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神遊び唄  作者: オピオイド
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月の女神と風の冒険

「もうね、もうね……」


大広間の真ん中にある居住スペースは、聞くも涙 語るも涙のお悩み相談コーナーになっていた。

椅子に座って作ってもらったチャーハンを男らしく口に掻き込みながらエグエグと泣く少女と、それを見守る褐色の肌をした寝間着姿の女性マリアージュ、その少女の横にはウンザリした表情の小柄な少女の栞。エルフェルトは自分で作ったチャーハンを食べながら今一だなとこぼしていた。


「聞いてくださいよもうっ‼︎」

「聞いてるわよ輝夜、ただ落ちが解ってるから」

「落ちって何ですか落ちって‼︎ 私だってね、こんな能力じゃなきゃっていつでも思いますよぐぇっ⁉︎」

「気持ちは解るが、深夜に騒ぐな」


チャーハンを飛び散らしながらガーッと叫び出す少女こと輝夜は、エルフェルトの有難い手刀でチャーハンの中に撃沈した。

彼女の名前は長月ながつき 輝夜かぐや、天に帰ったとされる かぐや姫の娘である。

かぐや姫の物語は諸説いくつもあり、一番古いのは千年以上前だ。

その娘が何故ここにいるのか? かぐや姫の物語に出てきた不老不死の薬を飲んだ訳でも、励起法を使って長生きしている訳でもない。千年以上を生きているその疑問の答えは、彼女のその能力にある。

彼女の能力、『月虹』は能力者の中でも珍しい空間移動系の能力で、その中でも彼女しか使えない能力なのだ

端的に言えば、移動するのは空間は空間でも『時空間』だったりする。

事の始まりは数年前、この世界の主神たる観星が時空間の揺らぎを感知した事から始まった。

観星が管理するこの世界は、驚く程外部の世界からの干渉が少ない。何故ならば、観星が世界を外から干渉ができない様に世界を制御しているからだ。そんな彼女が管理する世界に時空間からの干渉、それは過去もしくは未来からの干渉にしかない。

この時の干渉は過去からの来訪者だった、時空間の揺らぎは歪みとなり形を持ち色を持った。

最終的に現れたのは水干すいかんを着た男装の少女、これが始まり。

それから観星に保護され訳を聞いたところ、彼女は絶賛家出中で、能力を使い移動しようとしたところ、自分でも理解していない能力で『つい』時間の壁を突破したと言うか流されたと言うか。

それからの彼女の生活は一変した、なにせ千年以上前の過去の人間だ。カルチャーショツクはさもありなん、服飾 食事 生活様式などの衣食住からあらゆるモノが違う。

そして生活基盤を整える最大のモノ、金が無いのを気付かされ、借金して学校に通い、さらに借金返済の為にバイトを始めたのが最近である。

かなり端折ってたが、これが彼女の概要である。


「バイトがキツイのはわかるけど、そんなに泣かなくてもいいんじゃない? 」

「泣きますよっ‼︎ そりゃあ私も友達と遊ぶお金とかも欲しいから、『時間』がとれてお金になるバイト頼みましたけど……あんな上司がいるブラックな所だと思いませんよっ‼︎」


それを聞いた栞以外の面子は苦笑い。栞はなんの事か分からないので、マリアージュに問いかけた。


「どういう事?」

「どうも時空間移動が出来るのを活かす為に、観星さんが世界外部からの依頼を任したみたいなんです……風文兄さんを上司にして」

「あー………………御愁傷様」


風文の名前を聞いた時点で栞は納得する。

三剣みつるぎ 風文かざふみ八方塞の南門にして、十代から『謀滅』とか『凶滅の追風』とかの異名を持つ能力者。

栞はあの黒髪の青年と何度か仕事をしているから良く解る。あの男の未来予知にも似た馬鹿げた指揮能力と運営能力を。


「御愁傷様じゃないですよ〜何ですかあの人〜。休みが欲しいって言ってるのに『励起法』でどうにかできるって三日完徹だし。因果律調整するって言って能力をガンガン使わせるし、ほーら行ってコーイって飼い犬の遊びみたいに万の軍勢の真ん中に叩き込まれるし、異世界の言語を無理やり2日で覚えさせられながら間諜させられるし。でも、目を見つめられて『お前のお蔭でとても助かった。ありがとう』って言われた時や美味しいご飯に連れてってくれた時は……」

「なんと言う飴と鞭」

「この子がチョロいんだか、あいつが悪魔なんだか悩む所ね」

「流石兄さん」


なんと言うカオス。栞は微妙にトリップしかけている輝夜に手刀を繰り出し元に戻す。


「ちょっと正気に戻りなさい」

「ぐぎゅって、栞さん痛いですよ」

「変な方向に行く方が悪い。でもバイトとか言ってた割にキツイ仕事みたいだったけど?」

「ええ、かーなーりキツかったですよ。なんせ時給1万に危険手当までついて5500万円になりました‼︎」

「ブッ」


栞は思わず噴いてしまう。


「ちょっ何その大金」

「いやー大学資金まで貯めれて良かったですよ」


どういう事と再びマリアージュを見る栞だが、見られた彼女は首を傾げていた。

彼女が知らないのでエルフェルトをみるが彼も頭を振っていた。


「凄い大金だけど貴女、風文とどんな仕事したの?」

「んー私は小間使いみたいに使われてただけなんで良くわからないんですけど、風文さんが言ってました」

「なんて?」

「勇者を召喚する対価を払わせるって」


輝夜以外の面子は嫌な予感しかなかった。


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