第二十三話
先程の会話が聞こえていたのか、階段を上がってすぐのデッキにいた騎士団はみな茫然としていた。彼らと対峙していた海賊たちも、先程の様子を見ていたようですっかり戦意を失っている。
一歩を踏み出すたびに人が避け、自然とわたしの前に道ができてしまった。
だまってその中を進んでいると、それでも数人の海賊が行く手を阻んできた。
「退け」
言うのと同時に剣を振りかざす。
数分でそのすべてをなぎ倒し、グレンを探しにまた奥へと進んだ。
けどその前に現状を知りたい。
「すみません、誰か状況報告を――」
いつものように報告を待ったけど……
「……」
返事はない。
いきなり『セツ隊長』が女の格好で現れたのだ。
今まで通りにはいかないよね。
仕方がないかとそのまま足を進めようとした時、後方から声がした。
「申し上げます!!」
海賊と剣を交えながらそう言ったのは、一番隊のキュリオ=ヴォイツだ。騎士団のムードメーカーで、しょっちゅうヴァンとつるんで馬鹿をやっては、グレンに怒られてたっけ。
でも腕は確かで、今もあっという間に相手にしていた大柄な海賊をねじ伏せた。
「本日午後五時頃、港の酒場で暴れていた数名の男を連行しようしたところ、不覚にも店員と店内にいた客数名を人質にとられ、この船に逃げられました」
キュリオは海賊に縄をかけながら、それでも話を続けてくれる。
「船体を調べてすぐに海賊船と判明したので、一番隊と三番隊で突入し現在に至ります」
茫然としていた他の騎士団も、徐々に戦闘に戻り始めた。出遅れた海賊が少し不利だ。
「人質は?」
「船内にいるもようです。駆けつけてくださったグレン団長と、あと数名が船内への潜入に成功していますが、その後連絡がありません!!」
「了解した。それとキュリオ……」
言いながら、一番近くにあった船内への扉を開ける。
「何でしょう? セツ……隊長?」
戸惑いながらもそう呼んでくれたキュリオを振り返って、その視線を彼の右足へと移す。
「無理はするな、報告ありがとう」
そう言い残して、私は船内へ進んだ。
***
「ばれちゃうんだよな、あの人には」
キュリオはぼそりと呟いてから、その場に座り込む。
「おい、キュリオ……その足どうかしたのか? 見せてみろ」
心配そうに近づいてきたのは三番隊のレン=ロックだ。
ズボンの裾をめくると、その足は赤黒くはれ上がっていた。
「いつやった?」
「たぶん……酒場で」
レンは深くため息をついてから、キュリオを右に彼が捕縛した海賊を左に担いで船を下りた。
「いつも隊長に言われてるだろ、無理はするなって」
「ああ」
船の周りにいた海賊たちは、もうそのほとんどが捕縛され、連行されているところだった。
後はデッキと船内にいるやつらだけ。
――あの人が来たんだ、それももうじき片付くだろうな。
その考えに至ったレンは、たぶん同じ事を考えているであろうキュリオに、思い切ってあの人のことを聞いてみた。
「なあキュリオ、さっきのって……」
「セツ隊長だよ」
レンが言い終わる前に、キュリオは穏やかな笑顔で答えた。
「……ああ、そうだな」
***