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10話 終止符

 二人の穏やかな日常。アリーアはこの日常がずっと続くような気がしていた。ただ学院長がなぜあんなわけのわからない預言書のことを自分に話したのだろう、そしてその後、ルークと何を話したのだろうと気になっていた。


 ルークに内緒でアリーアは再び学院を訪れた。学院長の秘書はすぐに部屋に通してくれた。学院長はアリーアがなぜここに来たのかを察した。そして、「アリーアさん、私はあなたにお話ししなければいけないことがあります。」と言うと、自ら入れた柑橘系の香りのするお茶をアリーアに勧めた。


 「先日、預言書についてお話ししましたが、まだお話ししていない事があるのです。災いは刻印の現れた一人の青年によって終止符が打たれます。その時、預言書の預言と同時にその青年さえも消えてしまうのです。その青年を愛した人でさえ、青年の事を忘れてしまうのです。」。学院長は沈黙し、苦しそうな表情でまた話し始めた。「その青年は預言者シュビラム自身なのです。そしてルークこそがそのシュビラムなのです。」。アリーアはただ無言で聞いていた。「預言の災いは彼の虹色の光と呼応し、この虹色の光によってしか消滅できないのです。シュビラム、いいえルークは災いの度に自分が人々から忘れ去られても彼の放つ虹色の光で災いと戦ってきました。」。アリーアには学院長が何を言おうとしているか、わかっていた。ここへ来る前からわかっていたのかもしれない。「ルークとアリーアさんは前の災いの時に既に出会っているのですよ。」。アリーアはそんな気がずっとしていたから。お風呂上がりのルークの困った癖に懐かしさと嬉しさと愛おしさを感じ、何よりも彼のための服が森の家にある。納得こそすれ、否定などできっこない。ただ以前のルークとの思い出を全て忘れている自分が悲しかった。


 学院長は慎重に言葉を選びながら、アリーアに告げた。「もしかしたら…、もしかしたらなのですが…、災いを消滅させる時、ルークと共に預言書も消滅させる事ができれば本当に災いが終わり、ルークも災いの度に苦しまなくて済むかもしれない。ただ預言書にルーク自身は触れる事ができないのです。誰かにその役目を負ってもらわなければいけない…。それはルークとその役目を負った人の死を意味するかもしれないけれど…。」。アリーアには学院長が言わんとする事はわかっていた。その役目は自分なのだと。いや、彼女自身、他の誰にも渡したくない役目だと思っている。


 彼女はすぐに、学院長の方を見ながら黙って頷いた。ただ彼女は学院長に何か伝えたかった。あっ!「学院長、私がいなくなったら、森の家の窓辺に置いてある鉢植えに水をやってくれませんか。家の鍵は、扉の右上の小さな窪みにありますから。」。なんで自分はこんな時にこんなお願いをするのだろうと思った瞬間、あの花と一緒にルークの楽しそうな顔を思い出した。やっぱり彼との思い出の花なんだと納得すると、そりゃあ自分にとって1番の宝物だな、と一人笑った。学院長はそんなアリーアを見てルークがもしこんな運命でなければと思わずにはいられなかった。どうか神様、二人に祝福を…。


 この時、森の家にあったアリーアとルークのあの写真がそっと消えた。


 学院長はアリーアに「もう今日は森に帰りなさい。最近ではエルフの女性や子供たちが忽然と姿を消す事件が起こっています。くれぐれも気をつけなさい。」と言うと、アリーアは「失礼します。」とだけ言って部屋を出た。ただルークの事、自分の役目の事で頭がいっぱいのアリーアには学院長の最後の言葉の意味は深く認識されなかった。その頃、預言書は書き変わっていた。そう、災いはすぐそこまで来ていた。


 精霊は再び 一人の青年に巡り合う

 安寧は終わりを告げる

 子の親に降りかかる悲しみ

 不老不死を求める人々にもたらされる災い

 額の「刻印」が証

 子を探す人が預言を導く

 天の神は 災いを鎮めることを 一人の青年に託す 

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