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第十九話

街の中央は先程より賑やかになっていた。

セントレア自慢の海産物が並んだ市も沢山出てるし、広間では異国の踊り子が真っ赤なドレスを着て踊っている。その周りではしゃいでいる子供たちは、黒いマントを着て騎士団の真似事をしているようだ。


次第に山から吹く緑の風は潮風へと変わり、人混みの向こうの港には

明後日の戴冠式のためにやってきた王侯貴族の華やかな船や、異国の商船が見える。

わたしはそんな中をグレンのかげに隠れるように歩いていた。

履き慣れないピンヒールのブーツで足も痛いが、すれ違う人々の視線はもっと痛い。


「失敗したな」

先を行くグレンがぼそりとつぶやいた。

「ああ、大失敗だ。だから言ったでしょう? わたしにはこんなの似合わないって。絶対女装した変態男と思われてるぞ」

「いや、そうじゃなくて……お前それ本気で言ってるのか?」

グレンは怪訝な顔でわたしを覗き込む。

「本気も何も……」

じゃあこの変な視線は一体何だって言うんだ?

「他の者に見せるのは惜しいぐらいに……その、なんだ」

「何?」

今度はわたしがグレンを覗き込む。

といっても、背丈があまり変わらないのであまりかわいらしいものではない。

案の定、グレンは口に手を当て急いで顔を背けた。

「いや、何でもない」

「?」

グレンはそのまま口を閉ざしてしまい、人混みを掻き分け裏道へと入って行く。

一体何を言いたかったのか分からないまま、わたしも急いで後を追った。





大通りから一本入ったその道は、先程とは打って変わって静かだ。

通行人は猫ぐらいで、両脇には家々の裏口が立ち並び、その戸口には薪やら空き箱やらがつまれて狭い道をより狭くしている。

「あの、グレン。ここは人探しには向かない道だと思うけど?」

「そうだが……あんなに人が多くては、いつ騎士団の者たちに会うか分からんだろうが」

はて

わたしは首をかしげた。

確かにわたしは困るけどグレンは…

「別に会ってもかまわないんじゃない?むしろ騎士団の方々に協力してもらったほうが効率がいいし、みんな喜んで協力してくれると思うけど?」

「ああ、喜んで協力してくれるさ。だがいいおもちゃにされるのが目に見えてる、仕事そっちのけで人探しに全力投球するぞ、おれをからかいながらな。ヴァンがいい例だ」

確かに

『仕事一筋なグレン団長の想い人探し』

なんて騎士団のみんなにとっては格好の餌だろう。

彼らは、グレンが『王子』だってことを分かっているのかいないのか

非常にフレンドリーだ。

まあ、グレン自身が身分なんかに関係なく仕事ができるように

と勤めてきた結果なんだが。

そう思うと、何だかおかしくなってきて笑みがこぼれた。

「おい、何をニヤニヤしてるんだ」

「いや、グレン団長はみんなに愛されてるんだなぁと思って」

「なっっ?!」

グレンは眉間にしわを寄せながら、耳まで真っ赤になっている。


が、次の瞬間その表情は酷く険しいものへと変わった。

「君の方こそ、随分噂になってるぞ。」

「噂?」

「ヴァンと……付き合ってるというのは本当か?」



「はぁ?!」



思いもよらぬ言葉に思わず大声が出てしまった。

その声に驚いてグレンはびくりと足を止め、わたしは勢い良く彼に詰め寄った。

「いったい誰がそんなことを?!」

「え? 騎士団の者たちはみんな言ってるぞ。街で二人で歩いてるのをよく見るとか、楽しそうにお茶してたとか……」

わたしはひとつ大きな溜め息をついて、肩を落とした。

そんな噂が流れてるなんて知らなかった。

確かに、ヴァンはわたしの秘密を知っている唯一の人物で、良き友人だけど……

一方的なライバル意識はあっても、付き会っているなどとんでもない。

「グレン。騎士団のみなさんにお伝えださい、くだらん噂を流す暇があるなら仕事しろって」

「……」

グレンはしばらく呆然としてから、ゆっくりと口を開いた。

「…違うのか?」




「違う!! わたしはっっ」



わたしはあなたが……







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