表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

隣をみれば……

 夕食を終えて何もすることがなくなり、リビングでぼんやりとテレビを眺めていた。大晦日ということもあり、どこのテレビ局も歌番組やバラエティー番組のスペシャルなどを放送している。特に見たい番組もなく、テレビをつけた時にやっていた歌番組のままにしておくことにした。

 少しして、先程まで片付けをしてくれていた拓人が隣に腰を下ろした。


「ありがとう」

「これくらいいいよ。準備してくれたのは彩だったんだからさ」


 そして拓人も何気なくテレビを見始めた。

 そんな拓人の横顔にそっと目をやる。思わずじっと見てしまった。


「どうしたの?」


 横からの視線に気付いた拓人が不思議そうに声をかけてくる。


「な、何でもないよっ」

「そう?」

「うん」


 急に恥ずかしさが襲ってきて、慌てて拓人から視線を外す。

 疑問は残ったままのはずなのに、拓人はそれ以上聞いてくることはなかった。その優しさがありがたいと思った。

 本当は、何を思っていたのか言った方がよかったのかもしれない。でも、今は幸せなんだよと伝えたいのに、その前に拓人を哀しませてしまうことが目に見えていたから。だから、言えなかった。言わないことにした。

 家族が海外に移住してしまってから、毎年一人で迎えてきた新年。今年は、誰かと一緒に迎えられることが嬉しくて。そして、その誰かが、大切な人だという事実に幸せを感じずにはいられない。

 言葉にできなかった想いを、心の中で呟いた。

 そのあとは、ただただ時が過ぎていくのに身をゆだねていた。

 数時間後、テレビでカウントダウンが始まり、新年を迎えた。遠くから、除夜の鐘の音も聞こえてきた。


「あけましておめでとう。今年もよろしくね」


 先に口を開いたのは拓人だった。

 優しい笑顔を浮かべてこちらを見ていた。


「あけましておめでとう。こちらこそ、よろしくね」


 そう言って笑った後、急に拓人の顔が近づいてきた。驚きと困惑とでいっぱいになってとっさに目を閉じる。そして、唇に羽のようなキスが降ってきた。

 拓人が離れたことが判り、そっと目を開ける。すると、そこには幸せそうに笑う拓人の顔があった。

 キスをされたあと一旦引いたはずだった熱が、再び顔に集まる。きっと、耳まで赤く染まっているだろう。

 何も言えず、このあとどうしてよいのか困っているところに、家の電話が鳴った。慌ててソファーを離れ、電話にでる。


「あけましておめでとう、彩」


 電話の相手は、海外にいる母親からだった。

 日本で一人正月を迎えることを心配して、毎年新年を迎えてから電話がかかってくる。


「あけましておめでとう、お母さん」

「どう? 元気にやってる?」

「うん。こっちは大丈夫だよ」

「それならよかった。そういえば、今拓人君はいるの?」

「え、あ……いるよ」


 母親からの問いに、つい先程のことを思い出してしまう。


「どうしたの?」

「な、何でもない。こっちの話」

「そう? まぁ、楽しそうでよかったわ」


 拓人と付き合いだしたことや、一緒に住んでいることは伝えていたが、それでもやはり不安だったのだろう。電話から聞こえてきた母親の声は、柔らかく、安心していることが伝わってきた。


「あまり長電話していたら拓人君に悪いわね。そろそろ切るわ」

「うん。ありがとね」

「いいのよ」

「お父さんと沙耶にもよろしくね」

「判ってるわ。じゃあ、また」


 電話が切れるのを確認してから受話器を置く。

 リビングに戻ると、拓人が紅茶を淹れていてくれた。


「お母さんから?」

「うん。楽しそうでよかったって安心してた」

「それはよかった。紅茶、飲むよね?」

「ありがとう」


 拓人から手渡されたティーカップを受け取り、再びソファーに腰を下ろす。その隣に、あたり前のように拓人も座った。

 それがなんだか嬉しくて、思わずふふっと笑ってしまった。


「どうした?」

「ん? 幸せだなって」

(だって、今年の正月は一人じゃないから)


 続く言葉は心の中で呟いた。それを言ったら、拓人を哀しませてしまうから。


「僕も、幸せだよ」


 そう言って笑う拓人の顔は、この年に最初に見る柔らかい陽だまりのような笑顔だった。


――隣をみれば、君がいる。



Fin.

…ひとやすみ…

 あけましておめでとうございます!

 本当は、新年のssは書かないつもりでした。大まかな話の流れは頭の中にあったのですが、細かいところが決まっておらず、書けないと諦めていたためです。ですが、0時になるまでの暇つぶしになんとなーくWordを開いたら、ポチポチと話を書き出していました(笑)

 ですので、プロットなしで書きました。おかしなところなどを見付けましたら、そっと目をつむってやってくださいw

 作中にも書きましたが、彩は家族が海外移住してしまってからは毎年新年を一人広い自宅で迎えてきていました。あるのは、母親からの国際電話。それが、拓人と同居するようになって最初の年。隣に誰かいるということを嬉しく思い、そして幸せを感じる。そんな彩のことを書きたかったので、書いてみました。

 書いている途中、予想外の方向に話が進んでしまい、かなり戸惑いました。というより、恥ずかしかったです/// ただでさえ、恋人表記することに未だ少し恥ずかしいと感じるというのに、何故か今回はキスまでしているので、もう本当に困りました。頭の中では新年の挨拶をするだけだったハズ……。何をどう間違ってキスすることになったのか。Twitterで叫びつつ、どう表現したらよいのか迷い、ちょっと時間をかけたシーンでした。書いてる時から恥ずかしかったですort。

 いらないことをグダグダ書いても仕方ないので、ここらへんで引きあげます(笑)

 今年もまったりゆっくり更新になると思いますが、応援していただけると嬉しいです。

 2014年が皆様にとって素敵な年になりますように。


H26 1/1 夜音沙月


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