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神遊び唄  作者: オピオイド
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天の浮橋 中編 (マリアージュの日常)

「ただいまーって?」


帰ってきた観星こと天の浮橋の主人は、その状況を見て固まった。

固まったのは戦っていた男達もそうだ。

いきなり『魔王城の王の間』に突入したら負けそうになった挙句、この状況だ固まらない筈がない。

しかもセーラー服にブラウンの鞄を背負った観星、その顔に巻かれた包帯は変わる事はない観星だ完全に戦闘の雰囲気をぶち壊している。

が、ぶち壊した本人観星もいつもの余裕も忘れて固まっていた。


「えっと…マリアさん何をしてらっしゃるのでしょうか?」

「私の本来の仕事『侵入者の排除』ですけど?」

「あーごめん…彼らちょっと待ってもらって?」


そう言うと観星は出てきた扉へと帰っていく。





マリアージュの仕事はハウスキーパーもどきだ。

家の管理や使用人の管理などを行う、女性版執事の総称でもある。

もどきと言ったのは彼女の役割が家事や掃除、それと先も言っていた『侵入者の排除』だからだ。

その彼女は今、彼女自身の城とも言える台所で家事を行っていた。

十数人で作業しても楽に料理が出来るほどの大きな台所、そこで彼女は一人静かに料理をしていた。

かたわらの台に置いた大量の桃を前に悪戦苦闘中である。

その台所に一人の男が現れる、くすんだ赤髪の男エルフェルトである。

片手に雑誌を持ち台所の中を見回しマリアージュを見つけると声を掛けた。


「マリア、少しいい…どうしたんだこの桃?」

「先日いらした栞さんが持ってきてくれたんですが、どうも量が多すぎたようで傷むと不味いんで早々に処分する為に桃のコンポートとタルトを作ろうかと…種がめんどくさくて大変です」

「ふーん。しかしすごい量だな」

「ええ、これでも減ったほうです。当初は3キロあったんですから、取りあえず甘さ控えめとカスタードを入れた二種類作りますからねー」

「大量のモノを持ってくる栞のやつ、相変わらずだな…」


フムフムと鼻を鳴らしながらエルフェルトは、片手に持った雑誌を入り口付近の台に置くと腕をまくりマリアージュの横へ立つ。


「少し手伝おう」

「いえ、良いですよ!? 一人でも何とかできますし」

「いや。いつも君一人でやらせてるから、少しは手伝おうかと持っている年長者の気遣いだとって置きたまえ」


そう言われるとマリアージュは何も言えなくなる、彼女はただ笑顔でありがとうと返した。

二人はそのまま作業を続ける。


「そう言えば、観星の奴は何をやってる?」

「何をと言えば?」

「よく解らんのだが、でかいモンスターの人形をどっからか引っ張り出して遊んでいたが何だあれは?」


話しながらも二人の手は止まらない、エルフェルトの手は手際よく桃の皮をむき種を簡単に抉り出していく。

処理した桃をマリアージュが切り、あらかじめ作っておいたアーモンドを混ぜた生地の上に並べていく。


「よくは解りませんが。観星さんのバイトらしいですよ? この際だから魔王に勝つための特訓をーって言って、元気一杯でしたけどエルフェルトさんは知っていますか?」

「まあ、知ってはいるな多分『世界再生会』の方からの依頼だろうな」

「『世界再生会』? あれ? 生地が足りない」


マリアージュは手早くカスタードを作りながら足りない生地をもう一度作るため薄力粉と発酵バターを宙に投げる。

するとどうだろう空中で薄力粉とバターが何かに揉み込まれるかのように混ざりだす。

更に置いておいた卵も空中に浮かせると卵に皹が入り、そこから吸い出されたかのように卵の中身のみが出て生地へと混ざる。


「上手いものだ。そう『世界再生会』とは観星の奴が所属している『主神組合』の勉強会みたいな所だ。内容としてはいかに世界を傷つけず世界を新しくするかという所に焦点を絞っているらしい」

「何か良く解りませんねぇ。あ、エルフェルトさん火、お願いします」

「任された。解らなくても仕方がない。世界とは滅びるをして滅びるものだ、いくら救おうとも再生されようとも滅びるときは滅ぶからな」


そう言いながらマリアージュは宙に浮かせたまま薄くタルト生地状にした中にカスタードを流し込みエルフェルトに渡す。

それを受け取ったエルフェルトは持った状態で指を一回鳴らす。

するとどうだろう、エルフェルトが手にしたタルトが一瞬にして焼成された。


「エルフェルトさんが居るとオーブンがいらなくて良いです」

「能力の平和利用か…くだらない使い方だという奴も居るかもしれんが、良い使い方だ」

「ありがとうございます。そう言う事を言ってくれるエルフェルトさんの在り方に今日も感謝です」

「神の花嫁たる君に言われるとむず痒くてたまらん」


その時だった、地を揺るがす様な激しい揺れが二人を揺らす。


「あらあら…」

「…観星…」


遠くで響く小さな爆発音と、無邪気な観星の笑い声。

なにやら面白そうな笑い声が響いているが、洒落にならない程の音が始まっていた。

エルフェルトは手に持ったタルトを置き、眉間を揉みながら扉へと歩く。


「ちょっと止めてくる」

「ハイ…ああ、エルフェルトさん観星さんに今日は紅茶と緑茶はどちらが良いですかと聞いててください」


わかったと溜息混じりで出て行くエルフェルトを見送ると、マリアージュは次の料理の為の鍋を取り出した。



「今日も平和ですね」



どこがだ?

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