第二十八話
翌日、笑顔でまた王宮にやってきたセツを見て泣きそうになった。
嘘に嘘を重ねていくのは苦しい。そんな思いをこれからセツにもさせてしまうのだ。
けど……それでも一緒にいたかった。
そんなことを心配してやれる程大人になんてなれなかった。
ただただ良く見られたくて、剣も武道も、帝王学だの経済学だのもがむしゃらに学んだ。
おれがやればやる分だけ、いや、それ以上にセツもやるので本当に大変だった。
セツが女の子だとばれてしまってはもう二度と会えないかもしれない。それが最初は気が気ではなかったが、彼女の並はずれた強さ故にか一向に誰も気づない。
良き友人、良きライバル。それ以外の感情は、一緒にいるためにひたすら隠し通すしかなかった。
出会ってから一年ほどたったときだろうか。
遠くの廊下で、侍女たちが恋人からの贈り物に浮かれているのを聞いて、セツにも何かやりたくなり王宮の宝物庫を漁りまくった。
目についたのはよく手入れされた短剣。
本当はきらきらと輝く首飾りやドレスを送りたかったのだが、友人(男)に送るには些か妙だ。
孤独で冷たい王宮に一人ぼっちでいた俺を救ってくれたように、今度は君に何かを返したい。感謝の気持ちとお守り代わりに、そしてひたすらに隠している思いと一緒にセツに渡した。
後で宝物庫を荒らしたのと、実は国宝級だった短剣を持ち出していたことがばれて色んな人に怒られたが、短剣を渡した時のセツの笑顔ですべて相殺だ。
そして2年前。
この頃からおれは、大臣たちに混ざって会議に参加したり、列国を訪問したりと政務にそれは熱心に取り組んだ。王侯貴族以外の者とも親しくしているのをよく思っていない大臣たちや、隙あらばと狙ってくる列国の者たち、誰からも認められる王になるために。
セツに嘘をつかせなくてもいいように……
忙しさに比例して、セツとは以前のように頻繁に会えなくなってきていたが、お互い交友関係も増えて大人になってきたのだし、仕方がないことだと思っていた。だから良好な関係を築けていると思っていたのだ。
例え俺が一番望んでいる関係ではなかったとしても。