい声で答える。「でも、三階だけね、黒猫が私を驚かせるから、木っ端微塵に出来なかったんだよね」

「どうして爆破しようなんて考えたの?」

「この建物は元々老朽化が激しいもので、ええ、本日正午に爆破することが最初から決まっていたんです」

「あなたは?」ミチコトが藤井に聞く。ミチコトと藤井の遭遇は今が初めてだ。

「ええ、この建物の所有者である、皆川ノリコ氏の執事その一と、」藤井は辻野の腕を引っ張って言う。「その二でございます」

「嘘を付かないでくれる?」ミチコトは吐き出すように言う。「村崎組の藤井と辻野でしょう?」

「……その、なんと言いましょうか、」藤井は一度考える素振りを見せてから、ぎこちなく微笑む。「とても詳しいですね、村崎組のことをよくご存じだ」

「村崎組のお嬢さんは全て話してくれたわ」

「お嬢はどこ?」アンナは早口で聞く。

「お嬢さんが危険にさらされているっていうのにあなたたちは、」ミチコトは口元を加速させて荒々しく言う。「ここを爆破させようとするし、約束も守らないし、一体どういう神経をしているわけ、あなたたちの大事なお嬢さんは私に殺されるかもしれないのよ、分かってんの!?」

「何か、勘違いしているんじゃない?」響いたのはスイコの声だった。

 振り返ると、村崎組の男たちの間に出来た道を進み、アンナの前に出た。スイコは鎖を握っている。その鎖はオリコトの首に繋がっていた。オリコトは首輪と、手錠により、拘束されていた。

「あなたの大事なシスタも村崎組によって人質にされているのよ」

 アンナはミチコトの瞳が微動するのを見た。

「私は魔女だから知っているわ、あなたと同じ魔女だから分かることってある、血の繋がったシスタをこんな風に奴隷みたいにされるのを見たときの気持ちはよく分かる」

「そうね、ちょっと揺らいだ、」ミチコトは金色の髪を掻き上げる。「でも、だから、何なの?」

「取引の性質を変えましょう、」スイコはニッコリと微笑み、右手の形をピストルにして、その人差し指をオリコトの喉元に突き付けて言う。「アキュア・ガンはゼロ距離、自慢のシエルミラは意味がない」

「ちょっと意味が分からないんだけど、つまり、えっと、どういうことなのか、説明してくれない?」

「こいつを殺されたくなかったらお嬢を返せ、バカ野郎っ!」

 スイコは声を張り上げて言った。


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