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第七章

第七章



「この世には色んな人がいますよね?その中には全ての終焉を願う者もいるのです。私はその願いを叶える者。終焉をもたらす者です。」


「終焉というのは、皆が死ぬ事を言ってるんですか?」


「はい。」


「ふざけるんじゃない。」


「久城さん、私はふざけてなどいません。いいですか?あなた方が知らない世界がある。私はその世界の住人なのです。こちらの世界の人は、あなた方のようにこちら側の世界の事を信じない人が多い。信じないのは自由ですが、結果は皆、等しく平等です。ならば信じた方が気が楽になりますよ?」


雨音と風が強くなるのを感じる。


「君の中に、何がいるって?」


厭魅女(えんみこ)です。」


「そいつが都内の連続不審死を引き起こしているのか?つまり、呪い殺していると?」


「そうです。」


「本気で言ってるのか?」


「私に厭魅女(えんみこ)憑いた時点で・・この世界に降臨した時点で、この世界は御終いです。私の中で完全に羽化するまで何年もかかりましたが、それでも少なからず、これまでもどこかで影響は出ていたはずです。無意識の内に呪い殺してきてしまったかもしれません。」


古川は淡々とこの世の終わりを宣言し、二人に説明する。久城と里見はただ話しを聞くことしか出来なかった。


「あの黒い人影のような物は何ですか?」


厭魅女(えんみこ)の使いです。死や呪いの象徴とでも言いましょうか。ほら、今だってお二人の後ろにいますよ?」


その言葉を聞いて二人の背中に悪寒が走る。いる。真後ろに、いる。それも複数。確かに存在を感じる。


「ありえない。そんな訳がない。」


久城はゆっくりと後ろを振り向いた。そこには彼らがいた。目の前の一人が、久城の事をのぞき込んでいるようだった。久城はゆっくりと姿勢を戻した。


「俺は何も見てない。」


「何をおっしゃっているんですか。今ご覧になったのに。」


「いいや。」


「これでも信じないのは、ただの現実逃避です。見苦しいですよ?」


「黙れ。」


「どうしてそこまでして信じないのですか?」


「ガキにわかると思うか?」


久城が古川の事を睨みつける。


「俺はな、こんな身なりでも何件も事件を担当してきた。解決もしてきた。殺害された方のお顔も何人も見てきた。いいか、これが本当の現実だよ。残酷な現実だ。今までの全てが、次の瞬間全て亡くなる。死とはそういうものだ。それを身勝手な理由で人に押し付ける奴を、俺は絶対に許さない。警察官になった以上、俺はそういう現実を理解して、飲み込んで、向き合ってきたんだ。」


久城の拳にぐっと力が入る。


「俺がこんな馬鹿げた事を信じてしまったら、負けなんだよ。」


「律君の事が何か関係しているのかと思っていました。」


「どうして君は律を・・あの子の名前を知っているんだ!」


「律?」


「里見さんはご存知ないですよね。久城さんの息子さんです。亡くなられましたが。奥様ともそれが原因で・・。」


「黙らないか!」


これまでで最も大きな声が久城の口から飛び出し、里見はびくっと驚いた。


「何故私が知っているのか。私の中の厭魅女(えんみこ)が教えてくれましたよ。厭魅女(えんみこ)はあちらの世界の存在ですよ?知ってるに決まってるじゃないですか!」


肩を震わせる久城を里見は見る。必死になって自分の感情を押し殺している。


「未成年者の無免許運転に撥ねられたんですよね?本当に可哀想。治療の甲斐なく脳死になって・・こんな事があっていいのか、あなたは絶望したんじゃないですか、この現実に。ならもうよくないですか?この世界が終わってしまっても。」


「あなたも、それを望んでいるんですか?」


里見がか細い声で尋ねる。


「はい。私はそのために存在しています。」


「ご両親は亡くなられた。ならもうあなたは自由になっていいんじゃないですか?」


古川からこれまであった微笑みが消えた。里見のその言葉に固まったようだった。


「私は昔から自由です。私は私の存在意義を全うしているだけです。」


「呪いをばらまく事が存在意義と言うんですか?」


「今この瞬間にも私から呪いが広がっています。皆が死を選び、死に選ばれる。そうです、それが私の存在意義。」


「可哀想です、古川さん。」


「可哀想?私がですか?」


「ご両親からお姉さんのように大切にされたかった、愛されたかったんですよね?なのにお姉さんが亡くなっても、ご両親の目はお姉さんにしか向かなかった。それどころか、よく分からない手を用いてまでお姉さんを呼び戻そうとした。あなたの事を無視して。そうしたらお姉さんではない、呪いに憑かれてしまった。可哀想です。可哀想過ぎます。あなたの人生は一体何処へ行ったんですか?」


