第十二話
「人って…?!」
指名手配犯か何かを追ってるんだろうか。
「さぁ?って、そこは問題じゃないでしょう?!あのグレンさまが来てるのよ。セシリアもそんな服着てないで、もっと色っぽいの着なさいよ。何かあるかもしれないじゃない」
もちろんわたしは第一報を聞いてすぐ着替えたわよ
っと言って、フィーリアはくるんと回って笑って見せた。
女のわたしでもどきりとするのだから、男の人は腰砕け確実。
「何かなんてあるわけないよ。グレン…さまの婚約者も決まったしね」
セントレアは自由結婚主義、身分に関係なく誰とでも結婚できる。
王族もまたしかりでグレンの母・亡き女王陛下も元一般庶民。
お忍びで街に来ていた陛下に見初められたらしい。
だから、この国ではシンデレラストーリーが無きにしも非ずなんだけど…
残念ながら、今回はそういうことはないだろう。
「なーんだ。もう婚約者決まっちゃったのかぁ」
「残念だったね」
「じゃあわたしはセツさまにしよーっと」
えっっ?!
と心の中で叫んでも、鍛えたポーカーフェイスは崩さない。
「あの人は…あまりお勧めできないよ」
「それはセシリアが王宮でいい男に囲まれて仕事してるからよ。羨ましいったらないわ」
そう言うと、店にいた男性客たちから
「「フィーリアちゃんおれたちの立場は?!」」
と野次がとぶ。
が、彼女の笑顔で一掃された。
「騎士団の方々は別格よ。グレンさまは残念だったけど、セツさまとかクロエさまとか…独身のいい男はまだ沢山残ってるわ。荷物は預かってるから、行ってらっしゃい」
と、いきなり笑顔で店を追い出されてしまった。
グレンの護衛プラス戴冠式前の見回り強化で、街にはいつも以上に騎士団の隊士が来ているらしい。
フィーリアには『騎士団の方々と出会えるチャンスよ。わたしもお休みだったらなぁ〜』と言われたが、わたしにとっては秘密がばれる可能性大の危険な日でもあった。