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人間という名の記憶

作者: ohmori

〜プロローグ〜

俺は全ての人間が憎い。

人間など汚い。

金と欲望に溺れる憐れな独裁者。

俺もその人間の一人だと思うと自分を傷つけたくなる。

殺す。

いつか殺してやる。






〜人間という名の記憶〜

「ガンつけてんじゃねぇよ!!」


「ぐあ!!」

ちっ……ムカつくんだよ………。

人間の分際で俺に近寄るな。

蹴りを入れたところで、俺の心は晴れない。

だが、こうすることによって自分で人間の存在を否定できた。


「響山君!

 やめなよ!」


「人間如きが俺に指図するんじゃねぇ!」


「きゃぁ!!」

ちっ!

女には手を出さないとでも思ったのかよ。

蹴りぐらい何発でも入れてやるぜ。


「響山ぁ!

 いい加減にしないと親に言いつけるぞ!」

あん?

親?

あんな奴ら、親でも何でもねぇよ。

今すぐにでもぶっ殺してやりてぇが、刑務所に捕まっちまったら

俺の目標が果たせねぇ。

核でも爆弾でもいい。

人間共を殺す。


「響山!

 聞いてるのか!?」


「黙れ、糞野郎。

 先生だ? 

 ふかしこきやがって」


「貴様!!」


「手……出せるのかよ?

 てめぇ、退職処分だぜ?」


「くっ……!」

そうだよな。

人間は所詮自分が可愛いもんだ。

自分さえ良ければいい。

周りの奴などお構いなし。

偽善者ぶった奴らが一番嫌いだ。

人生の先輩だかなんだか知らんが、結局そいつらも汚ぇ人間なんだよ。


「おい、校長殴ってきてやるから、俺に手を出せよ。

 そしたら、校長もブチ切れで俺を殴ってもいいって言うようになるからよ」


「響山!

 待て!!」

俺が手伝ってやらねぇと手も出せねぇ臆病もんが。

人を傷つける喜びを教えてやるよ。









「なんだね君は……?!」

校長室ってやつは、いつも生徒を怖がらせる。

だがよ、ここで本当の恐怖を奴らに教えてやるよ……。


「よぉ……。

 ただ殴るだけにしようと思ったけどよ。

 やっぱお前、殺すわ」


「なっ!?」

一撃だった。

眉間に拳を入れただけで死にやがった。

肥えた豚は、こうなる運命なんだろうがな。


「響山!!」


「遅かったな。

 こいつ、死んだぜ」


「貴様、なんということを!!」

校長が死んで悲しいか?

そんなわけないよなぁ?

ただの、見栄っ張り。

ただの、偽善者の遠吠え。

お前も、死ね。


「ぐああああ……!!」

お前には、特別にナイフを使ってやった。

偽善者ぶったお前に俺の最後のプレゼントだ。

サスペンスみたいに胸にナイフ刺されて死ぬのが夢だろう?

可笑しいよな。

死にたいなら、さっさと死ねよ。


……他の奴らが騒ぎを聞きつけやがったか。

「あなた……!! 

 どういうことか説明しなさい!!

 桧垣先生は、警察と救急車を!」


「は、はい!」

ちっ、先公共めが。

寄って集りやがる害虫以下だぜ。

つまらねぇんだよ。

お前らも全員死にな。


「ぐっ!!」


「ああ!!」

断末魔が、俺の耳を汚す。

血が、俺の服を汚す。

だが、奴らを殺すことによって、汚れる事はもうない。

俺も気が済んだら、そっちに行ってやるからよ。








俺は、なんとなく街に出ていた。

俺は人を殺した。

だが、皆は気付いていない。

ここから、もう世の中の理不尽は始まっている。


「少年」


「……あ?」


「悲しきかな。

 お主の目には悲しみの色が浮かんでおる。

 お悩みかな?」


「……消えな。

 俺は、人を殺した。

 お前も殺すかもしれない」


「かもしれないとは曖昧じゃな。

 それは、お主が少しでも迷っている証拠ではないか?」


「迷うわけねぇだろ。

 一度人を殺してるのに、やり直せるわけないだろ」


「やり直せるとも。

 かつては人を殺すことが名誉だった時代もある。

 お主は変われる。

 その時代に生きた者達の様に」


「説教してんじゃねぇよ。

 さっさと警察に言えばいいじゃねぇか」


「今の警察に、同情の余地はない」


「……あ?」


「警察も人間じゃ。

 お主はそれを見て落胆するだけ。

 よって、わしがお主を変えてやろう」


「てめぇにできるわけねぇだろ。

 いい加減にしねぇと殺す」

変なじじいだ。

ナイフを使うまでもねぇ。


「……お主は、校長と、教員を殺した」


「………!」


「お主は、生徒は殺さなんだ。

 これがどういう意味か分かるかな?」


「……なんで、知ってんだよ。

 てめぇ…つけてやがったのか…!?」


「…メモリートレース。

 他人の記憶を垣間見る事ができる能力。

 人を人と思わないお主にはちょうどいい能力じゃろう」


「……ふざけたこと言ってんじゃねぇ」


「もうすでに、その答えは出ているはず。

 お主は信じてしまっている。

 それもそのはず、すでに証拠は出たのじゃからな」

  

