8話 感謝
「それにしても預言者名にシュビラムを使うとは…」と学院長は明るく笑った。ルークも笑いながら「預言者っぽい名前が思いつかなくて、隣のお婆さんってどこか預言者っぽかっただろう。だから、その名前を使ったんだ。冗談のつもりだったんだよ。迷惑をかけたかな。」。学院長は「みんなすぐに災いの事を忘れるんだ。迷惑なんてかかりっこないよ。」と笑いながら、昔の弟はそんな茶目っ気いっぱいだったと思い出した。今はそんな面影は無くなってしまった事が寂しかった。
学院長は「あの災いが終われば、平穏がやってくる。ある意味、天の神からの試練のような気がする時もあるんだ。ただ、お前が止めなければ災いは暴走してしまう。」。「ありがとう兄さん、そう言ってくれるのは嬉しけど、やっぱり違うと思うんだ。僕も初めは兄さんと同じように考えたよ。でもそれは自分を許そうとする言い訳でしかないよ。母さんがいつも言ってたみたいに天の神様は僕たちの運命に手を出さない。だから、僕たち自身で運命を変えていかないといけないんだって思うようになった。災いの力に頼ってはダメなんだって。」。学院長は頼もしくなったルークを見て、改めて何度もあの災いに向かい続けた大変さを知った気がした。そして、ルークを失い寂しさの中で亡くなった母だったが、母の言葉がルークを支え続けている事が嬉しかった。
「ところで、お前のあの癖はもう治ってるんだろうな。」と尋ねると、「えっ…ああ、あの癖ね。母さんがいつも怒って僕を追いかけてたね。お風呂から上がったら、きちんとタオルで体を拭いて、服を着なさいって怒られてた。今でもだよ。」と笑う。「それではアリーアさんが…。」「うん、毎日怒ってるよ。母さんと一緒。でもね、気持ちいいんだ。ずっと抑圧の中にいるから。でも…。アリーアを悲しませることは絶対にしていないから安心して…。」その言葉はルークにとってアリーアがいかに大事な存在であるかを示すと同時に、自分の運命を受け入れている悲しみの大きさも物語っている事が学院長には辛かった。それでも今こうして二人で話をする奇跡に学院長は「アリーアさんに感謝しなくちゃな。」と言って笑った。森の涼やかな風が吹き込んでくる窓の方に目を向けた。なんて穏やかな時間…。




