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七月七日の願い事


「ただいまー」


 夕飯の用意をしていると、喫茶店で仕事をしていた彩が帰ってきた。ちょうどきりのいいところであったため、拓人は作業を中断すると玄関まで出迎えた。


「おかえり」

「ただいま」


 そう言って笑う彩の左手には、緑の葉が入ったビニール袋がさげられていた。


「笹もらったの?」

「そう。毎年恒例の七夕イベントが始まったんだけど、はるるんが持って帰って言って、おしつけてきたの」


 笹が入った袋を差し出してきたので、それを受け取る。

 袋の中には、店内に飾って余ったと思われる笹が入っていた。小さいものと、室内に飾れるけれど少し大きいものがあった。


「こことリビングにでも飾ろうか」

「そうだね」

「もうすぐで夕飯ができるから、彩はテーブルの準備してもらってもいい?」

「判った」


 そうして、夕飯を終えた二人は玄関の棚に小さな笹を飾った。リビングには少し大きめの笹が飾られた。そのあと二人は折り紙を使って七夕の飾りを作り、笹の葉に紐で付けた。




 数日後、この日は7月7日、七夕当日だった。

 彩と拓人の二人は、去年と同じく遥琉が運営する喫茶店「Alice」の七夕のイベントに参加した。

 遥琉の片付けを手伝い、二人が店を出ようとした時だった。


「彩ちゃん」


 彩が遥琉に呼ばれる。


「僕は外で待ってるね」


 遥琉が彩だけを呼び止めたことから、拓人は二人きりにした方がいいと思い、自分は外で待つことにした。

 拓人が店の外に出ると、遥琉は彩に近づいた。


「はい、これ」


 そう言って二枚の紙が渡される。


「短冊?」


 遥琉が彩に渡したのは、この日までお客さんが願い事を書くために各テーブルに置かれていた、小さな短冊二枚だった。


「そう。余ったからね。せっかくの七夕なんだし、このあと二人でやったら?」

「……うん」


 遥琉が何を考えているのか判った彩は、頬を赤く染めて頷く。


「ま、使わなかったら捨てちゃっていいし。さ、早く行きな? 拓人君が外で待ってるよ?」


 遥琉に背中を押され、彩は別れを告げて店の外に出る。

 すると、店の入り口に立って空を見上げていた拓人が振り返り、一瞬だけ目が合う。にこりと微笑まれ、彩は頬が熱くなるのを感じた。


「さ、帰ろうか」

「うん」


 拓人が手を差し出すと、彩はその手に自分の手を乗せる。

 そして、二人は手を繋いで帰途についた。

 家に着くと、それぞれが自由時間を過ごした。その時間に入浴などを済ませ、数時間後、二人はリビングルームでお酒を飲んでいた。

 少ししたころ、彩がグラスをテーブルに置いた。


「そうだ、帰る前にはるるんから短冊をもらったの。『二人で七夕やったら?』って」


 そう言うと、テーブルの上に二枚の小さな短冊を置く。


「じゃあ、せっかくだからこれからやる? あと数時間しかないけど」


 テーブルに置かれた二枚の短冊を見て、拓人は少し苦笑交じりに提案する。


「そうだね」


 彩が頷くと、拓人はソファーから立ち上がり二本のペンを持って戻ってくる。


「はい」


 そして、一本のペンを彩に手渡す。


「願い事、書くの?」

「せっかくだからね」


 彩の問いかけに、拓人は笑みを浮かべて答える。


「ないよー」


 少し困ったように彩が呟く。


「そうなの?」

「思い浮かばない……」

「何でもいいんだよ?」


 拓人の言葉を聞いた彩は少しだけ悩むと、短冊に文字を書き始めた。書き終えるとすぐに裏返し、拓人に見られないようにする。そんな彩の様子を見ていた拓人に声をかける。


「拓人は書いたの?」

「書いたよ」


 そう言って、拓人は持っていた短冊を彩に見せる。


 ――人を幸せにできますように


「拓人らしい願い事だね」


 拓人の願い事を見た彩がふわりと笑って言う。


「ありがとう。僕の本を手にとってくれる人はたくさんいるからね。少しでも、何か感じてくれていたら、それが喜びや幸せだったら嬉しいんだ」

「そうだね」


 このあと二人は再びお酒を飲み、数十分後に片付けを始めた。


「短冊は、私が飾っておくね」


 彩の言葉に、まだ願い事を見られたくないという思いを感じとった拓人は、優しい笑みを浮かべて頷く。


「判った。じゃあ、お願いね。おやすみ、彩」

「おやすみなさい」


 拓人の姿が見えなくなったころ、彩はリビングルームに置かれていた笹に二枚の短冊をさげた。そして、もう一度拓人の短冊を手にとって願い事を見ると


「私はもう十分に幸せだよ」


 優しい声で囁いた。




 翌日の朝、彩より早く起きてきた拓人は、リビングルームに飾られている笹を見た。

 その笹につけられている二枚の短冊。昨夜見ることの敵わなかった彩の短冊をそっと手にとる。そして、短冊に書かれている願い事を見た。


――今の幸せが、これからもずっと続きますように。


 その願い事を見た拓人は、一瞬だけ息をするのを忘れた。


「……今以上に、幸せにしてみせるから」


 そう囁いた拓人の声は優しく、瞳には穏やかな光が宿っていた。



Fin.



…ひとやすみ…

 七夕に間に合いました!!

 本当は試験が近いんですけどね。勉強しろよってツッコミはしない方向で(笑)執筆は私にとって趣味であるとともにストレス発散になっていることもあるからです。息抜きですよ!(息抜きしすぎ)

 今回は、二人が付き合い始めて一回目の七夕、出会ってから二回目の七夕、といった感じの話です。

 恋人になった彩は幸せを感じはじめ……。

 昨年はシリアスになってしまったので、今年こそはとほのぼのを目指しました。なんとかほのぼのになっていると思います。いや、最後拓人がちょっと驚くところを淹れてしまったので、危ないかなって。シリアスにしないように、驚くだけにとどめておきました(笑)



H26 7/7

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