第三話
鍛錬場を後にして、おれは王宮の敷地内にある騎士団の寮ではなく、実家に帰ることにした。
明日は久々の休暇。
最近休みを返上して働いたり、剣術指導をしてたりでろくに帰っていない。
王宮から馬をとばして1時間、町まで2時間と、だいぶ不便な山奥に我が家があるのも理由のひとつ。
まぁ、孤児院を運営している我が家には、土地代も安いし広々してるし最適だ。
さて、早く家に帰ろう。
久々に子供たちにも会いたいし、母の手料理も食べたい。
傾きかけた太陽を背に、馬に飛び乗り王宮を後にした。
途中無人の山小屋で騎士団の制服を着替えて、また馬をとばす。
院の子供たちや母にも、この仕事のことを言ってはいない。
ただ王宮で働いているとだけ話してある。
制服のまま帰るわけにはいかなかった。
これにはある理由があるのだが、それはまた追々。
ただ、騎士団の制服を着てると、だれでも三割増しかっこよく見えるらしい……
それを子供たちに披露できないのが、残念で仕方ないんだけど。
「ただいま帰りました」
「「「セーちゃん、おかえりっっー」」」
玄関のドアを開けると同時に、子供たちが飛び出してきて熱烈に出迎えてくれた。
正確にいうと、おもいっきりタックルをかましてきた・・・
愛ゆえだと思うんだけど、通常業務を終え、1時間も休みなしで馬をとばしてきた今のおれにはちょっときつい。
「ほらほら、もう離れないとセーちゃんが苦しそうよ。それにもうお休みの時間でしょう」
小柄な金髪美女(美少女?)が、ゆっくりとおれから子供たちを離す。
「「「はーい、先生。おやすみなさいっっ」」」
子供たちはクモの子を散らすように、寝室に向かった。
彼らはこのかわいらしい金髪美女、もといこの孤児院の院長先生(つまり、以上に若いおれの母親なんだが……)を怒らせると地獄を見ることを良く知っているのだ。
「みんなあなたが帰って来たのがうれしいのね。さぁ、疲れてるでしょう。ご飯食べる?」
「はい、いただきます」
久々の我が家はやっぱりいい。
母がいて、子供たちがいて、穏やかで暖かい。
でも、今日はいつもと少し違った。
目の前に、普段いるはずのない人がいるからだ。
「……父上?! 帰ってらしたんですか?」
そこには、仕事でめったに家にいない海運商人の父がいた。
「おうセツ、久しいな。少し話しがある……食べ終わったら一勝負しようか」
「……はい」
なんとなく話の内容が分かってしまい、せっかくの母の料理がのどを通らない。
なんとか押し込んで、足早に父に続いて外に出た。
きっとおれの……例の話だ。
分かってるんだ。
あの秘密は
もう隠せないって……