第二十四話
船内は薄暗く、人ひとり通るのがやっと。
その中を息を殺して進んでいると、いきなり暗闇から誰かが斬りかかってきた。
「うわっっ?!」
ーーやばい。
船内の狭さでとっさに剣を構えることができず、額から嫌な汗が流れる。
「ん? 女じゃねえか。おーい、見張りのやつは何やってんだ、人質が逃げ出してるぜー」
……へ?
暗闇に慣れてきた目が捕らえたのは、大柄でけむくじゃらな男。最初こそ凍りつくような殺気があったものの、私が女だと分かった瞬間、彼は全くの無警戒になってしまった。勘違いしてくれたのは嬉しいけど……これで大丈夫なのか?!この海賊団?
まぁ、今は流れに身を任せたほうが得策かも。
「すみませーん、お手洗いに行きたくて」
精一杯女らしく言ってみたんだけど……これでいいのか?
「しょうがねえな」
薄暗くて表情は分からないけれど、どうやら成功したらしい。わたしは後ろに隠していた剣をゆっくりと床に下ろした。
幸いにも、この暗さのおかげで彼はわたしが剣を持っているのに気づいていない。
後をついて人質がいるであろう部屋に向かっていると、時々途中の部屋から剣や銃を持った男たちが、狭い通路に顔を出してきた。
「わたしは逃がしてませんからね」
「おれでもねえからな」
「どうせおめぇだろ?」
「何だって?!」
「はいはいっと」
武器を手放したのは惜しいけど、この敵陣の中を一人で進むのはまず無理だ。
グレンやみんなは無事だろうか。
「おい」
そんなことを考えていたら、いつの間にか目的地に着いていた。
「もう勝手に出歩くなよ、危ないからな」
そう言って、目の前にあった部屋に押し込まれる。扱いは乱暴だけど、意外と女性には紳士なのね。
背中をさすりながら、押し込まれた部屋の中をゆっくりと見回すと、そこは窓もない。通路よりも薄暗くて少し気味が悪い。
食料庫か何かだろうか……その奥からは数人の泣き声が聞こえた。
「フィーリア?」
暗がりの奥でごそごそと動いていた影の一つに声をかけると、それはゆっくりとこちらに近づいてくる。次第に見知ったシルエットになってきて、わたしはほっと胸をなで下ろした。
無事で良かった……
「えっっ? セシリア?! どうしたの、あんたも捕まっちゃったの?」
フィーリアは驚きを隠せないようで、おもいっきり私の肩を掴んで揺すってくる。
「いや、ちょっと違うんだけど……今度ちゃんと話すよ。それより無事で良かった」
人質になっていたのはフィーリアを含めて5人。みんな酒屋で働いている年若い娘さんで、身を寄せ合って部屋の隅に固まっていた。
怪我もないようで、ひとまずは安心。
でも、この人数を一人で連れて逃げるのを考えると少し辛い。
「フィーリア、他に誰か来てない? 騎士団とか?」
「騎士団? ……あっ!さっき扉の向こうでグレンさまっぽい声がしたわ。わたしね、いい男は声もちゃんと覚えてるのよ」
そう言ってフィーリアは自慢げに腰に手を当てる。
それを聞いて、他の女性たちからもくすくすと笑い声が漏れた。みんな少し余裕が出てきたようだ。
「でもすぐに慌ただしくなって……何だか怖かったわ。やっと静かになったと思ったらセシリアが来てびっくりよ、もう」
「そうか、その人たちがどこに行ったか分かる?」
「え? …そうね、もっと奥の方に行ったんじゃないかしら。入り口の方から海賊たちの声がしたから、追い込まれてしまったんだと思うわ」
「だよな……ありがとう」
私は左手をさっと挙げて、扉へときびすを帰す。
「ちょっとセシリア!! どこ行くの?!」
「大丈夫、すぐ助けに戻って来るから。今はあの人の……もう最後だから、あの人の所へ行かせて」
「……セシリア?」
私は扉を蹴破った。