第二十五話
人質を閉じ込めていたはずの部屋から聞こえた異様な破壊音に、海賊たちが集まってきた。
わたしは血まみれの足でそれを振り切って、奥の部屋を目指す。
「グレン……」
最後だから
「グレン」
もう友人には……セツには戻れない。
セシリアとして側にいることもできない。
やっぱりグレンが探しているのは、フィーリアだ。
よく手入れされた綺麗な金髪に、澄んだ碧眼。わたしの短髪の鬘に押し込められたぼろぼろの金髪とは大違いで……
彼女の美しさはどこの姫君にも引けを取らないし、中身もわたしが保障する。
王子様が囚われの御姫様を助け出して物語はハッピーエンド。
それでいいじゃないか。
わたしは王子様の従者A……いや、ここはせめて騎士Aで。
彼の助けになりたいんだ。
幸せになって欲しいんだ。
「グレンっっ!!」
力いっぱい叫びながら一番奥の扉を蹴り飛ばす。
「グレンっっ!!」
部屋にいた全員の視線が一気に集まった。
「セシリアか?! 阿呆が……早く下がれ!!」
数名の海賊を相手にしていたグレンと目があったのは一瞬で、その顔は珍しく動揺しているように見えた。
けど、それを確める間もなく彼はすぐに戦闘に戻ってしまった。
いや、戻らざるを得なかった。
少し広めのこの部屋は、おそらく船長室。海賊が数十人とグレンを含めた騎士団が三人で、確か二人はまだ入団したばかりの新団員だ。グレンはまだ戦闘に不慣れな新団員のフォローをしながら、今度はそこに来てしまった『セシリア』まで守らなければならない。
確かに『阿呆』だろう。
ここに来てしまったのが……
「セシリアならね」
そう呟くと同時に、スカートの下に隠しもっていた短剣で、まず一人。
扉のすぐそばにいた男は恐らく、一瞬の出来事に何が起こったのか分からないままその場に崩れ落ちた。
間髪を容れずに短剣を振るい、もう一人二人と倒していく。
少女が海賊を薙ぎ払う、その異様な光景に新団員二人と数名の海賊は呆然としていた。
ただ、船長と思われる男とその他大勢の海賊を一人で相手にしていたグレンはこちらを見ようとはしない。
時々『早く下がれ』と言うばかりだ。
けど……ここまでやってしまっては、さすがのグレンももう気付いているだろう。気付いていて下がれと言っているのだろうか。
もう『セツ』も必要ないの?
グレン……
――ドスッ――
その瞬間。
ふと気を抜いてしまったほんの一瞬。
突然視界が暗くなったと思ったら、目の前にグレンがいた。
一瞬の隙をついて
わたしの死角に入り込んでいた海賊から……わたしを庇って
赤黒い液体を流しながら立っているグレンが。
「防具も…つっ…けずに、くるやつがあるか……あほうが……」
――――嘘、
「い…やっっ……グレン!!」