「……その能力が使えるなら、今頃皆が使ってるはずだぜ」


「宝の持腐れ。

 皆がそうじゃ。

 自分の能力を開花させる事も無く生涯を終える。

 それができるのはごく一部。

 皆が可能性を持っておるというのに」


「………」


「気になるようじゃな。

 皆が皆、どのような事を思って生活しているか……。

 お主にも垣間見る事ができるじゃろう。

 ついてくるがいい」

別に、人間を思い直したわけじゃない。

まだ、人間が憎い。

無論、このじじいも。

だが、興味があった。

俺の柄じゃねぇが、少しでもこの血塗られた運命を変えれるなら

信じてもいいと思った。









じじいの名は、寺谷弦郷。

柄にも合わねぇごつい名前だ。

しかも、家を持ってねぇらしい。

俺らは、そこら辺の川原で日常を過ごしていた。


それと、奴はメモリートレーサーとしての力はまだ誰にも言ってないらしい。

なんで、俺だけに言ったのか……。

まだ俺には分からなかった。


「巧臥。

 醤油とってくれ」


「……寝ぼけてんじゃねぇよ……

 朝飯食ったばっかりだろ」


「はて……そうじゃったか」


「はぁ……。

 まだ寝たいんだったら寝ろよ………」


「いやいや、今日の一日頑張る予定じゃぞ」


「はいはい……」

俺は、じじいにどこかで心を開きかけていた。

まだ、一緒に過ごし始めてから、一週間だっていうのによ。

俺、どうかなっちまってんのかなぁ……。


「さて……そろそろ真髄じゃ」


「なんだよ、いきなりシリアスになりやがって……」


「いや、教えてもいい頃かと思ってな。

 つーても、お主には微力ながらもその力は芽生えておるとは思うがな」


「……なんだって?」


「わしの記憶を読んでみるがいい。

 少しは分かるはずじゃ。

 ……全神経を働かせ、相手の目をよく見るのじゃ……」


「………」

俺は、じじいの言う通りにした。

すると、だんだん自分の記憶ではない何かが入ってきた。


「なっ……!!」

じじいの若い頃だった……。

皆に、暴言を吐かれ、罵倒され、地獄の光景に思えた。


『消えろよ!

 てめぇはいらねぇんだよ!!』


『人の記憶を読むなんざ、とんでもない奴だぜ!』


「ぐああああああああああああああ!!」

俺は次の瞬間、気を失った……。








「……臥、巧臥!」


「ん…じじい……?」


「少し、ショックが大きかったようじゃな」


「ショック……?」


「記憶を読む場合、自分の記憶を消し、無防備な状態になる。

 自分の経験した事のない記憶……

 さらに、それが術者に対して、どれだけショックが大きいかにも関わる。

 慣れないうちは、仕方がない。

 その現象を『メモリーデストラクション』と言う」


「……それは、さっき思いついただろ」


「はい、すいません」


「まぁいい……。

 つまり、自分の記憶に無いものが飛び込んできたから

 そのショックが大きかったって事だろ」


「その通り。

 ……で、分かったかな?」


「ああ……バッチリな……。

 なぁ、これを……俺のクラスの奴に使ってもいいか?」


「ああ、それでお主が何か分かるなら」


「おお……今までありがとな。

 また、来るぜ」


「巧臥」


「なんだよ?」


「人間は、本当に汚いかね?」


「………」


「お主は変わった。

 自分の世界観を持った。

 罪は消えんが、償う事はできる。

 お主にできることを考えよ」


「……ああ、じゃぁな、寺谷さんよ」

俺は、初めて笑顔を見せたかもしれない。

それは、あのじじいが初めて信頼できる『人間』だったからだろう。








次の日、久しぶりに登校した。

学校は、学級閉鎖になっていた。

だが、俺はお構いなしに門を開けて校舎に入った。


「……誰もいねぇよなぁ………」

俺は、土足のままで二階の3年A組の教室に行く。


「待ってたよ……響山君」


「お前は……友岡」

俺が、いつもいじめていた奴……友岡。

なんで、俺なんかを……?


