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第九話

グレンが戻って来るよりも、父がわたしを迎えに来る方が早かった。

「セツ、そろそろ帰るぞ」

「えー、もうかえるの?」

グレンが戻ってくるのに……

「そろそろ帰らないと、日が落ちたら家に帰れないだろう?」

「だめだよ。まだここにいる、ってやくそくしたんだ!!」

わたしは珍しく地団駄を踏んで、その場に座り込んだ。

「手紙を書いておけば分かってくださるよ?」

「でも……じゃあまた、おーきゅーにつれてきてくれる?」

その言葉に、父の顔が少し陰る。

「……あのなセツ、女の子は王子と友人になったり剣術の練習相手になったりしてはいけないんだよ」

「“おとこのこ”だったらいいの?」

「うーん」

「じゃあわたし……おれ、きょーからおとこのこになるよ。それならいいでしょ?!」

『そう言う問題じゃないんだけどな』と、父は苦笑しながら私の手を引いて、帰路につこうとした。




「セツっっ!!!」

名前を呼ばれて立ち止まる。

「グレン?!」

走ってきたのか頬は赤く色づき、息を切らしていた。

「もう……帰るのか?」

グレンはわたしを見てから、ちらっと父の方を見やる。

「うん……」


まだ遊びたい、また会いにきたいけど、父の様子を見ると王宮に来れるのは今日が最初で最後のようだ。

けれど、さよならを言うのが嫌だった。

会えなくなるのが嫌だった。


「また来い……絶対来いよ!!」


そう言ってくれるグレンに、首を縦に振ることができず父を見上げる。

すると、ずっと困った顔をしていた父が、 グレンを見てからニヤリと笑った。

「グレン王子。(面白そうだから)セツをまたどうぞよろしくお願い致します」

この時のわたしは、父親らしからぬ彼の考えを知る由もなく、嬉しくなってグレンにおもいっきり手を振った。

「またね、グレン!! またくるから!!」

「おう」




その日からわたしは……


おれは


殆ど毎日王宮に通った。


父との約束でこのことは誰にも秘密。


家では女の子。

途中の山小屋で男装して、王宮では男の子という二重生活を送ることになったけど、苦ではなかった。





今まで以上に剣術に励み、一人で王宮に行けるように乗馬も頑張った。

剣術の練習相手だけではなく、ぜひ御学友にもと推され、 勉強もたくさんした。



剣術では負けたり勝ったり。

悪戯をして一緒にクロエ先生に怒られもした。

喧嘩もした。


だけど


グレンといるのはいつも楽しかった。


おれたちは


幼なじみで、親友になった。


出会った時から感じている。


熱く、淡い思いは見ないふりをして。



セツ・デ・クラリスとして。



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