第一章⑨
村崎邸に会同したメンバは藤井、辻野、松本、アンナ、そして魔女のスイコ、スズ、メグミコの七人だった。
場所は畳の部屋で、広さは畳二十枚分。東に一段高くなったスペースがあって、その中央にメグミコは幕府の殿様のように肘掛けに肘を突き、分厚い紫色の座布団に胡座を掻いて座っていた。彼女に対する形で、藤井、辻野、松本、アンナの四人は横に並び、座っていた。メグミコの右手にスイコ、左手にスズが姿勢良く座っている。
「お行儀が悪いよ、」アンナはメグミコに注意する。「股を開かないの、女の子でしょ、長いスカートを穿いているからいいってことないの」
「藤井、今日はどんな事件?」メグミコはアンナのことを無視して視線を藤井に向ける。
アンナは盛大に舌打ちした。ふと、目の前で座るスズを見れば、こっちをじっと見ていた。目が合って、ニッコリと笑って上げると、スズは恥ずかしそうにしながらも、笑い返してくれた。スズはやっぱり、アンナのことを好きみたい。そんな二人の言葉のないやりとりに気付いたメグミコは、スズを引っ張って、とても近い場所に座らせた。
「な、なぁに?」スズはとぼけるように、凛と澄んだ可愛らしい声で言う。
メグミコは無言で頬を膨らませた。
「さて、今日の事件は非常に、」藤井は軽く咳払いをしてから、目を光らせ、わざと声を低くして言う。「難解ですよ」
アンナは藤井のその答えに、息を呑む、ということはなかった。本当に難解な事件だったら、藤井の表情はもっと難解なはずだから。アンナは自分の爪を見ながら聞いた。「その難解さ加減はどれくらい?」
「金はかからない、」藤井は腕を組み、姿勢を正した。「ただし、忍耐が必要だ、我慢が大事だって、話です」
「いいから早く言いなさい?」鮮やかな紫色の髪の毛を払い、メグミコが言う。
「迷い猫です、」藤井は人差し指を立て言う。横顔はなんだか、楽しそうだった。「迷い猫、一匹、市長の娘の黒猫です、報酬はちょっと、高めです」
何もかも、溜息すら、誰も発しない。
メグミコは退屈そうな表情で、手を持ち上げ、くるくると回した。
それが任務遂行の合図。
村崎組は街に出る。




