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神遊び唄  作者: オピオイド
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巫女とは神の声を伝える者

北アフリカにとある小国があった。

日本からはるか遠く、地下資源どころかレアメタルすらもなく、岩に近い荒地の上に雨が降りにくい為に水の確保や農作物にも困るとても小さく貧乏な国だった。

その為にその国は農耕に必要な水や食料問題で争いが絶えず、国外から戦争を仕掛けられたり仕掛けたり、領土を超えた略奪などを行い国と言う体裁を保っていた。後に大航海時代の植民地政策でヨーロッパの国の植民地になり、世界大戦後に独立し最終的には独裁国家になる。


そんな国に目を付けた悪魔がいた。


偶然だった、テレビのドキュメンタリー番組で少々煽り気味の内容で、独裁国家の闇を映し出すモノであった。

その番組を見た悪魔はさも嬉しそうに呟いた、『ああ、すり潰していい悪がいるな』と。

それからの彼の行動は早かった、心理学を学び経済学を総ざらえして独裁国家の裏の繋がりを調べ上げた。裏の繋がりから軍部の派閥を特定し、東側の諜報員に繋ぎを作り、偶然知り得た荒地の深層にある未だ見つかってなかった地下資源をリーク。

そこ迄が三週間程、残りの一週間は国のあちこちで様々な噂を流した。

『指導者が病で死にそう』『軍の大将の一人が至福を肥やしている』『指導者の甥がクーデターを画策してる』『とある大将が粛清をするべく動いている』『その大将は民の為に親身になる方だ』などをだ。

有る事無い事をごちゃ混ぜにし色々なモノを悪魔は風聞にして流す。

悪魔は知っていた、不満や命の危機に晒された民衆は自分の都合のいい事しか信じないと。

事実、それは二日と経たず国中に噂される、毒の風が吹き荒れたかの如く浸透していた。

そしてそれは起こる、悪魔が動き出して一カ月目、軍部の中で西側の諜報員から支援を受けた『民に親身になる』大将が内部クーデターを起こしたのだ。

クーデターはあっと言う間だった、通信施設やテレビ・ラジオ局を制圧し、独裁者とその一族を拘束。それで終了、独裁国家は一日で亡くなった。




これが三剣風文が行った国潰しの全容である。







その当時の事を思い出しながら、風文はあれは少し不確定要素があり過ぎの上に遊び過ぎたなと自嘲しながら、王宮の中を悠々自適に歩いていた。

あの作戦は荒地に未発見の地下資源を、偶然『風水』で見つけれたのが良かった。それにレアメタルや資材の値段が上がっていた世界の状況と、西側の諸国が産地を欲しがっていたのが更に幸運なだけだ。

それとあのクーデターの旗頭が欲にまみれてたのも要因で、軍内部の規律がしっかりしていたらクーデターはなかった。

だが何より不満だったのは。


「こんな風に自らの手を出さなかったのがな」


王宮の中は様々な調度品や装飾がなされている。それは入った者に王の権勢を伝えるモノであるが、他に目的がある。それの答えは、風文に切っ先が向いた飛来する投げナイフだ。

風文の虚をついて投げられたナイフだったのだろうが、彼は危なげもなくナイフの柄を持ち止める。


「……ふむ。つや消しのナイフに、恐らくは筋弛緩剤系の毒かな? ほら、受け取れ返すぞ」


風文の腕が瞬く、次の瞬間には壁の向こうから響く、くぐもった呻き声。

調度品や装飾にカモフラージュされた隠し通路の入り口を、風文はそっと開くと、中にはナイフに腕を貫かれた黒尽くめの人物がいた。


「隠し通路は定番だな。さて」


黒尽くめの人物に刺さったナイフを抜くと風文は紙の束を周囲に振りまいた。


「其は鼠なり、急々如律令」


周囲にばら撒いた紙が小さな鼠へと変わる、その数数百。

小さな鼠の群はその瞳を全て風文に向け、今か今かと命令を待っていた。


「さて、この場所にいる君に聞きたい事があるんだ」


小さな目を他所に風文は黒尽くめの人物の首を掴み持ち上げる。


「先触があったか? そう勇者とその一行の先触が」


黒尽くめの人物は口を開かない。いや、開かないのではなく、ナイフに塗られた毒で口もきけない状態だった。

しかし黒尽くめの人物はそうでなくとも、目の前の男が恐ろしくてたまらず動けなかっただろう。

目の前の男は王宮の通路に突然現れた。王宮の入り口には衛兵や、自分以外の影がいるのだ。

なのに、目の前の男は突然現れた上に、衛兵や影の前を初めからいないかの様に素通りしたのだ。


「毒の影響なのだから喋らなくてもいいよ。………なるほどあったか、もう一つ聞いてみよう。先触にはこうあったんじゃないかな? 勇者死亡って」


更に恐ろしいのはこれだ。黒尽くめの人物は自分が使う武器には、一擦りでもすれば身体が麻痺する毒が塗ってあった。

だからこそ今の身体が動かず声すらも出せないのは当たり前の筈なのに。


何故、自分の思考が読まれているのか?


