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神遊び唄  作者: オピオイド
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崩壊の足音


「おい聞いたか? 勇者様達が魔王の城に乗り込むってさ」

「なんだよ、またか? 先週もそんな事言ってなかったか?」


ロクサーヌ王国の城下町。大通りから一本外れた市場通りでは、噂話に興じる店主達がいた。


「確かに先週も言ったけど、今度は本当なんだってマジで」

「あー分かった分かった。良いから落ち着けって果物屋、お客さん来てんぞ」

「オッちゃん、そこの赤いの三つと黄色いの一房」

「あいよ。合わせて銅貨50枚ね」

「あれっ? 高くない? 先々週買った時は銅貨40枚だったよね」


目深に被ったキャスケット帽を被った少年に、果物屋の親父は苦笑いだ。


「すまねぇな坊主。南の樹海でなんかあったらしくてな、南方産の果物は軒並み高くなってんのよ」

「えーマジで?」

「マジもマジよ。てか、うちだけじゃない、ここいらの市場は何処もこんな感じさ。見てみな、人が少ないだろ?」


少年が店主に促されて見てみると、市場通りがいつもより少ない気がする。


「何か少ないね」

「そりゃあな。最近の天災とやらで忙しい上に、他国からの物資が入って来ないからな。うちはまだいい方だけど、今は何処も苦しいのさ」

「お前のとこは嫁さんが優秀だからなぁ」

「やかましい穀物屋」

「嫁さんが優秀なの?」

「そうそう、こいつの嫁さん魔法が一つだけ使えてな。その魔法で天災前に買い集めてた果物を大量に保存して、今売ってるって訳さ」


ニヤニヤと笑う穀物屋と少年が果物屋を見ると、店主はソッポを向いていた。

成る程、穀物屋さんはいつも果物屋さんの惚気の様な自慢話を聞かされて、いま反撃に出た訳だと少年は納得する。


「よっぽどお嫁さんが好きなんだね〜。所でさ、天災って言うけど何でみんな困ってんの?」

「……そりゃあお前、話によると南は今さっきの奴、穀物屋のトコは…」

「うちは穀倉地帯の長雨と蝗の大量発生だよ」


これ幸いと果物屋は話を変えるが、出たのは最近の暗い話。

南の樹海が封鎖された、北の山岳地が大規模な地滑りを起こし街が壊滅して材木どころか薪が少ない、西の穀倉地帯が長雨と蝗で大打撃。

そんな話が飛び交うと、店が暇なのか近くの屋台の店主も話に加わってくる。


「うちもヤバイよ。今月は何とかなるけどよ、来月は…」

「バッカ、おめーはまだ良いよ。うちは材料の木材すらねーよ。嫁さんに何て言や良いんだよ」

「うちも、そうなんだよなー。かーちゃんに、こっ酷くどやされるよ」

「っても、どーする事も出来ねぇよ。材料すらねぇんだから。…そういや果物屋、さっき勇者様の話ししてなかったか?」


ボヤく市場の店主達に話を振られると、果物屋は出番だと息巻く。


「おうよ、勇者様がとうとう魔王を倒しに行くらしいぜっ」

「おめーよぉ、先週も同じ事言ってなかったか?」

「いっいや今度こそ本当なんだって、だって司祭様が言ってたんだから」

「司祭様が?」


果物屋が言うには、教団にお布施代わりの果物を持って行った時に聞いた話らしい。

曰く、神託があり今起こっている天変地異の様な天災は魔族が引き起こしている事。それにより今後、神託が授けられない事。事態を解決するには魔王を倒し、魔王を操る魔神を封印する事。


「なんだいそりゃあ。かなりの一大事じゃないか。つーか、なんでそんなデカイ話をそこら辺の果物屋に話す司祭様が居るんだよ。作り話じゃねーのか?」


あまりの大きな話に細工屋の主人を始め周りは疑いの目で見る。


「ちっ違げーよ。たまたま聞こえたんだよ」

「テメッ、盗み聞きしたなっ罰あたりな野郎だ」


周りの人は口早に罵倒する中、買い物中の少年は頭を傾げ納得いかない顔をしていた。


「なぁ、おじさん。盗み聞きって本当?」

「えっあー、スマンな坊主。本当なんだ、反省してるってマジでホントホント」

「ふーん」


周りから非難の視線を浴びる果物屋の主人を後に、少年は踵を返す。


「盗み聞きなら信憑性が高いね。……コレは忠告。早くこの国から出た方がいいよ」

「どういう事だい坊主」

「言葉のままさ。天変地異が魔族の仕業なら、それは確実に戦争をするためなんだよね? ちなみに今この国がどういう風になってると思う?」

「そりゃ、北の方は山崩れで木材がない上に道は塞がれ。南の販路は潰れ、穀倉地帯は………」


そこまで言って気付いたのか穀物屋は絶句する。いや周りの人間も気付いたらしく、声もでない。


「だよね。完全にこの国、詰み始めてるよね」


穀物屋は気付く、穀倉地帯が大打撃を受けた上に食料を入れるための販路が潰されているのだ。

細工屋も気付く、北の山岳地には材木だけじゃない更に北の鉱山との道があったのだ、それが潰れているとしたら?

