終末の日 中編
仕事に追われ更新できませんでした、申し訳ないです。
これから更新頑張りたいとは思います。
混乱の始まりは侍従長からの報告からだった。
その日は魔王討伐の一行が魔王を討伐し帰ってくるとの先触れがあり、近年の天変地異による世界全土における不穏な影による国民の不安を払拭する為に、勇者パーティの戦勝パレードを行う事を考えていた時の事だった。
「大変でございます!」
「どうした?」
いつも平静で沈着冷静を体現したかの様な侍従長が、額に汗を浮かばせながら決死の様相で走り込んできた。その鬼気迫る形相に、王は座った椅子から腰を浮かせる。
「鼠、鼠が現れました」
「鼠? 鼠など珍しくない、下働きの者に処理させい」
「ちっ違うのです。外をっ外を見て下さいっ」
悲鳴に近い声を上げる侍従長に訝げに、王は窓から外を見ると絶句した。
王の執務室から見える城内の様相が変わっていたからだ。
そこから見えるのは庭師が丹精こめて作り上げた中庭が、蠢めく黒い鼠に埋め尽くされたおぞましい光景だった。
「なんだっ何があったっ⁉︎」
「わっわかりません。ただ、この事態はこれだけじゃありませんっ」
「早く申せっ」
侍従長が言うにはこの騒ぎは城のみではなく街にも起こっている事、二つ目は城内に侵入者がおり警護の兵達が次々と殺られている事。
「暗部の者達はどうしたっ」
「それが、鼠が湧く穴の一つが暗部の待機場所でして」
「なんて事だっ」
侵入者と鼠の大群。
この二つが偶然と同時に起きたなんて、普通は思わない。
まして、暗部の待機場所から湧き起こっているならば特にだ。
これは鼠の大群が陽動で、その隙に侵入者が入って来たと考えるのがしっくりとくる。
ならば侵入者の目的は? と考えると、今帰還した勇者パーティの生き残りを思い出す。
「っ、魔族か」
「魔族ですとっ⁉︎ では、この騒動は討ち取られた魔王の報復?」
「可能性は高い。侍従長、勇者パーティは?」
「はっ、王への謁見の為に別室に」
「ならば謁見の間に勇者パーティと共に兵を集めよ。ここで奴らを徹底して叩き潰す」
そうして加速する、考え違いと言う失敗は最悪へと、否、終わりは確定する。
屈強な騎士二人がかりで開く荘厳な扉が、砕けよと言わんがばかりに開かれた。
吹き込むのは噎せ返る程に血の臭いを含んだ血風。
紅く染まっているんじゃないかと思う程の血の臭いが濃い空気の中から現れたのは、白と赤を基調とした服を着た長身の青年だ。
その明らかに人間と言う相貌に、王だけではなくこの場にいる勇者パーティと兵達は、呆気にとられる。
「やあ、初めまして。王様、終わりの時間だ」
一瞬呆気にとられた王だったが、楽しそうに笑う青年の纏う圧迫感と血臭に気を引き締め声を上げる。
「無礼者、何者だっ‼︎」
「無礼者? この格好を見て解らないかな?」
見れば青年の格好は異世界から召喚した勇者と似た服装だ。
「勇者か?」
「近いけど残念違うね。第一、召喚してないだろう? 異世界と言う括りは正解だけど」
「ならば、貴様は何だと言うのだっ‼︎」
「陛下、彼奴はもしかしたら異世界からの召喚した者ではなく。来訪者かも知れません」
残念無念と首をふる青年に王は声を荒げるが、それを声を震わせながら進言する豪奢なローブ姿の女性に目を向けた。
「馬鹿な異世界からの来訪者だとっ、魔法を知らぬ異世界人がそんな事を出来るとでも言うのか?」
「神に甘やかされた人類が言ってくれる。……まあ、この世界しか知らず他の人類の文化を受け入れられない連中なら、こんなものか?」
心底呆れた顔で青年は嘆息する。
それに苛立ったのか、王の周りを固める騎士の一人が裂帛の気合いで青年に突きかかる。
「リャアアァァッ‼︎」
獲物はハルパート、槍の間合いを持ちその重さと形状から突く打つが効果的な武器だ。しかも、使い手は騎士団の中でも精鋭の兵の一人で、ハルパートは魔法が掛かった武器である。
誰もがとったと考えるが、次の瞬間信じられない事が起った。
渾身の一撃とまではいかないが、速度が乗っていた突きが簡単に掴まれたのだ。
「まあ、話はさっき言った通り君達に終りを与えに来たんだ」
笑顔でハルパートの穂先を軽く掴んだ青年は、ゴミを投げ捨てる様に騎士ごと軽く後ろに放り投げた。
放り投げられた騎士は高い大広間の屋根にぶつかり、頭から落ち動かない。
大広間の天井の高さは約10メートル、落ちたら即死する高さだ。
その光景に周りは戦慄が走る。
騎士は基本武装状態で全身鎧、重さは約30〜40キロ程である。この城の騎士達は特殊な魔法金属を使い重さを軽減しているが、それでも20キロ近くはある。
鍛え抜かれた騎士の体重は合計で100キロは超える筈だ。
そんな騎士の体重を乗せた突きを軽々と掴んだ挙句、力も入れずにゴミを投げ捨てる様に天井まで放ったのだ。
「バケモノッ‼︎」
生物としてありえない膂力。魔力を使ったら同じ事が出来るかもしれないが、出来たとしても大量の魔力とそれを使う超人的な魔力操作が必要となる。
それを行なった青年に広間の人間達は戦慄を見せた。
そして何より青年は『もとから魔力を使っていない』。魔力を感知出来る者達は、この事実に絶望を見てしまい顔色を蒼白に変える。
青年は何事も無かったかの様に服の埃を払うと、先程までは見せなかった心底楽しそうな獰猛な笑顔を見せると、右手を天に掲げた。
「吹け風よ。全てを薙ぎ払い灰燼へと導く風よ」
「………、詠唱っ。マズイ、奴を止めろーっ‼︎」
能力者は魔法使いではない。エネルギーと言う大きな括りであれば同じ様なモノだが、この世界においては得体の知れない既知外の力。
その密度と不可解さに、ほんの数瞬対応が遅れた。
「旋じ龍となりて、雷を産み、全てを喰らえ」
「さぁせるかぁっ!」
本来、能力者には詠唱はいらない。しかし、今から行う締めには必要なルーティンであり、絶望的な現象を顕現させる為の儀式の一環でもある。
何かの発動を止めるべく飛び掛かる騎士たち、詠唱を始めなんらかの防御手段を講じる者達。
それを嘲笑う青年。
「遅い。『風天』」
青年が言葉を発した瞬間、世界から音が消えその場にいる者の全ての意識が落ちた。