第十一話
それからはみなさんご存知の通りで、今に至る。
わたしは無事その大会で準優勝し、王宮にある騎士団の寮で暮らせるようになった。
これで以前より、少しはグレンに会えるようになったはず!!
と思ったのに……
何故かその大会にグレンも出場して、優勝までしてしまった。
グレンは『王子と王宮騎士団団長』という二足のわらじで、ますます忙しくなり、わたしも騎士団の仕事に追われる日々で、何だか以前よりますます会えなくなった気がする。
昨日は久々に会えるはずだったのに、陛下やみんなの足止めのせいで大遅刻。
おまけに、とうとう例の婚約話をグレンにしてしまった。
勝手に婚約者を決めたりして、きっと怒ってるだろうな……
前にも言ったように、グレンはなかなか后を娶ろうとしない。
城下町に好きな人がいるんじゃないかという噂も流れたが、親友であるわたしにさえ何も話してはくれなかった。
次第に列国からの風当たりも強くなってきたので、陛下と内密に、とりあえずの婚約者を決めたのがまずかった。
婚約者のお姫様……来ちゃったんだよね。
聡明でやさしく、愛らしい。
東の大国の姫君を追い返すわけにもいかない。
でもこのままでは、とりあえずの婚約者の名は近日中に列国に広まり、『とりあえず』なんかではなくなくなるだろう。
「はぁ」
わたしは今日で何度目かのため息をつく。
幼馴染として、親友として、彼の結婚問題を心配していないわけではない。
心のどこかで何かどろどろしたものが見え隠れしているけど、やっぱり彼にはきちんとした姫君を后に迎えて、幸せになってほしい。
その点では件の姫君は完璧だった。
12年間秘めてきたこの思いを断ち切る為にも、この縁談がまとまってくれるのを祈るばかり。
なんだけど……
「はぁ」
いつもはかつらの中に隠している肩ほどまである金髪をなびかせ、またもや盛大な溜め息をつきながら街を歩く。
昨日あれからなかなか寝付けず寝不足気味。
今日は久々の休暇だが、わたしの休暇の殆どは、孤児院の食料・日用品の買い出しで終わってしまう。
なんてったって、街まで馬を飛ばして2時間。
少人数で経営している孤児院では、買出しに行く暇はない。
母は『せっかくの休みなんだから、ゆっくりしなさい』と言ってくれるんだけど、
お給料の殆どを家に入れてるとはいえ、非常に個人的な理由で院の手伝いをせず、王宮で働いてる身としては何だか心苦しい。
さて
わたしは大量に書かれた買い物リストを握りしめながら店に入った。
店内はいつにも増して賑やかだ。
「いらっしゃーい。あら? セシリアじゃない?! 最近全然顔見せないんだもの、ちゃんと生きてるのか心配してたのよぉ」
店のカウンターから出てきた金髪美人に、握り締めていた買い物リストを渡した。
「もうすぐ戴冠式だから忙しいんだ、これに書いてあるやつよろしく」
「了解、そこに座って待ってて勤労少女」
彼女はこの何でも手に入ると評判の酒屋(って言っていいのかな)の看板娘『フィーリア』
わたしの数少ない女友達の一人で、美人を鼻にかけない気さくな性格は、騎士団員の中でも街でも評判が高い。
が、もちろん彼女にも城で働いている、とだけ言っており、騎士団で隊長やってますとはさすがに言えないでいた。
でも嘘はついてないぞ、嘘は。
「あっ、そうそう」
フィーリアは、手際よく入り用の品を袋に詰めてくれながら話し始めた。
「さっきそこで騎士団長さまを見たって子がいたのよ」
「えっっ?!」
グレンが街に? ありえない!!
普通団長の業務は、王宮内で行われる。
王子としての仕事もあるグレンが、街まで出て来るなんて、何かよっぽどのことがない限りありえないはずだ。
何かあったのかと、急に不安になってきた。
戴冠式前で、列国から王侯貴族や沢山の商人、それを狙う人々ももちろん沢山セントレアに集まって来ており、国内の情勢は非常に不安定だ。
こんな時に休みをとるんじゃなかった……
しかし、わたしの杞憂は杞憂に終わった。
「誰か人を探してるらしいわよ」
「え?」