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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑤

「♪ともに手を~、とーり、らんらららんらん、らんらんらんらん♪」

 ミノリ・ミュージアムに進路を取るムーブの中ではピクシィのリサイタルが開かれていた。ピクシィの声はまさに破裂するように響いていた。助手席に座るノリコも手を叩きながら、ゆっくりと左右に揺れて、口元を動かしていた。ノリコの歌声は無色透明と言うに相応しい、美麗なものだった。後部座席に辻野とピクシィが座っている。辻野はピクシィに手を握られ、一緒に歌わされていた。意外にも辻野は嫌がることなく、一緒にピクニックを口ずさんでいた。藤井は運転に集中するため、無口でいた。無口でいたが、気分はピクニックだった。メグミコが誘拐されてしまったというのに、こんな気分じゃ駄目だと首を振ってもピクシィの破裂するボイスは、まるでそういう力を持っているかのように、藤井の気分をピクニックにした。近い未来が絶望じゃないという確信すらあった。それはきっと、ピクシィというまだ若干十一歳の破裂する魔女のピンクの煌めきの凄まじさのせいだ。彼女ほどに濃い鮮明なピンクを藤井は今まで見たことがなかった。

「♪ピクニックぅ♪」

 高速を降りて、明方市駅前に差し掛かる頃に藤井はアンナに電話を掛けた。ミノリ・ミュージアムを爆破することを伝えると、アンナは驚いていた。「場所がなくなってしまえば、いくら光の魔女だって困るだろう、困れば誰にだって隙が産まれる、その隙を付いて、お嬢を救出する、元々爆破する予定だった建物だ、俺たちの仕業だと気付くのに、そうだな、二分ぐらいはかかるかもしれないな」

「三十秒の間違いでしょ? でも、爆破なんて危険だわ」

「心配いらない、爆破はピンクの魔女に頼む、間違いはないさ」

「そうじゃなくて、」アンナの声は苛ついている。「爆破なんてして、もし千場ミチコトがヒステリックになったりしたら、お嬢の身に危険が及ぶかもしれない」

「彼女の狙いはお前だ、お嬢を傷つけることに意味はない、それにこっちにも人質がいるんだ、妹を人質にしているんだ、魔女はシスタの関係を大事にするものだろう、向こうだって感情的になって下手なことはしないはずだ」

「ああ、その、オリコトなんだけど、私もよく分かんないんだけど人質からペットになったんだ」

「ペット?」

「うん、スイコのペットになったの、スイコがどんな魔法を編んだのか謎だけど、とにかくオリコトはスイコのペットになって、スイコの言うことならなんでも聞くの、よく分かんないと思うけど、そういうことみたいでそれで、スイコはオリコトに人質を演じさせて、」

「隙をつくんだな」

「うん、三十秒は作れると思うんだ」

「爆破と合わせて一分だな」

「村崎組の男たちは何してんの、邸に誰もいないんだけど」

「ああ、辻野は俺と一緒だが、他の連中はミノリ・ミュージアムの周りに、それぞれの仕事の制服を着て、待機しているはずだ、いつでも駆けつけられるようになってる」

「大丈夫かな」

「何が?」

「皆、慣れないことしてるんじゃないかなって思って、身を潜めるとか苦手そうな人ばかりだし」

「悪い、一度、切るぞ、」バック・ミラーに警官の姿が見えた。特殊生活安全課の融通が利く魔女たちじゃなくて、街のお年寄りの味方、制服をきちんと身に纏った巡査の姿が見えた。巡査はベルを鳴らして、立ち漕ぎしてムーブを追いかけてくる。「警察に、見つかった」

「はあ?」

「運転しながら電話が見つかった」

「はあ? ちょっと、藤井、」

 アンナとの通話を切り、藤井は細い路地にムーブを滑り込ませた。明方市周辺の地理は全部頭に入っている。入り組んだ路地を規則性なく進み、簡単に警官の追跡を巻いた。ダイハツの自動車の敏捷性には定評がある。

 明方市駅北口に近いモータ・プールにムーブを停め、四人はミノリ・ミュージアムに向かった。時計を見れば午前十一時を少し回ったところだった。モータ・プールからミノリ・ミュージアムまで五分と掛からなかった。ドーム状の三階建ての建物は、あの日にメグミコたちが無茶苦茶にしたまま保存されていた。三階部分のガラスは砕け、フロアの焦げた箇所が確認できる。アンナとスイコがやり合ったときに出来た焦げだ。入り口は赤いコーンと虎柄のバーが封鎖していて、黄色いテープが何重にも交差してガラスの扉に付着している。

