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ホシまつり

 いつか。

 いつか、彼女によき理解者が現れることを。

 七月の特別なこの日に、願う。


《ホシまつり》


 七月。喫茶店「Alice」の店内のいたるところに、小さな竹が飾られた。その竹の葉には、色とりどりの小さな飾りがつけられていた。そしてテーブルには、小さな短冊とペンが入れられている、おしゃれな籠が置かれていた。これは、喫茶店を訪れた客が、自由に願い事を書いて飾れるようにしたものだ。既に、いくつかの短冊が吊るされている。


「今年もやるんだねー」


 二年程前から、この喫茶店「Alice」の常連客となっている彩が、カウンター席でのんびりと紅茶を飲みながら言った。喫茶店のオーナーである遥琉は、彩と気が合ったため、今では親友のような関係になっている。


「そうだよ」


 この日も、いつものように他愛のない話をした。大学三年生である彩の話や、遥琉のこと、最近のニュースについてなど、内容は様々だった。




 数日後、夕方に彩が喫茶店を訪れた。


「これ、よかったら使って?」


 そういって遥琉に手渡されたのは、小さめの紙袋だった。中を見ると、折り紙で作られた笹飾りが入っていた。


「わぁ! ありがとう」

「喜んでもらえてよかった」


 彩がいつものカウンター席に腰を下ろす。


「今日はどうする?」

「んー。ミルクティーかなぁ。アイスでよろしく」

「了解」


 彩の注文を受けて、遥琉は奥に入っていった。

 少しして、遥琉がミルクティーとクッキーを持って戻ってきた。


「はい、どうぞ。クッキーはおまけよ」

「ありがとう」

「そういえば、彩ちゃんは短冊書かないの?」

「うーん、後でね」


 この日も、何気ない会話を少しして、彩は帰っていった。




 7月7日。七夕祭り当日。

 明日を休業日にし、夜までの営業になった喫茶店「Alice」。夜7時に、庭で竹を燃やすからだった。燃やした煙が天にのぼり、願いを叶えてもらえるように。

 夕方、彩が喫茶店にやって来た。

 7月1日から店内のいたるところに飾られた、いくつもの小さな笹。その笹には、飾りと共にたくさんの短冊がさげられていた。小さな願い事から、大きな願い事。笑いをとるような内容から真剣なものまで。人それぞれの願いが書かれていた。


「今年もいっぱいだね」


 一つにまとめられた笹を見て、彩が言う。


「そうだね」


 遥琉は、嬉しそうに頷いた。そして、


「はい」


 遥琉が彩に手渡したのは、小さな短冊だった。


「まだ書いてないでしょう?」


 そう言って、ペンも渡す。


「せっかくだから、書きなよ」


 短冊とペンを手に持った彩は、困ったように笑って言った。


「何もないんだけど……」

「何でもいいんだよ。どんな小さな願い事でも」

「って言われてもねぇ……」

「七夕なんだから、さ?」

「どういうイミ?」

「特に意味なんてないよ。せっかくのイベントなんだから、楽しもうよ。珍しく晴れてるし」


 何も言うことがなくなった彩は、黙ってしまった。


「7時くらいには燃やし始めるから、何か書きなよ。ギリギリにつければ、誰も見ないだろうし」

「……うん」


 そこまで言われてしまうと、もう頷くしかなかった。

 彩は願い事を書くと、笹飾りに隠れるように短冊を吊るした。

 それを遠くから見ていた遥琉は、彩が店内でくつろいでいる時にその短冊を見た。


―――――――― 平穏な生活を。何事もなく卒業できますように。


 何も言えなかった。ふっと哀しげな表情を浮かべ、新しい短冊を手にとった。書くことは、決まっている。


―――――――― 彩ちゃんに、よき理解者が現れますように。


 そして、その短冊を彩がつけた短冊の隣につけた。

 頭が良すぎる彩は、周りの人からすれば天才だった。それ故に、辛い思いをすることがある。たまに元気がない時は、学校で何かあった時。それを話してくれることはあるが、話してくれないことの方が多い。そんな時は、大人しく傍にいることしかできない。自分では、そこまで深く足を踏み入れることはできない。今日も、何かあったのだろう。しかし、話す気はないようで、遥琉から聞くことはできない。やるせなさでいっぱいになる。もどかしいのは、いつも。そして、決まって願うのは、彩のことをよく判ってくれる人が現れること。どうしても、彼女には幸せになってほしかった。

 いつか、この願いが叶うことを。七夕というこの日にも、願わずにはいられなかった。




 それから数年後、とある小説家が現れる。彼が彼女のよき理解者になるのは、また別の話。



H25 7/6

 七夕が近いのでssを書くことにしました。プロットを書くまでは、ほのぼのにするつもりだったのですが、プロットが書き終わってみてみると、何故か暗くなっていました。「パラレルわーるど。」シリーズはまだほのぼのしか書いていなかったので、良しとしました(笑)

 この話は、彩と拓斗が出会う前です。この話の彩は、大学三年生です。遥琉の店で働き始めるのは卒業後。拓斗と出会うのはまだまだ先ですww


 余談ですが、この話を書くにあたって、七夕のことを少し調べました。驚いたのは、笹を水に流すことが多いと知ったことです。私の通っていた保育園での七夕祭りは、笹を燃やしていたので。何とか笹を燃やすこともあると知り、一安心しました(笑)燃やすのは、煙が天にのぼって願いが叶うようにするためだとか。中国では、この言い伝えにより燃やすらしいですが、日本は川に流すのが正式らしいですね。個人的には、燃やす方が好きですが(笑)煙が天に届いて、願いが叶ったら、と思うと、ねw


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