秋のお迎え
仕事が終わり、店の扉に「close」とかかれたプレートをかけて片付けを手伝っている時のことだった。
「お迎え来てるよ」
優しい声で言われて入口の方に目をやると、見慣れた微笑みを浮かべる彼の姿が目に入った。
秋に入ってから、頻繁になったお迎え。心配性だなと思いつつも、それが嬉しくて。
「愛されてるね」
そう思っていると、喫茶店のオーナーがからかいの言葉を投げてきて、思わず顔が熱くなる。
「もう……」
赤くなってしまった顔では否定することもできない。それに、照れ隠しとはいえ彼の前でその言葉を否定したくなかった。
「毎日来なくてもいいのに」
仕事がある日もあるのだし、わざわざ店まで来なくてもいいのに、と思いながら言う。
「毎日ってわけではないよ。来たいから来てるだけだよ」
「毎日じゃん」
「今のところね」
彼の言葉に事実を突きつけると、にっこりと笑顔を浮かべて返された。
「……もう」
本当は嬉しいんだとか、まだ素直に言えないから。
けれど、きっとそのことには気付かれている。彼は、私の気持ちには敏いから。
「遥琉さん、僕も手伝いますよ」
カウンターのテーブルを拭きながら私達の様子を見ていたオーナーに、彼が声をかける。
「ありがとう。でも、もう終わりだから大丈夫よ」
「そうですか」
「拓人くん、すぐに帰らないといけない?」
「いえ……。何故ですか?」
遥琉の問いかけに、彼が不思議そうに尋ねる。
「せっかくだから、何か淹れるよ。何がいい?」
遥琉の言葉に甘え、彼はコーヒーを、私は紅茶を淹れてもらった。
「今日は早めにお店閉めちゃったから、ゆっくりしていって大丈夫よ」
「ありがとうございます」
そうして温かい飲み物を飲みつつ話に花を咲かせ、数十分後に喫茶店を後にした。
すっかり暗くなってしまった道を、手をつないで歩いて帰る。
「いつもお迎え、ありがとね」
先程は、照れくさくなってしまってきちんとお礼が言えなかったから。少し遅くなってしまったけれど、感謝の気持ちを告げる。
「どういたしまして」
優しい声が隣から聞こえてくる。きっと彼は、いつもの微笑みを浮かべているのだろう。暗闇の中では、彼の表情など見えはしないけれど。
でも、つないだ手はとても温かくて、彼の優しさが伝わってくるような気がした。
Fin.
…ひとやすみ…
ほのぼのです。久しぶりにあったかい話が書けて嬉しいです。
初めの会話が浮かんできたのがきっかけで、いつか書けるかなと、とりあえず携帯電話のメモ機能(ColorNote)にメモして、そこから電車や出先でちまちまと加筆修正して完成へ。今までメモ帳やノートを持ち歩いて執筆していましたが、メモ機能がすごく便利ですね!(笑)
お気に入りの喫茶店でのんびりケーキを食べ、ミルクティーを飲みながら書いてました。お気に入りの喫茶店だとはかどるので(笑)
H26 9/4