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あめふり

 穏やかな午後、彩は自宅のリビングで本を読んでいた。

 きりのいいところまで読み、ふと顔をあげる。窓の外に目をやると、ぽつぽつと雨が降り出したところだった。

 一緒に暮らしている拓人は、仕事に出ていていない。今ごろ、駅の近くで編集者と打ち合わせをしているのだろう。

 彩はテーブルの上に置いておいた携帯電話を手にとると、メールを作成した。


『打ち合わせが終わったら教えて』


 メールを送信すると、再び本の世界に戻る。

 彩が読書を再開してしばらく経ったころ、テーブルの上の携帯電話が震えた。

 受信したメールを開くと、打ち合わせをしていた拓人から『今終わった』と来ていた。


『今どこにいるの?』

『打ち合わせに使った喫茶店にいるよ。駅構内のコノハってお店』

『待っててもらってもいい?』

『わかった。待ってるね』


 メールでのやり取りをしたあと、彩は傘を持って拓人いる喫茶店に向かう。

 編集者がこちらまで来てくれるため、電車での移動はない。編集者のためでもあるが、自分の移動も楽にするために、拓人はいつも駅周辺の店で打ち合わせを行う。

 喫茶店の中に入り、彩は拓人のいる机に近寄る。


「お待たせ」

「早かったね」

「そう?」


 首を傾げ、拓人の向かい側の席に腰を下ろす。

 そして、メニューを少し眺めたあと、彩はケーキセットを注文し拓人はコーヒーをおかわりした。


「仕事、お疲れ様」

「ありがとう」


 他愛のない会話を楽しんだあと、二人は喫茶店を後にした。

 そのまま駅の出口に向かうと、まだ雨が降っていた。


「雨、降ってたんだね」


 ずっと喫茶店で編集者と打ち合わせをしていて、外の様子を知らなかった拓人がぽつりと漏らす。


「だから、傘持ってきてたんだ」


 ようやく彩が喫茶店にまで来てくれた理由が判った。


「うん、そうなんだけど……」


 しかし、彩の歯切れが悪い。どうしたのかと思って隣をみると、恥ずかしそうにうつむく姿が目に入った。


「どうしたの?」

「それが、うっかりして……」

「ん?」


 拓人が首を傾げ、続きを促す。


「傘、一本して持ってこなかったの……」


 恥ずかしさから、答える声はとても小さかった。


「……ごめん」


 そう言って身を小さくする。

 そんなアヤの様子を見ていた拓人は、ふっと口元を緩ませた。


「大丈夫だよ」


 優しい声で彩に言う。それでも、彩は下を向いたままだった。


「迎えに来てくれただけで、すごく嬉しかったんだから」


 彩が駅まで来てくれなかったら、拓人はどうやって帰ろうか悩んでいただろう。たとえ傘が一人分しかなかったとしても、迎えにきれくれたという事実が嬉しいのだ。


「それに……」


 拓人は彩の手にあった傘をとると、一歩前に進んで傘をさす。そして、振り返って彩を見た。


「ほら、帰ろう?」


 傘をさしていない方の手を伸ばして、落ち込んでいる彩に笑いかける。

 彩はゆっくり顔をあげて拓人を見る。目が合った瞬間目を見開いたかと思うと、すぐに「うん」と頷いた。

 拓人が差し出している手にそっと自分の手を乗せると、今度は頬を赤く染めてうつむいた。

 その様子を見て、拓人は優しい微笑みを浮かべる。

 そして、ゆっくりと二人で暮らす彩の家へと歩き出した。

 歩き始めてから少ししたころ、拓人は不意にぽつりと言葉をこぼした。


「傘、一本でよかったかもね」


 隣を歩く彩が、どうして? と目にのせて問う。


「だって、こうやって一緒に帰れてるんだから」


 拓人はにこりと笑ってそう言うと、繋いでいた手に少しだけ力をこめた。

 掴まれていた手にきゅっと力がこもったのを感じた彩は、おさまりかけていた顔を再び赤くする。それでも、その口元は嬉しそうに弧を描いていた。



Fin.


…ひとやすみ…

 「パラレルわーるど。」シリーズを約2ヶ月更新していなかったようなので、何か書こうと考えていた時に降ってきた話でした。もうそろそろ梅雨が近づいてくるので、雨降りの話でちょうど良かったと思います。

 甘い話になったので、書いていて恥ずかしかったです(笑)

 基本、「パラレルわーるど。」シリーズの彩は「さくら咲く季節」よりも可愛らしいイメージがあるのでvv

 普段はしっかりしているんだけれど、たまにうっかりしている彩を書くことができて楽しかったです(笑)そして、優しい拓人を書くのも楽しかったです。でも、恥ずかしかったww

 そろそろ本編も書き溜めしたいのですが、最近「さくら咲く季節」の番外編が降ってきてしまって困っています。それも、以前書こうとして続きが浮かばずボツった話という(笑)

 近いうち書くかもしれません。多分、おそらく、きっと……←



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