表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

第十三話

店を出て辺りを見回すと、戴冠式前ということもあってか異国の商人や見知らぬ顔が多い。

フィーリアの言う通り、制服を着た騎士団の姿も目につく。

今までは女装…ではないんだけど、『セシリア』として騎士団の仲間と街ですれ違っても、『セツ隊長』と同一人物だと気付かれることはなかった。

しかし、こんなに多いと誰かにバレてしまうんじゃないだろうか…


そんな一抹の不安がよぎる中、後ろから誰かに呼び止められた。

「よぉ、嬢ちゃん」


あぁ嫌な予感

この声は…


「街で会っても声をかけないでくれ、って話したと思うんだけど?」

「つれないねぇ」

赤髪の青年はそう言いながら、隣に並んだ。

彼は王宮騎士団二番隊隊長『ヴァン』

元流れの傭兵で、二年前の武術大会でわたしとグレンとは別のブロックで優勝し、今はこの地に根を下ろしている。


その強さと頭の回転の速さは認めるけど…


同い年のせいか気が合うらしく、最近グレンと仲が良い…


男にやきもちなんて、と笑ってくれてかまわない!!

必死になって守ってきた親友の座さえ最近危ういのだ。

しかも、ヴァンには女だとバレてしまっている。休暇中偶然街で会った時『よぉ隊長。いつもは女だなんて思えんが、そんな格好してるとやっぱ普通の嬢ちゃんだな。』と声をかけられてしまった。

しらを切り通せる相手でもなかったので、本当の気持ちは隠して


『友人として、側にいるために男装している』


と言ってしまったんだけど…


秘密にするって約束守ってるでしょうね?!

こっちは、口止め料にたっかーい酒を奢ったんだぞ、

と何だかいろんなことが思い起こされて、眉間にしわが寄る。

「グレンが来てるんだって?」

若干睨みつけながら話を続けた。

横並びになっていつもより賑やかな街を歩くと、2人とも背が高いので雑踏から頭一つ分飛び出してしまう。2人ともっていうのがちょっと悲しいけど

「聞いてないのか?まぁ、街に行くたびに嬢ちゃん…セツ隊長にお伺いはたてねぇか」


え?


「どういうこと?!」

一瞬足を止めて立ち止まる。

「どうって…」

「“街に行くたび”って、グレンは良く街まで来てるのか?!」

口調は荒くなり、つい早口になってしまった。ヴァンはきょとんとした顔でこちらを見ている。

「来てるだろう?知らなかったのか?」


知らなかった。


昔は何でも話してくれたのに…

王宮に来た商人に国宝を売って怒られたとか

おやつに食べた焼き菓子が美味しかったとか

中庭の百日紅の花が咲いたとか


どんな些細なこともすべて


わたしはそんな時間が大好きだった。


それが今では、街に来ていたことも知らなかったなんて…

『セツ』

は彼の護衛としても、役に立たなくなってしまったのだろうか。


「おい、大丈夫か?」

ポーカーフェイスは崩していない。

それでも、僅かな変化を読み取り気遣ってくれるヴァンは、悔しいけどいいやつだ。

「大丈夫…ありがとう」

動こうとしない足を無理やり上げて、また歩き出す。


彼ならきっとずっと、あの人の良き友人になってくれる。



『セツ』が『セシリア』に戻って、



あの人のもとを去った後も…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