「困惑しているな? 簡単な事さ、君の脈拍と瞳孔の開きで思考を読んでるのさ」

〈馬鹿なっ〉

「いやいや、本当さ。まあ、誘導しているのは確かだがね? しかし、予定より早いな。君達の世界の人間にしては仕事が早い……ひとつ聞くが、君は勇者暗殺計画って解るか?」


黒尽くめの人物の頭が真っ白になる。


『何だそれは? 女神が遣わした世界を救う勇者を暗殺?』

「………混乱? と言う事は、一部の暴走か、もしくは重要情報の限定的な分配…はないな、こんな危険な情報は出すのがおかしい。となると危険思想を持つ集団か……とすれば国自体に問題があるな」


ブツブツと呟く風文に不穏な空気を感じ、黒尽くめの人物は混乱する思考を落ち着かせ、ジッと風文を見つめる。


「? ああ、何、この国を更地にする予定が早まっただけさ」

〈な、に〉

「君達の神は言わなかったか? 我々の世界には『汝、隣人を愛せよ』なんて解りやすく深い言葉があるんだ。砂漠の民が信仰する宗教が元になってるからか、他人に対するイザコザを無くすためにって言う戒めの様なものなんだ」


とある宗教は元は砂漠の民が過酷な環境を生きる為に、人との協調をもって生き残るための戒律を作った。それがベースにある宗教の神の言葉は終始、人との協調性を失わない為の戒めの言葉が多い。


「人と人が憎しみ合えば、いずれ人同士が争う。争えば疲弊し自滅するからな。そう、今の様に」

〈今の?〉


黒尽くめの人物は今の危機感を忘れ茫然とする。

人同士の争い、黒尽くめの人物にとってそれは今無いはずだ。諜報を担う自分が知らない、目の前の男が何を言っているか解らない。


「解らないか? では君には、もう一つ別の言葉を贈ろう。『因果応報』と。この言葉は、行いは大小変わらず総て報いがある、と言う意味だ。解るか?例えば、君が人に恵みを与えたとする。そうするとその人が……まあ助かるとしよう。その人間が生き残ったおかげで大商会を設立、そうしたら税金が国に入り君の給金が上がるかもしれない。ほら、君にマルッと廻って帰ってくる」


風文は黒尽くめの人物を掴む逆の手で、綺麗な円を描く。


「まあ、これは良い事をした場合だがね。悪い事をしても起こるのさ、これを俗にカルマとか言う。これは大小に限らずある。小さくて微生物単位、大きくて国や世界単位で。さて問題だ。君達ひいては国単位や世界単位で、何か応報がある事をして無いかな?」


ニッコリと笑う風文。

それは満面の笑みと言われる、とても嬉しそうな輝かんばかりの笑顔だが、黒尽くめの人物は身の毛がよだつ程の悪寒が走った。

そして今までの会話で理解した。


「……勇者暗殺計画がこの国を消す理由」

「そう、その通りだ‼︎ おめでとうっ‼︎ 君は今この時点で、この顛末を語る語り部となる」


ようやく薬の効力が切れはじめたのか、喋れる様になった黒尽くめの人物が振り絞る様に喋る。すると風文は黒尽くめの人物を鼠の群れの中に投げ捨てた。


「君達人間は今から冬の時代が来る、これは人間・魔族・妖精・獣人、この世界総ての罪に対する罰と知れ。行け鼠達よ、そいつを運び厄災の先触となれ」

「なっ」


待機していた大量の鼠が動き出す。一部の鼠は黒尽くめの人物を運び、それ以外は四方八方へと散り沈む船を逃げ出す様に振る舞った。

それを見届けると、風文は懐から通信機を取り出す。


「予定が早まった。作戦は前倒しする、勇者以外の勇者パーティが到着次第始める。ウズーマはシナリオ通りに、輝夜は例の物を指定の場所に、場所は緯度60 47 58、経度178 36 37。地表から1000000メートル」

『了解』

『了解しました。………風文さん、ちなみにコレなんですか? でっかい棒なんですけど』





「ただの神の杖さ、名前はグングニールってな」


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