 すでにメグミコのことを誘拐した、千場ミチコトという光の魔女はこの中にいるのだろうか。

 とにかく、一度中を確認する必要があるだろう。ノリコもミノリの肖像画を回収したいと言ってきた。「祖母の肖像画はミュージアムから持ち出してはならないと言われていました、祖母がそう言い残したのでしょう、でも祖母の面影を残したものは、あの肖像画しかないのです、ですから構いませんよね、藤井さんも、そう思いますよね?」

 藤井は虎柄のバーを蹴り、ガラスの扉にピストルを向けた。

「藤井さん、」辻野が後ろで言う。「警官です」

 自転車のベルが聞こえた。「ちょ、ちょっと、困りますよぉ、その建物は立ち入り禁止ですよぉ、」先ほどの警官だった。警官は高いブレーキ音を出して自転車を降り、帽子を被り直し言う。「運転しながら電話をした上に不法侵入、それからえっと、それ、本物ですか?」

 藤井はピストルの銃口を警官に向けて笑う。「本物なわけないだろう?」藤井は嘘を付き、ピストルを腰に差し、両手を広げて警官に近づく。「本物だったら、大変だ」

「ええ、大変です、というか、」警官は一歩後ずさりながらも藤井に向かって勇敢に聞く。「ここで何をしているんですか?」警官は藤井、辻野、ノリコ、ピクシィの順で観察した。

 ピクシィはとびっきりの笑顔で言う。「はぁい、私、ピクシィ、元気してた?」

 警官は二歩後退り、再び聞く。「ここで何をしているんですか?」

「これからこのドームを、」ピクシィは両手を広げて言う。「ばっくはつさせちゃうんだよぉ!」

「ば、爆発?」警官は鬼気迫る、という風な顔を見せる。「爆発って何ですか?」

「あの、実はこの建物、私が所有している建物で、」ノリコは名刺を警官に差し出し言う。「皆川ノリコと申します、このミノリ・ミュージアムの館長をしていた皆川ミノリは、私の祖母に当たります」

「は、はあ、そうですか」警官は名刺を受け取りながら、頭を下げる。

「もう古い建物でもありますし、以前ここであった魔女の喧嘩のせいで建物は御覧の通り滅茶苦茶です、滅茶苦茶なので、残していてもこの土地の景観を汚すだけですので、ええ、破裂する魔女である、この娘に爆破してもらおうと思いまして」

「爆破爆破っ、」ピクシィはニコニコしながら、その場で跳ねて言う。「爆破しちゃうよぉ」

「はあ、なるほど、事情は分かりました、でも、きちんと警察の認可を得ていますか?」

「あ、認可がいるのですか?」ノリコは藤井を見て言う。「認可はまだ、もらっていません」

「でしたら、爆破は認可をもらってから、ということになります、」警官は説明する。「道を塞いだり、近隣住民に知らせてからでないと、」

「大丈夫だ、」藤井は言いながら、スマホの画面を操作していた。「問題ない」

「問題ないことないでしょう」

 藤井は電話を掛けた。特殊生活安全課の拂田に電話した。拂田に次の合コンのスケジュールを話してから、ミノリ・ミュージアムを爆破するための認可をくれと言ったら、機嫌のいい拂田は沢山認可をくれた。「やるやる、認可をあげよう、沢山あげよう」

「認可はもらった、」藤井は電話を切り、警官に言った。「ちゃんと警察を通した、南明方署特殊生活安全課の拂田という魔女が認可をくれたからな」

「あなたたちは、その、」釈然としない表情で、警官は聞く。「何者ですか?」

「ノリコ様の執事その一と、」藤井は辻野の肩を触り言う。「その二だ」

「触らないで下さいよ」辻野はミノリ・ミュージアムの入り口の方に進み、そして黄色いテープをナイフで切った。

「とにかく、群青色の警察官、」藤井は彼の群青色を指差し言う。「入らせてもらうからな」

「ええ、どうぞ、」警官はうなづきながらも判断を迷っているようだった。「えっと、爆破が終わるまでここにいてもいいですか? その、近くに人が来ないように、警備していますから」

「どうぞ、ご自由になさって下さい」ノリコは施錠を解く。

 四人はミノリ・ミュージアムの中に入った。


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