果物屋は顔を青くする。南の販路は果物だけじゃない、岩塩だけでは賄えない塩の販路があるのだそれが途絶えたとしたらどうなるか。


「気付いた? 自分が言えるのは後コレだけかな? 勇者様がもし魔王を倒したとしても、事態の収拾までいつ迄かかるか。勇者様がいない疲弊した国を魔族が放って置くと考えないと念頭に置いてね? あとそれと……」


踵を返した足はスタスタとその場を離れる。


「私、坊主じゃないよ?」

「女? っておい」

「縁があったらまた会いましょう? またね〜」


少女は足早に去って行く。

その場にいくつかの謎と、ベットリと粘着する気持ち悪い不安を残し。








スタスタと足早に歩く少女は路地裏に入る。

追っ手や尾行している人物がいないかを何度も確かめながら。

何度も曲がりながら、振り切る様に歩く。

すると路地裏の一画に壁に寄りかかって立つ男が一人見える。

その姿を見ると、少女は袋の中から果物屋で買った赤い身を一つ取り出し、男に放り投げた。


「情でも湧いたか?」

「いや、特には? ただ、罪もない無辜の民だなーって」

「はっ。無辜の民なんぞ夢幻さ。いるのは自分が生きるので精一杯とか言って、周りが見えずただただ従う盲目の羊だけさ」

「生きるのは罪ですか?」

「罪のない生物なんぞいない。輝夜、いるのは業が深い人間か浅い人間だけだ」


壁に寄りかかる男、風文に断言されて輝夜はなんとも言えない顔で黙り込む。

怒る風文に言葉を持たない輝夜は、自分自身の未熟さに臍を噛む勢いだった。


「………君は、少し優し過ぎるな」

「………」


優しい筈はないと輝夜は自重する。

今回の話の意味はわかっているつもりだ。


「今回の話には二つの側面がある。一つは願い、少々誘導したが彼の願いだ。解るな?」


コクリと無言で頷く輝夜。彼女の目には涙が薄っすらと浮かんでいる。


「もう一つは他の世界の神に対する警告、見せしめでもある。安易な力、安易な方法で他を犠牲にする神に対するモノだ」


そうコレは警告でもある。

近年、神の世界に置いて自分が管理する世界を治めきれない神が増えてきていた。

力が無い神が増えたのか簡単に神になれる世界の土壌が悪いのか、その現状に対して世界を運営する主神達は頭を抱えるしかなかった。

そこで世界を越えた主神達の組合『主神組合』は色々な対処をとる事になる。


「観星も頑張ってはいたらしいが、最近は酷いらしくてな」

「頑張ってたってあの魔王ゴッコとかです?」

「ゴッコ…まっまぁそれもだ」


主神組合の中には世界再生会と言う勉強会がある。

この勉強会は読んで字の如く、世界を再生させる為のモノだ。

世界を立て直すために、世界で共通の敵を作ってみたり、技術革新の為のブレイクスルー行ったり、崩壊しない為の立法作りなどだ。

観星の魔王ゴッコ(同作品 天浮橋を参照)もその一環である。


「ただ、話によるとコレは組合の中だけで上手く行っていてな」

「組合以外の主神が好き勝手やっていると?」

「そういう事だ。そして最近増えてきているそんな時に」

「彼らが天浮橋に来たと?」

「その通りだ」


近年に置いては特に酷いの一言で、神による他世界の襲撃や拉致誘拐が横行している。

その被害に対して主神組合は様々な手を打って来たが、とうとう我慢の限界。

そんな中、天浮橋に被害者が来たわけだった。

それに対し主神組合は、組合員の中でも幹部クラスの観星に依頼。

それが今回の粛清劇が始まった訳だった。


「でも、観星さんの性格上……」

「ああ、あまりやりたがらないだろうな。だからこそ、俺が誘導したんだ。ちょっと試したい事が、」

「風文さん……」


輝夜は涙目で風文をみる。

するとさしもの風文は女の涙には弱いのか、頭の後ろをガリガリと掻くと参ったとばかりに両手を挙げた。


「あー、解ったよ。滅ぼすにしても最小限にするよ」


三剣風文、生涯においての数少ない敗北。

決まり手は女の涙である。


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