「私の人生、ですか。」


古川が初めて里見から目線を逸らした。


「そんなものは生まれてこの方、ありませんよ。」


「もういいだろ。もう沢山だ。」


久城は話しを遮り、強くテーブルを叩いた。


「君が呪いの元凶だというなら、君がその呪いとやらを止めればいい。」


「それは出来ません。」


「出来ないのか、する気がないのか、それはどっちだ?」


「どちらでも良くありませんか?」


「そういう態度はもう適切じゃないぞ、古川美倫。」


睨みつける久城だが、古川は至って冷静に対処する。


「どうするというんです?」


「君が死ねば、それは止まるんじゃないのか?」


どこから出したのか、久城は拳銃を取り出して、握ったままテーブルに置いた。里見はさすがに驚き、拳銃に釘付けになった。


「ちょっと久城さん・・!」


「里見さんは動かないで。」


「まさかそんな物まで。久城さんは本当に面白い方ですね。」


「俺は本気だ。こんな物騒なもん、こんな事にでもならなきゃ出さねぇよ。」


「私を殺すんですか?」


「今の状況が君のせいなら、君は大量殺人犯だ。捕まったらどのみち死刑になる。それに俺は家族もいないから迷惑を掛ける人もいない。引き金、引けるぞ、俺は。」


「そうですか。ではどうぞ、やってみて下さい。」


「分かった。」


久城は立ち上がり、里見の横に立った。


「ちょっと久城さん、本気じゃないですよね!?」


「君は動くな。」


右手に握りしめられた拳銃を久城はゆっくりと座っている古川の方に向けた。


「私が死んでも呪いが止まるのかは分かりませんよ?むしろ、今よりもっと混沌になる可能性だってあります。良いのですか?」


「これ以上悪くなるだと?笑わせるな。」


苦笑いしながら久城は拳銃のハンマーを下げた。カチッと音が鳴る。里見は思わずその場から立ち上がった。


「久城さん、やめましょう。こんな事しちゃ駄目です!意味ないですって!」


「何故だ。これは呪いなんだろ?だったら君も救われる。」


「そんなの・・分かんないじゃないですか!」


「じゃあどうするんだ?エクソシストでも呼んで、悪魔祓いでもしてもらうか?」


「私、あの映画好きです。女の子が・・。」


「お前は黙ってろ!」


拳銃を余裕の態度を見せる古川の頭ギリギリまで久城は近付けた。古川は銃口の方に顔を向け、じっと久城を見つめた。


「怖いんですね、久城さんは、他の誰よりも。」


「・・うるさい黙れ。」


「自分が信じてきたこの世界の在り方が壊れたから、怖くて仕方がない。そうでしょう?」


「黙らないかっ!」


銃口を完全に古川の額に付ける。


「久城さん!」


「どうぞ、引き金を引いてみて下さい。」


久城は引き金に指をかけた。場の緊張感が一気に膨れ上がる。その時、久城の右手がふるふると震え始めた。久城も里見も今、気が付いた。黒い影達が何体も久城の体にへばりついている。上半身に抱き着く者もいれば、足に抱き着く者もいる。そして拳銃を握る右手を握りしめる者もいた。


久城は自分の状態にやっと気付き、顔が強張った。言葉が出ないといった表情を浮かべている。上半身に抱き着いている影が、久城の顔の方まですり上がって来た。


「ぱぱ。」


影が喋った。


「やめろ、やめてくれ・・!」


久城の右手を握る影が一瞬揺れたかと思うと、久城の右手が天井の方向に向かってへし折れた。拳銃が床に落ち、久城が苦悶の叫び声を上げる。左足も完全に横に曲がり、久城はその場に倒れ込んだ。


「久城さん!」


里見が久城に駆け寄る。黒い影達が二人を取り囲む。


「あらあら。大丈夫ですか久城さん。凄い音がしましたね。」


古川が立ち上がり、拳銃を取り上げる。


「拳銃って重いんですね。」


「ぐううううっ・・!」


「大丈夫ですか久城さん・・!」


玄関のドアが開いた音がしたかと思うと、外にいた黒服達がゾロゾロと部屋に入ってきた。二人は完全に包囲されてしまった。


「これは運命です。お二人には付き合ってもらいます。」


「何に?」


里見が尋ねる。


「最後の儀式ですよ。付いて来て下さい。拳銃は・・いらないですね。」

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