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神遊び唄  作者: オピオイド
31/43

混乱の極み

「さて落ち着いて剣を置いて……」

「煩いっ。何者か解らない奴の言うことなんて聞けるかっ‼︎」



勇者こと御崎 輪は怒りと言う激情に振り回されながらも、周囲を観察していた。

自分が寝かされていたのは柔らかいベッドだった、異世界では高級品で王城や貴族や富裕層以外では無かったはずだ。ガラスが嵌められた窓や通路のタイル張りの廊下だってそうだ。

しかし目の前の男はなんだ、金髪で碧眼だが顔付きは、散々西欧顔を見てきたからよく解る、日本人に近い。あまつさえ服装が黒い詰襟の学生服に似ていて、カーキ色のコート。何より腰には。


「日本刀………」

「ん? 珍しいか? まあ異世界に拉致られたから珍しいだろうな」

「お前答えろ‼︎ ここはどこだ、あんたらは何なんだっ⁉︎ 何で魔王と一緒にいるっ‼︎」

「やれやれ、冷静になったかと思えば頭に血が上っているな。仕方がないもう一回眠らせるか。観星、空間操作頼むぞ」

「オッケー、位相をズラすわよ」


観星手が振られた瞬間、風文と輪以外の全てが文字通り『ズレた』。


「っ‼︎」

「さてここならいくら暴れても大丈夫だ。行くぞ」


輪は何が起こったか理解できない、むしろ気持ち悪い。目に映る全てのモノが方解石に通して見た風景の様になっているからだ。


「グッ」


気持ちが悪いがそれ以前の問題は目の前の男だ。正体不明の人間がゆっくりと歩いて来ている。


「なんだっ⁉︎」


歩いてきている、だが速度がおかしい。ゆっくりと歩いてる筈なのに二人の間はアッと言う間に詰められている。輪は剣を強化した身体で振るう。

切っ先が風文の身体に届く、そう思われた剣は幻影を切り裂いたかの様に身体を通り抜けた。


「なっなんだとっ!」


輪は異世界に渡り魔王を倒すべく、三年に近く身体と技術を鍛えてきた。魔物も魔人も、異世界にいる強者だってこの手で打ち倒した。だからこそ自分の実力が並々ならぬモノだと知っている。だからこそ今の一撃が魔法なんかじゃなく、体術によって避けられたのが解る。


「あんた、本当に何者だよ」

「ただの戦闘者さ」


キンッと鳴る鍔鳴りに、輪は反射的に剣を盾にして後ろに跳ぶ。


「三剣神道流 暴風」


居合の様に振り抜かれた刀は輪の剣に当たると同時に、恐ろしいまでの衝撃を輪の手に伝え身体ごと吹き飛ばす。


「ガッ」

「ゆっくりとやるから防げよ?」


振り抜いた刀を下段に構えた風文が、先程と同じ様に歩いているのに吹き飛ばされた輪に追いつき切り上げる。

輪は空中で体制を整えながら、痺れた手で振り下ろし切り上げた刀を迎え撃つ。

交差するかと思われた剣と刀は交わらない。

風文が手を緩め刀の角度を変え、剣が当たる瞬間に刀の腹で受け流したのだ。

ギャリリッと音を立てながら流れる剣と空中のため体制が崩れる輪。

剣とは違う刀。その緩やに湾曲した刀の形状は直剣とは違い受け流しやすいのだ。受け流しの利点それは攻撃をいなすのとは違い、剣のベクトルを違う方向へと向かわせる。そしてそれだけではない、最大の利点は


(マズイっ‼︎)


受け流された為に輪の『無防備な側面』があらわになっていた。

そう最大の利点とは、相手攻撃を受け流したと同時に相手の無防備な側面へ回りこめるのだ。

しかし輪も歴戦の勇者だ、慌てず口で力あるワードどを放つ。


「炎よっ! 彼のモノを貫く……」

「其は正に非じ魔なるモノ、あるべからずモノを禁ず 急急如律令」


本来ならば槍の様な炎を放つ魔法。それを輪は放ち、距離をとるあわよくば倒すつもりだった。だがその魔法は発動する前に、文字通り消されてしまった。

輪の側面に浮かぼうとしていた炎の塊は形作る前に、最初からなかったかの様に消え去った。


「えっ⁉︎」


撃ち落とされるや障壁で防がれるとは違うあまりの事態に、思わず惚けてしまう輪。

致命的である。


「もう少し寝てるといい」


着地した足が払われ、身体が宙に浮いた瞬間に後頭部に走る痛みに意識は途切れた。





その戦闘にかかった時間は数十秒。あっさりと沈められソファに横たわれた勇者を見た魔王は、それを成した目の前で紅茶を飲んでくつろぐ男を、ようやく平静を保てる様になった頭で分析する。

あっさりと沈んだ勇者だが、あれでも自分の世界では最終兵器とも揶揄されるトップクラスの化け物だ。

それを数十秒で無力化する、例え混乱していて本調子ではないと言っても、あり得ない事だった。


「ん? 理性を取り戻したか?」

「うむ、ようやく取り戻した。失態を見せた様で恥じるばかりだ」

「魔王だけあって威厳は確かにあるよね」

「観星は威厳がなさ過ぎるけどね」

「輝夜酷いよ〜酷いから数値いじっちゃおう」

「ちょっ何処までやったか判んなくなるって‼︎」

「……」

「……」


会話をする魔王と風文は、明らかに温度差が違う会話に苦笑い。

何をやっているのかと思い魔王がそっと覗くと目を剥き驚いた。

二人は机に乗せた紙に数式や方陣を細かく書いていた。しかし驚いたのはそこじゃない。


「封滅陣の魔法陣⁉︎」

「あら? これそんな名前なんだ」

「空間に穴を開けられるだけの簡単な魔法です」


ケタケタ何が面白いか解らないのに笑う二人を放っておき、風文は書き連ねた紙の一枚をとる。


「空間操作で一時的に閉鎖系の世界に変化させて、エネルギーを高める? 空間操作の式が内部エネルギーに対しパラメーターが低すぎるな。核融合を安全にする為の魔法にしちゃ、お粗末過ぎる」

「余剰エネルギーだけで100キロ四方を地獄に変える可能性があるわよこれ。こういう時は安全弁として亜空間にエネルギーを飛ばすのが三世代前のトレンドなんだけど、それすらも付いてないと言う欠陥術式」

「観星、観星。それだけじゃないわよ。中の質量によっちゃ、良くて超新星爆発、悪くてマイクロブラックホールだよ。パラメーターや星の組成で下手したら星が割れる」


魔王は目の前の三人が言っている事がよくわからないが、端々から解る事から自分達が受けた魔法がとんでもない欠陥魔法と言う事だとわかる。

しかも、それが喪失魔法の話題だから尚更魔王は慌てる。


「えーあー。お三方、少し良いだろうか? 」

「うん?」

「すまないが、事情の説明を願う」

「あー、そうだった。忘れてた、ごめんごめん」


包帯で顔の上半分を隠した女性が誤魔化す様に笑うと、居住まいを正す。


「記憶がないと思うけど。ようこそ‼︎ 天浮舟へ。ここはあらゆる世界から弾き出されたモノ達の深淵の漂着地。何兆分の一より天文学的数字の確率で漂着したあなた達を私は歓迎するわ」


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