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第十話

出会ってから12年たった今。


グレンの友人はもうわたしだけではない。

元来人好きのする性格で、彼のまわりにはいつも沢山の人が集まるようになっていた。


男女問わず……


そう、『王子に女性が近づいてはならない』という暗黙の了解は、彼が社交界に出るようになってからは意味のないものとなっていた。

顔良し

頭良し

性格良し


三拍子揃って、尚且つ西の大国(田舎だけど)の王子ときたら、列国の姫君や貴族のご令嬢に、近づくなと言う方が無理な話。



一方わたしはと言うと、相変わらず毎日王宮に通っていた。

何かあったかと言えば、2年前。

件の武術大会に出たことぐらい。




2年前

このころからグレンは、大臣たちにまじって会議に参加したり、列国を訪問したりと忙しくなっていた。

なかなか以前のようには会えない。

それでもわたしはある目的のために、毎日王宮に通い、クロエ先生に稽古をつけてもらっていた。


「今日はここまでにしましょうか」

先生がゆっくりと剣を下ろす。

「はい」

ハードな稽古に息が上がる。

先生は今、軍事のトップ『クロエ元帥』になっていた。

「この調子だと大丈夫そうですね」

「だといいんですが……今日はありがとうございました」

「お疲れさまです。あっそうそう、今日か明日にはグレンさまが隣国の視察からお戻りになるそうですよ」

どくんと心臓が大きく跳ねた、ほころびそうになった顔を急いで元に戻す。

「グレン……さまは、最近忙しそうですね」

「ええ、でもセツさんといる時はとても楽しそうですよ。帰って来られたらお相手お願いしますね」

またもや顔が緩んだけど、今のは親友として喜んでいいよね?

と言うことで

「はい」

と笑顔で答えた。



稽古が終わると、足は自然と昔よくグレンと剣術の練習をしていた中庭へと向かう。


何だか懐かしいな……


感慨に耽っていると、遠くから声がした。



「セツ!!」



数日ぶりのあの人がわたしを……おれを呼ぶ声に胸が熱くなった。

「グレン、もう帰ってたのか? おかえり」

いつかのように走ってきたのか、頬が色づき、息をきらしているのを見て、自然と笑顔がこぼれる。

「ああ、ついさっきな。って、それよりどういうことだ?!」

今まで笑顔だったはずのグレンの顔に、急に影がはしり眉間にしわが寄る。

わたし何かしちゃった?!

「えっと、何が?」

「何って……お前が武術大会に出るって聞いたんだが?」

ギクリって言う擬音は、こんな時に使うんだろう。

「……誰に聞いた?」

「クロエに吐かせた」



はぁ

小さくため息をつく。

こっそり出場して、驚かせようと思ってたのに……



国内外の強者が集まるセントレアの武術大会は、3ブロックに分かれたトーナメント式。

上位に入ると王宮騎士団の入団試験を受けることができる。

実質王宮騎士団への入団試験のようなものだった。

が、大会の賞金目当てのごろつきも多く出場するので、なんでもありの非常に危険な大会とも言えた。


「何か問題でもあるのか?」

「あるさ!! お前まだ十六になったばかりじゃないか?!」

確かに、大会出場者の平均年齢は二十代後半から三十代。

でも、大会規則に年齢制限があるわけではない。


ちなみに出場者男子のみと言う記述もない。


「そうだけど……別にかまわないだろ? クロエ先生だって二十歳で出場してるし」

そう言うと、グレンはますます眉間にしわを寄せて俯いた。


わたしだってまだ早過ぎる気はする。



でももう時間がない。


いつまでもこのままではいられない。

次第に、努力では補えない男女の体力の差が出てきた。

男とも女ともつかない中途半端な今の自分は、グレンの親友に相応しくない。

それでもまだもう少し。

せめてグレンが王位に付き、后を迎えるまで側にいたくて、武術大会に申し込み、クロエ先生の地獄の特訓に耐えてきた。

それもこれも、上位に入って騎士団に入団し、王宮の敷地内にある騎士団の寮に入るため。



少しでも


グレンの側にいるために……




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