「君が、全然学校に来なかったから。

 何かあったのかと思って」


「……わからねぇ。

 お前は俺を恨んでいるはずだろ……」


「……僕は知ってる。

 いじめている人は確かに弱いよ。

 でも、君は何かが違ったんだ。

 人を、人として思わないっていうか……」

……同じじゃねぇか……。

なんで、なんで俺はいじめてた奴に自分の事がばれちまうんだよ……。

じじいだってそうだ……

あれは、メモリートレースなんかじゃなかったんだな……。


「とにかく、君の事が心配だった。

 何をしてたんだい?」

……悪いな。

少し、記憶見させてもらうぜ……。








『邪魔なんだよ。

 消えろつってんだろ』


『それは君の本心じゃないはずだ』


『偽善者ぶってんじゃねぇよ!』

違う……!


『僕は……!!』

やめろ……!!


『痛い目見えねぇと分からんようだな!!』

やめろ!!!


『ぐっ!!』

俺は次の瞬間、気を失った……。








「……ここは……」

見覚えがある……ここは……病院だ………。


「気がついたかい?」


「お前が……運んだのか?」


「うん、急に倒れたのでびっくりしたよ」


「お前……知ってるんだろ?

 俺が、奴らを殺した事を」


「……そうだよ。

 今は、警察が血眼になって捜してると思う」


「……言ってねぇのかよ?

 てめぇが言わなくても、他の奴が黙っちゃいねぇだろ」


「僕が、なんとか抑えたよ。

 彼らも、君が何か違う事には薄々気がついてたようだった」


「……馬鹿野郎共が……」


「響山君は、これからどうするの?」


「そうだな……

 これから考える。

 てめぇには迷惑かけちまってるし、ここに居座るつもりはねぇがな」


「……やはり、行ってしまうんだね」


「んだよ。

 俺がいなくなってせいせいするんじゃねぇのか?」


「そんなわけないじゃないか。 

 これから、君がどうなってしまうのか――。

 心配だよ……」


「なんだよ、てめぇまで……。

 いい加減、頭きちまうぜ」


「響山君……。

 君、変わったよね?

 何があったの?」

……さすがに、じじいに断りも無しにはダメだよな。


「じゃ、ついてきな。

 『そいつ』に許可もらうからよ」


「……?」

あ〜あ、俺、いつからこんなお人好しになっちまったんだか……。

 








「案外早い帰りじゃったの」


「うるせぇよ。

 まぁいい。

 こいつは友岡虔。

 メモリートレースの事教えていいか?

 もう使っちまってるしよ」


「……虔とやら、少し、わしの近くに来たまえ」


「は、はい」


「………」

メモリートレースだな。

多分、奴がそれだけの器かどうか測ってるんだろう。


「………よろしい。

 お主は一回、相手を『メモリーデストラクション』に陥れている。

 すぐに習得できるじゃろう」


「だからそれ……即席の名前だろ……。

 てか、なんでメモリーデストラクションを起こさせたらすぐに習得できるんだよ?」


「それは、すでに相手の記憶に入ったも同然じゃからじゃ。

 人は、必ずしもその能力を持っておる。

 それで、無防備になった相手の記憶にすんなり入れるのじゃ。

 つまり、彼はすでにお主の記憶を垣間見てしまっているのじゃよ。

 まぁ、彼はそんな事は気付いてないじゃろうがな」


「メモリー……トレース……?」


「よろしい。

 お主にも教えてやろう」









20分くらい経ったろうか。

もう、友岡はメモリートレースを覚えやがった。

俺の立場ねぇなぁ……。


「それは、相手の心を知る事ができる。

 だが、それと同時に諸刃の剣じゃ。

 自分の心に余裕がないと、メモリーデストラクションはすぐに起こるじゃろう。

 気をつけるのじゃ」


「はい、分かりました」


「じじい、俺、行くわ」


「どうするつもりじゃ?」


「ここにいても、警察に捕まるだけだ。

 どうせなら、全うした生き方をしたいからな」


「逃げているのかね?」


「まぁ、そんなところだろうよ。

 でもよ、俺の人生なんだ。

 ちょっとくらい逃げてもいいだろ」


「ふっふふ。

 言うようになったのぉ。

 それを分かっておったら、もう言う事はない」


「おお、まぁ、そのうち帰ってくるかもな」


「響山君。

 僕も行くよ」


「なーに言ってんだよ。

 お前には、家族がいるだろ。

 友達もな。

 それを捨ててまで行く理由はお前には無いだろう」


「そうじゃとも。

 お主は残るべき存在じゃ」


「……分かったよ。

 気をつけて」


「おお、野垂れ死ぬ前に帰ってくるわ」

俺は踵を返す。

後ろで、じじいと友岡の声がする。

俺は振り向かない。

俺は、強くなる――。








「行ってしまいましたね……」


「……これも宿命か……。

 虔よ。

 少し耳を貸せ」


「?」







〜エピローグ〜

俺は知った。

人は、俺が思っているほど汚くないと。


俺は知った。

俺の事を考えてくれる人がいると。


俺は知った。

友を持つべきだと。

そして、強くあるべきだと――。

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