第二十六話
薄れていく意識の中で、あいつの……
『グレンがわたしを庇ってどうする!?』『馬鹿っっ』『阿呆っっ』
と言った罵声が聞こえる。
一応おれは王子なんだが、と反論しようとした瞬間。
おれ『グレン・テレシア・セントレア』の意識は完全に途切れた。
***
「わたしはグレン王子の剣術指導もしてるんですよ。ふふふ、常々セツさんと王子は良き友人、良きライバルになると思ってたんです!! それで、ぜひ王子の剣術のお相手にと陛下に頼んでこちらに連れて来てもらったんですよ」
下の方からクロエの声が聞こえる。
見下ろすと今より少し若いクロエと、まだ幼いセツがいる。
これは夢か。
いや、死の間際に走馬灯のように過去の記憶が蘇るっていうあれか。
「クロエ……そいつはだれだ」
二十歳のおれの意志を全く無視して、まだ幼い自分が口を開いた。
懐かしい。
これはセツと初めて会った……確か12年前――
この頃のおれは酷く荒んでいた。
西の大国セントレア(田舎だが)のたった一人の王位継承。
父は後妻を娶らないと公言している。
『グレン王子』がいなくなれば、誰でも王位につける可能性があった。
そういうわけで、俺は親戚一同はもとより他国からも命を狙われており『毒殺・暗殺』それはまだ幼い少年が、軽く人間不信に陥るには十分な程に日常茶飯事で行われていた。
クロエをはじめとした騎士団のおかげでそれらはすべて未遂に終わったが、気づけば周りは護衛の大人ばかり。剣術の相手もまたしかりで、王子に怪我をさせてはいけないと誰も本気で相手にはしてくれない。
そこでクロエが連れてきたのがセツだった。
同い年ぐらいの華奢な少年。風に揺れる金髪と、真っ直ぐに見つめてくる深い碧眼があまりにも綺麗で目がそさせなかった。
でも油断できない。
今まで出会ってきた同年代の子供たちはそのほとんどが暗殺者の手先で、持ってきてくれたお菓子が毒入りだったり、いきなり真剣で斬り付けてきたりと悲惨なものだった。
いくらクロエが連れてきた奴だとしても、すぐには信用できない。またすぐに裏切られるだけだ……だから。
殺される前に殺ってやる。
「5本勝負だ、行くぞ!!」