第八話
「セツさんまで巻き込むなんて……グレンさまは王族としての自覚が無さ過ぎます!! いいですか――」
クロエ先生は怒っていた。
というか、あきれていた。
怒られている当の本人が、全く悪びれた様子がないのも原因の一つだろう。
あの後、王宮の厨房に入ってすぐに先生がやって来て、中庭に逆戻りさせられた。
料理長や厨房の人たちは温かく迎えてくれたけど、やはり仕事の邪魔になってしまうし、幼い王子が供もつれずに歩き回るのは、例え城の中でも良しとされていない。
と言うことで、只今お叱りを受けている最中だ。
「まぁ、お気持ちは分かりますが……これからは気をつけて下さいね」
「はーい」
答えはしたものの、グレンに反省の色はない。思わずくすりと笑ってしまったら、
「セツさんも、今度は止めて下さいね」
と笑顔でいわれてしまった。
笑顔で怒る先生ほど怖いものはない。
「あっ、そうでした。陛下がグレンさまをお呼びでしたから、すぐ行ってください」
「……行きたくない」
「じゃ、ありません」
「はぁ〜、分かったよ……なぁセツ」
いきなり名前を呼ばれて、心臓が大きく跳ねた。
これって驚いたから?
「すぐ戻ってくるから、まだいろよ?」
「うん」
笑顔で答えたのは言うまでもない。
先生もグレンについて行ってしまったため、中庭には私だけ。
王宮という所はもっと慌ただしくて、賑やかなものかと思っていたけど、ここはやけに静かで寂しさを覚えた。
ふとグレンを思う。
彼も一人、いつもこんな寂しい思いをしていたんだろうか。
グレンともっと遊びたい。
話がしたい。
笑顔がみたい。
友人に対するそれとは、また別の感情が芽生えるのに、それ程時間はかからなかった。