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神遊び唄  作者: オピオイド
30/43

暴風と勇者

微睡。

目覚めと眠りの間。

フワフワとした心地よさの中、彼こと御崎みさき りんは意識を取り戻した。


「起きたか、自分の事は解るか?」


自分? ああ解る。御崎 輪 17歳、何処にでもいる普通の高校生。


「今の状況は解るか?」


今の状況?………たしか、俺は学校帰りに光にのまれて、召喚されてたんだ。それでお姫様が、助けてくれって言うから……魔王を倒しに、仲間と……………あれ?


「直前の記憶がおぽろげか。治癒ではなく、『状態』の巻き戻しの影響か?」


いやたしか仲間と魔王城まで行ったんだ。………あ、ああ。そうだ裏切られたんだ。お前の様な化物は死んでこの世界の礎となれって、結界を張られて戦っていた魔王ごと……


「っ‼︎⁇ そうだっ空間ごと圧し潰すされた上に爆裂魔法がって………あれ? ここは何処だ?」


意識と記憶が戻り、唐突に覚醒した少年はガバリと掛けられていたシーツを振り払いながら起き上がる。

周りを見れば見知らぬ部屋で、最後の記憶と一致しない場所の上に、自分の身体にある筈の傷がない。

今までの事が夢かと言うかの如くの現実に、彼は困惑する。

そして何よりも。


「今、俺。誰と話してたんだ?」


微睡みながら話していた筈の人物がいないのだ。

まさに夢幻に語りかけられていたのかの様に。

彼の困惑は深まるばかりだった。





コツコツと鳴る足音。

しかしながら、音がするだけで音源は時刻館の廊下には一切姿を見せていない。

足音と共に聞こえるのは、くぐもった含み笑い。足音の軽快さから予想すれば、遊びに行く少年の様。

しばらくして音は大広間の前へとつく。不思議な事に扉に音が近づくにつれ、真っ白いカンバスに絵の具を吹き付けたかの様に空気に色がついていく。

色は人の輪郭を形作る。一歩一歩と影が歩く毎に、色は深みを増し人物を際立たせた。

くすんだ金髪に碧眼、彫りは少々深いが日本人の顔付き。柔和な人好きしそうな甘いマスクをしているが、口元は日本人らしくない獰猛な笑みを形作っていた。

嬉しそうに笑う彼の名は三剣風文、この地の守護をしている『四象神』の一人だ。

彼は大広間の扉を開くと、中にいた観星達の元へとツカツカと歩み寄る。


「風文、彼起きた?」

「ああ。一応聞き取りもしてみたが、彼女から聞いた以上の事は解らんな」

「ひっ」


ため息混じりに風文が、テーブルを挟んで観星が座る反対側に座る女性を見ると、彼女はガタガタと震えだす。

女性の姿は黒一色のゴシックドレス、病弱かと思われる程の白い肌と米神から伸びる捻れた角が特徴的で、勝気な目付きと威厳が湛えられた口元は見るも無惨な程に恐怖に彩られていた。


「あらあら、珍しい。風文が女性に怯えられている。真なる女性の敵がとうとう衆目に晒されるのね」

「人聞きの悪い事を言うなよ観星。とは言え、確かに珍しいな。………ふむ」


怯える女性の目をじっと見る風文。眼光は鋭く、女性の心を鋭く切開するかの様に探っている。そのせいか、女性の震えはやや激しくなっていた。


「貴様、見えているな? 神に近い目、いや感覚か。神域結界を強化した途端にこれは間違いないな」

「そう思うんなら止めてあげなさいよ。魔王とは言え女の子なんだから、いじめちゃダメよ?」


風文の言うことは事実だった。

彼女は魔王だ。しかも魔法を極めた頭脳インテリ系の魔王である。

彼女の強みは分析や解析、相手の弱点や弱みだけでは無く、心理や戦術を読み取り理詰めで圧倒するタイプだ。

しかしながら、魔王な彼女でも目の前の面子は、恐怖をコントロールできる彼女に『本当の』恐怖をおもいださせた。分析や解析の能力が通じないのだ。

彼女が得意とする魔法に『アナライズと言うものがある。相手の状態や性質を見抜く特殊な魔法で、高レベルの使い手である彼女は、プライベートなども解析できる。しかし今、その魔法は使えない。今までも発動はしても阻害はされたりはしていたが、発動すらしない。しかも発動しないのはその魔法だけじゃない、攻撃魔法から身体強化の魔法、初歩的な魔法のことごとくが発動しないのだ。

彼女にとって初めての事に、文字通り手を縛られ目を塞がれたかの状況に、さしもの彼女も恐怖するしかなかったのは仕方がない。


「イジメ……ね。ん?」

「あれ?」

「うわっ‼︎」

「ひっ、ゆっ勇者⁉︎」


バンッという扉が乱暴に開かれると同時に現れたのは、先程目覚めたばかりの少年だった。


「ここはっ魔王っ⁉︎ クソッヤッパリ裏切った奴の仲間かっ‼︎ 俺は、俺は元の世界に戻るために諦めるわけにはいかないんだっ‼︎」

「…………」

「…………」

「………観星。彼錯乱してない?」


乱入してきた勇者と呼ばれた少年は、剣を片手に錯乱していた。

仕方があるまい、何せ死にかけて目覚めたら傷がなくなっていて、なおかつ知らない場所だ。

錯乱しない方がおかしいが、正直な話として空気の温度差が激しくてどうして良いかわからない。


「まっ、こういう時の方法は一つだ」


風文が少年に相対する。


「裏切りとか勇者とか言ってたから、何かあったのはなんと無く分かった。しかし、今俺はこの地の守護を任されていてな。お前の相手をすると同時に想いを受け止めてやろう」




「ねえ観星。なんか違和感が……」

「多分、彼が剣を持ってるのじゃない? 多分風文がワザと置いていたんだと思う。こうなる事を見越して」

「ふぁぁ、あの人良い人なのかな?」

「輝夜、流石にちょろすぎない?」

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