第三十三話
「何の騒ぎだ……」
遠くから聞こえてくるのは銃声と異様な人々の声。
おれたちは港から走ってきた一人の少年を捕まえて、海賊が出たことを知った。
そんな事態にもかかわらず、セツを見つめて顔を赤らめている少年に腹が立って睨んでやると、おれと目が合った少年は一瞬ビクッと震えて固る。
そんな少年も、不安げな顔をしているセツを見て『きっと騎士団の兄ちゃんたちが海賊なんかすぐやっつけちまうよ』と誇らしげに答えて去っていった。
睨んで悪かったな、と後から思ったおれはだいぶ大人気ないと思う。
当たり前のように一緒に現場に行こうとするセツを止め、おれは一人で港へと向かった。セツが一緒だと心強いが、セシリアの格好で騎士団の前で大立回りをするのはまずいし、彼女は防具もつけてない。
おれは一応時期国王の身なので常に防具を身につけているし、武器も携帯している。他の騎士団も現場へ向かっているはずだし、セツの手を煩わせることもないだろうとこの時は軽く考えていた。
早く終わらせてセツにきちんと気持ちを伝えよう。
言ってしまえば友人としてはもう側にいることはできないかもしれないが、遠くで見守り続けることは出来るはずだ。
そんな思いで、急いで港へと向かった。
港には既に人だかりが出来ていた。現場は思ったよりも混乱している。
海での暗黙の了解があったセントレアの騎士団は、船上戦に苦戦していたのだ。
今後の戦略と訓練内容の大幅な見直しが必要だな……と後悔している暇もなく、船内に潜入し船長室を探しあてた頃には、一緒にいた若い団員の疲労は目に見えていた。
狭い船内での慣れない戦いに、自分自身も疲れが見え始めた頃、その声は聞こえた。
「グレンっっ!!」
扉を蹴破って入ってきたのは、間違いなくセツ……いや、セシリアだった。
「セシリアか?! 阿呆が……早く下がれ!!」
防具をつけていない丸腰のセシリアに動揺していると、彼女はどこからか短剣を取り出し一人二人と倒していく。
あの短剣は確か……
横目で見ていると、なぜか一瞬セシリアの殺気が緩んだ。
その一瞬の隙を突いて、敵の一人がセシリアの死角に入り込む。
――ドスッ――
「防具も…つっ…けずに、くるやつがあるか……あほうが……」
気付いた時にはその間に入っていた。
体を伝わる生暖かい感触に、自分が血を流していることに気付く。
「い…やっっ……グレン!!」
遠くでセシリアの声が聞こえる。
――――ああ、こんなことなら早く伝えておけばよかった。
たった一言好きだ、と。
それだけで良かったのに。
声にならないそれは、深い闇の中へと落ちていった。